22.チモシーの謎の行動
混乱しすぎて動きの止まったミリィを置いて、俺は自分の部屋に入ったのだが、何故かチモシーも着いてきており続いて入ってきた。
チモシーの行動がわからなかったので、どうしたんだと聞いてみたが。
「ん……する」
相変わらずチモシーは言葉が足りない。いったい何をするのだろうか。
根気よく話を聞けば、何をすると言うか、何がしたいのか、わかるのだが。ようやく得られた一人の時間だ、この時間を使って魔王対策をしていたい。
麒麟と言えども4脚の生物だ、きっとその辺りに攻略法があると考えている。その事をふまえて、対策品を造っておきたいのだが、見られていると作業がしづらい。
着いてきた仔犬を追い返すようで心苦しい気分になりながらも「ワシは、これからひと眠りするだけじゃ、だから部屋から出て欲しいんじゃが」とチモシーに言ったのだが。
「ん……する」
だが、謎の言葉を発っするだけで出て行こうとしない。
「ん……する」
これは言っても駄目だと思い、言葉で伝えても駄目なら、態度で示すべきと思い直して、俺はそのままの格好でベッドに寝転がり、チモシーに背中を向けて目を瞑った。
「ん……ジン……寝る?……する」
「そうじゃ。ワシはもう寝る。だからチモシーは、みんなと同じ様に遊んでおいで」
「ん……ジン……寝る……あたし……同じ様に……する」
「おお。そうじゃ。ワシは寝るから、遊びに行ってくればいいのじゃ」
「ん……ジン……寝る……わかった……行く……する」
余計な時間が掛かってしまったが、やっと一人になれると思って、チモシーが部屋から出ていく姿を確認しようと寝返りをうつように仰向けになった瞬間、腰に温かい何かが乗った気がした。
何だろうと思い、瞑っていた目を開くとチモシーの美しく整った顔が近くにあった。
あれ……デジャブ? と思っている間に、チモシーの両手が俺の顔を包むように伸びてきた。
どうして? チモシーは、みんなのところに行くんじゃなかったのか? なのに、なんで、こんなに近くにチモシーが。
俺の頭の中では、昨夜の夢と同じ様に、疑問が渦を巻いていた。
「ん……アリス……ジン……ダメ……あたし……寝る……一緒……する」
そして一切表情を変えないまま、チモシーの美しく整った顔が徐々に近付いて来た。
ここまできて漸く、俺は状況を理解したのだが、昨夜と同じ様に何故か身体を動かすことが出来ない。
しかもチモシーの瞳に捕らわれてしまった俺の瞳は、逸らすことも、更にまばたきすることも出来ない。
尚もチモシーの顔が近付いてくる。俺の頭の中はチモシーのことしか考えられなくなってくる。
このままでは駄目だ。自分が自分で無くなってしまいそうな気がして、俺は必死に抵抗した。すると。
俺を見つめている、チモシーの瞳が潤んだような気がした。その時、俺は動かせなかった身体が動かせるようになっていた。
だがそんなことがあってもチモシーが迫ってくる状況は変わらない。
でも身体が動かせるようになっているし、思考もクリアになってるし、普通に考えられるぞ。
そうだ、よく考えてみろ、チモシーはまだ子供なんだ、きっと意味なんてわからずに、なんかのマネしてやっているだけだ。
だから、このまま流されたら駄目だ、今ならまだ間に合う。美人とのキスを惜しいなんて思ったら駄目だ、チモシーを止めなければ。でもオッサンに、今後こんなチャンスってあるのか。だったらいっそ。いやいや、駄目だ。
そしてチモシーの吐息を感じる距離になったとき、俺は……。
轟音が響き渡った。
「ジン様! 明日魔王と戦うなんて聞いて、ない、、わ、、、よ?」
壊れるんじゃないかという勢いで扉を開き、ミリィが怒鳴り込んできたが、初めの勢いはどこにいったのか、言葉尻が萎んでいった。
突然現れたミリィが気になったのか、チモシーがミリィに振り向くべく、近付けてきていた顔を離し、包まれていた俺の顔からも両手を離し、上半身を起こした。その結果、チモシーの上半身の体重が、すべて俺の腰に掛かかる体勢になった。
「ん……はぁ……ミリィ?」
何故かチモシーが、怪しい吐息をついてミリィを呼んだが、チモシーの顔が離れた事に安心して、俺は客観的な目で状況を見ることが出来た。
俺はベッドに仰向けで寝ている、チモシーは俺の腰に股がり、両手は俺の顔の横にあった……そこから起き上がり俺の腰に身体を預けて吐息をつく……どう見ても、アレをしている様に見えるだろう。
こんな光景を見たらミリィじゃなくても勘違いするはず……だと言うのに、急いでチモシーを腰からどかすより先にミリィを見てしまった。
俺とチモシーの視線を受けて、ミリィはみるみる顔を真っ赤に染めていき。
「あの、その、チモシーか、まさか、襲う? 普通、、ジン、、逆?、ちがう、、でも、抱き合って、腰が、、なに、、もしかして、え?、合体?、、と言うことは」
どうやらミリィなりに、この状況の説明が付いたようだ。
慌てている人を見ると、逆に冷静になれるって、ほんとのことだったんだなぁと思ってしまったが、このままミリィに飛び出されてでもしたら、後からいくら本当の事を言っても、納得させる事なんてぜったいに出来ない。逆に「言い訳ばかりして最低」と非難されるだけだ。なので。
「ミリィ! よく見ろ」
そう言いながら、俺は上半身を起こし、チモシーの両ワキの下に手を掛けて、そのまま持ち上げた。
持ち上げたことにより、俺のアレが見えてしまうことを想像したのだろう。ミリィは両手で自分の目をふさいだ。
「きゃー、いきなりなに!? ナニを見ろと言うのよ。ぜったい見ないからね」
あんなことを言っているが、ぜったい指の隙間から見ているはずだ。なので。
「安心しな。ズボンは、はいているぞ」と続けて言っておいた。
そう言うと、ミリィはすぐ塞いでいた手を下ろした。
予想通り指の隙間から見ていたようだ。
にも関わらず、俺の腰の辺りを凝視していた。
これは一応、指の隙間からは見てない。今確認してるんだ。と言うアピールなのかな。
俺も、チモシーも、しっかり服を着ていることを確認して安心したのか。俺の目を見てきた。
無言で見つめてくるミリィの目付きは、じゃあ何をしていたのか、それともこれから何をしようとしていたのかとでも、言いたげな目付きだったので。
「ワシは回復を早めるためにも、寝ておきたかったのじゃが、チモシーがアスレチックより、ワシと一緒に遊びたいと言うてな。それでも寝ると言ったワシに、一緒に遊ぶんだと丁度飛び掛かられた所だったんじゃ」
すんげー無理のある説明だけど、俺からすれば本当のことだ、何も嘘は言っていない。その証拠に。
「ん……ジン……一緒に……する」
俺の両手で両ワキの下から上半身を持ち上げられているチモシーが、ちょっと怪しいが同意してくれた。それを聞いたミリィは「そういうことか、なんだつまんない、てっきり」と声にならない声でつぶやいてから。
「ほんとにもう、紛らわしいんだから」と、にこやかに言ってきた。
何と勘違いして、紛らわしいのか突っ込むのも楽しそうだが