23.チモシーの謎を突き止めろ
俺は当初チモシーには、ぜったいに関わらないと決めていたはずだ。
何故なら出会って間もない頃に観た【能力閲覧】魔法での情報は、どう考えても関わったが最後ヤバイことに巻き込まれるとわかりきっていたからだ。
その時の内容は。
名 前:チモシー
種 族:天魔神族
生命力:100%(健康)
年 齢:8歳
スキル:
武術スキル:
杖術(40)
剣術(40)
魔法スキル:
風魔法(69)
特殊スキル:
迷える幼子
閲覧不可
武術スキルや魔法スキルは問題ない。この際8歳だと言うのに、身長175センチくらいあって、美しく整った顔をしていて、緑の髪と瞳を持っていたとしても問題ではない。
問題はチモシーの種族だ。
俺が、この世界に来てしまってから、最初に出会ったのは魔神の使いである巫女さんだ、そして次に合ったのは姿を見ただけで天誅するという、天神の使いである二人組と猿。そして魔神の守護竜。
そう言えば猿は、どうやって魔神の守護竜を抜けてきたんだろうか。結局わからなかったが、今更だ。
魔神側の巫女さんは、少しは責任を感じていたみたいな気がするから俺としては良いのだが、魑魅魍魎の魔王は駄目だ恐すぎる。
天神側は上から目線で話してくるだけで良い印象がまったくない。次はきっと天誅される。出逢ったらぜったいに駄目だ。本気で関わりたくない。
そんな魔神と天神の名が含まれている天魔神族が、勇者チームと組んでいるなんて、世界の行く末に関わるような厄介事が、この先に待ち受けているとしか考えられない。
そんな厄介事の爆弾を抱えているに違いないチモシーに関わったとしても、治安の良い場所までシュン達に送ってもらうまでだったはず。
予定では、国同士の戦いも久しく無く、治安の良い王都に着いて、更に大金も手に入れたのだから、観光しながら異世界生活をエンジョイするはずだった。そして都会の水が合わなければ、一人ならどうとでもなるし、安全そうな山にでも引き隠ろうとも考えていた。
なので基本的には、誰にも気兼ねすることの無い、一人生活をするつもりだった。
だから関わりを完全に絶つために勇者チームには入らなかったのだと言うのに、何故か俺は、やったことなんて無いハウスキーパーになってるし。今回の魔王戦にも同行参加してるし。まったく関係を絶てていない。
これくらいなら大丈夫か。
それくらいならやろう。
こうなってしまったのならしかたない。
俺は40歳のいい年した大人だ。いくら右も左も判らない異世界に来てしまったとして、こんな後先まで考えていないような考えをしてしまうのはおかしい。
おかしいけど、チモシーに何か言われると理性よりも感情を優先してしまっている。こんなのまるで、俺がチモシーに恋しているみたいじゃないか。
確かに、大好きと言われた時、もしかしてと考えてしまい、浮かれてしまったが、俺が恋してしまっていた訳ではない。
言い訳には違いないが、あり得ない状況に感情が暴走していただけだ。
その証拠にチモシーの行動に疑問を感じた時、冷静になれたのだから……。
この魔王戦に参加する切っ掛けも含め、こうして考え直してみると、チモシーを起点として、俺の思考が変わっていることがわかる。
そんなこと普通でも良くあると思われるが、実は、わかるようになった理由がある。それは突然思考がクリアになったからだ。
その事により、俺はある影響をチモシーから受けていた事がわかったのだ。
その事を解決出来ないのなら、ここまで来ておきながら、投げ出すようでシュン達には申し訳ないが、俺は直ぐにでも、ここから離れる。たとえ魔物や天物と一人では戦えないとしてもだ。
とは言え。チモシーは見た目は大人だが、心は8歳の子供だ。回りくどい言い方をしても欲しい回答は得られないだろう。
なので。隣に座っているチモシーに顔を向けて。
「なぁ、チモシー」
「ん……なに」
「チモシーは、俺をどうしたいんだ」
「ん……ジン……も爺」
「真面目な話だから、『じゃ』は無しだ」
「ん……そう」
「……」
「……」
「どうしたい」
「ん…………居たい」
「なんで一緒に居たいのかな。もしかして俺の作ったサラダが好きだからかな」
「ん……サラダ……好き」
「サラダが好きならチモシー。君に作り方を教えるよ」
「ジン……サラダ……好き……君?……知らなくていい」
「でも、今回は君にお願いされて来たけど、次回は来ないかもしれないし、そもそも俺みたいな力のない奴が、魔王と戦ったら死ぬかもしれない。だったら君はサラダの作り方を、聞いておいた方が良いんじゃないかい」
「死ぬの駄目……聞くの駄目……君……なんか嫌……ジン……居なくなる駄目」
少し強い口調でチモシーが話した時『君って言ってはいけない』『居なくなってはいけない』ような気がしたが、直ぐに霧散した。
やはり。どの程度までかわからないが、チモシーも他人の考えを観ることが出来るうえ、更に相手の意思を操ることが出来るんだ。
あとは、俺や3人を操って何をさせようとしているのかを聞かなければなるまい。
「俺は君の秘密を知っている」
「ん……秘密……わからない……君……嫌……ジン……知ってる?」
「あぁ、俺は知っている。君の秘密を知っているから、居なくなることを考えている」
「ジン……駄目……君……嫌……居なくなることを考えたら駄目」
「人はね、考えて、考えて、考え抜いて、自分の意思を決めて行動するんだ。俺も考え抜いて、君から離れる……君から見て居なくなることを決めたんだ」
「君……嫌……意思……わからない……お願い……みんな聞いてくれる……でも……ジン……駄目……何故」
「俺が君の秘密を知っているからだ。君は誰かに秘密を使って何かしろと言われたのかい」
「君……嫌……秘密……わからない……悪い……優しい……母親……倉庫……出た……逃げた……一人……駄目……頼れ……お願い……生き抜く手段……何故……駄目……わからない……ジン……教えて」
並列思考で理解しようとしたが無理だった。俺は他人の考えを観ることが出来るわけではないからだ。なので、根気よくチモシーの話を聞くことにした。そして理解出来たことは。
両親から、チモシーには秘密の能力があって、それは他人に願えば優しくしてもらえる幸せな能力だと聞いていた。
そして両親からは常々(ツネヅネ)、もし何かあったら、秘密の能力を使いなさいと言い聞かせられていた。
6歳のある日、チモシーは何か悪いことをしてしまったらしく、突然地下倉庫に閉じ込められてしまった。
その時、母親から「私が開けるまで外に出たら駄目」とだけ言われたらしい。
そして地下倉庫の扉が閉まった直後、大きな音が何度もして、いつの間にかしなくなった。
自分が悪いことをしたから罰として閉じ込められたのだから、赦されるまで待つしかないと思いチモシーは扉が開くのを待った。
地下倉庫内は光魔法の道具があるので、明るいのだが日の光は入らないので、閉じ込められてから、どれくらい経ったかわからない。
お腹が空いてきた。始めは我慢していたが、もう限界だ。幸い地下倉庫には水も食料もたくさんあったので、食べながら扉が開くのを待った。
食べて、寝て、起きて、扉が開くのを待ち、食べて、寝て、起きて、扉が開くのを待ち、数え切れないほど繰り返したが、扉は開くことがなかった。
それでも母親が扉を開けてくれるのを待っていたが、それも限界に来た。
そう、食料を食べきってしまった訳ではない。一部の生肉が腐ってしまい、強烈な腐敗臭を放ち始めたのだ、それでも我慢していたが、臭いと言う物は常に襲ってくる。
この地下倉庫はチモシーが酸欠にならないことからして多少の換気がされていた、とは言え、臭いは寝ている時は臭い夢を見せるし、食べている時は臭い味となる。
この時のトラウマからチモシーは、肉が嫌いになった。
そして臭いに耐えきれ無くなったチモシーは、扉を開けてしまう。
扉の先にあったのは、青空だった。
地下倉庫の出入口は、家の中にあったはずなのに、見えるのは青い空だけ。不思議に思ったチモシーは、出入口から頭を出して周囲を見ることにした。そして目に入ってきたのは、家の壁だった残骸があるのみ。
母親は開けてくれなかったのではなく、開けられなかったのだと理解した。
その時、チモシーは気が付いた。
チモシーと両親は、この地に着くまでに何度も襲われたし、チモシー自身も何度も拐われそうになった。
襲ってくる相手は、魔物、天物、拐おうとしてきたのは魔族、天族、そして人族。
チモシーは、魔族、天族、人族の何れかに、両親が拐われたのだと考え、両親を探す旅に出ることを決めた。
普通なら、天族も魔族も人族も全てを、恨み憎みそうだが、襲われたり、拐われそうになったりした時に助けてくれたのも、また天族や魔族、そして人族だったのだ。
なので天族、魔族、人族の、3族に対して忌諱は無いのだが、どの種族に両親が拐われたのか、殺されたのかわからない。
でも必ず見つけ出して、相応の報いを与えてやろう。幼心にそう決心したそうだ。
そして地下倉庫の箱に入っていた武器防具を装備して一人、旅に出たチモシーは魔物や天物に襲われつつも、風魔法と仕込み杖を駆使して撃退していった。
だが、稚拙な考えと戦い方しかしらないチモシー1人での戦いはすぐに限界を迎えた。
相手は集団であった。それもただの集団ではなく人族の人拐いである山賊であった。
チモシー1人では、山賊の仕掛けた巧妙な罠に抗う術は無かった。
魔力は尽き、仕込み杖も手元から離れ、山賊に囲まれてしまった。
「さっきちらっと顔が見えたが上玉だったぜ」
「こんな山奥だっちゅうのにラッキーだな」
「お前ら、顔は傷つけるなよ」
自分達の勝利を確信し口々に話し出す山賊達。
何故、魔物や天物のように自分を殺しにこないで、捕まえようとしているのかわからないが、とにかく捕まってはいけないという本能的な思いに従い最後の抵抗を試みるチモシーだったが、多勢に無勢。とうとう取り押さえられてしまう。
「よし。今夜は祭りだ」
「「「おぉ!」」」
チモシーは、自分を捕まえた事と祭りが繋がらないでいたので、どういうことなのか疑問に思いながら山賊達を見ると。
酒を飲む山賊、肉を食う山賊が観えた。そして次々に観えてくる、踊りをする自分、服を脱がされる自分、裸の自分。そして、のし掛かられて何かされている自分が観えた時に、初めて恐怖を感じた。
その瞬間、大きな悲鳴をあげていた。
悲鳴とは、普通自分以外の者に助けを呼ぶためにあげるものである。しかし、そもそも一人旅。更に人の居ない山奥で上がった悲鳴は、自分を捕らえた山賊以外の誰の元にも届く事なく消えていってしまうはずだった。
でも、その悲鳴のおかげでチモシーは、結果助かる事になった。
それは偶然なのか、それとも必然だったのか、魔王討伐を請け負っていた集団が近くにいたのだ。
そしてその集団のリーダーは考えるより感じろを素で行く人物だったのだ。
悲鳴を聞き付けた集団の行動は早かった。ロープで縛られ、身動きのとれなくなっていたチモシーを抱えあげて、拠点に戻ろうとした山賊が一番油断していた瞬間に強襲出来たのだから。
のちに、そのスピードと雷を操ることで、稲妻の勇者として名を広めることになるシュンが、チモシーを速攻で確保した。
そしてチモシーを抱えたシュンが、待避する時間を稼ぐべく放たれたミリィの土魔法による石礫が飛来する。
十分に時間稼ぎが出来たことにより、シュンが待避してきたと入れ換わりに、バロンがその重厚な肉体を見せつけながら山賊達を攻撃し蹴り散らかした。
チモシーをミリィに預けたシュンは、子分を置いて逃げ出していた山賊の頭に、あっという間に追い付くと命乞いをさせる間もなく一刀の下に切り棄てた。
こうして、山賊達は討伐されたのだが、チモシーは気が気でない。
なにせたった今、山賊とはいえ人族が、自分を捕らえたあとにしようとしていた考えを観てしまったのだ。
そして助けてくれたのも、また人族。縛られていたロープはほどかれているが。同じことを考えているのかもしれない。
なので、三人の考えを観てしまった……そしてようやく安堵できた。
三人が三人とも、自分のことを心配している考えが観えたからだ。
そしてこの人達なら大丈夫だと思い。自分の旅の目的を伝え、お願いした。
こうして、チモシーは現勇者チームであるワンピースと行動を共にしている。
と言う内容だったんだと思う。なんで思うかと言えば、所々ぶっ飛ぶ、短語で話すチモシーの話を並列思考で物語り風にしたのは俺だ。だから話の80%は俺の創作なので、何処まで真に近付けているかは不明だったりする。
何はさておき、チモシーの問題は解決した。
子供が親を探すなんて当たり前だ、逆もまたしかりだが。その為に意識してでもシュン達を利用しようとしているのは、一人では限界があると気がつけたことを誉めても、嫌悪することではない。
そして、信頼できる仲間となったシュン達が居て欲しいと考えてた、俺を、チモシーが引き留めようとするのは当然だと俺は考える。それに人の考えが観えて、自分の考えを相手に送れるのなら、言葉が少なくなってしまうのも頷ける。
チモシーの行動の原点が危惧していた天魔神族とは関係無く、子供ゆえの行動だとわかり一安心したので。
これで尋問を終わりにして、遅くなってしまったが昼御飯の準備に取り掛かろうとしたのだが。つい。
「天魔神族は関係なかったのか」と呟いてしまった。
「ん……んん!?……天魔神族!? ジンは天魔神族のことを知ってる。教えて。お願い、天魔神族の事、知りたい、言って、お願い、言って」
今までの短文話しは何だったのだろうと、引きながらも、今までに無いチモシーの迫力に押されて、俺は呆然としてしまっていたようだ。
次に気が付いた時には、俺はチモシーにベッドに押し倒されていた。
そしてチモシーは、俺の腰に股がり、俺の肩を両手で掴み、身体全身を使って揺すっている。そして。
「ジン、お願い、言って、(天魔神族の事を)知りたい、言って、お願い、言って、言って」と繰り返している。
これって、もしかしてデジャブパターンか?
俺は冷静な頭で、客観的に今の状態を把握した。
俺はベッドに腰を掛けている状態から押し倒された、と言うことは、部屋の扉に向かって足を向けている。
チモシーは俺の腰に股がり身体を揺すっているので、一見アレをしているように見えるが、俺はズボンをはいている。
しかも扉側に足が向いているのだから、ズボンをはいているのは一目瞭然。問題になるわけがない。
だと言うのに、このままでは駄目だと言う焦燥感に苛まれていた。
そして、まるで出待ちをしていたかの如くミリィがノックもしないで部屋の扉を開いた。
「ジン様、お疲れなら私が昼御飯の準備を……いたし、て、います、か?」
ミリィがおかしな事を口走っているけど、ズボンが見えないのか……あ、もしかして、チモシーのハサミを入れたことが無いくらい長い髪の毛が、腰回りを隠しているのか。
くそ、これが焦燥感の正体か。
だからと言って、今更どうしようもない。
ミリィはアレをいたしていると、誤解している。
しかも俺から見れば、チモシーは最初からクライマックスであったが、ミリィから見れば、丁度クライマックスに突入したところだと思ったに違いない。
きっとミリィには、こう聞こえているはずだ。
「ジン、イッて、お願い、イッて、(クライマックスの先を)知りたい、お願い、イッて、イッて」
チモシーに激しく揺すぶられている俺に「お邪魔しました」と言いながら部屋から出ていこうとするミリィを留める術は無かった。




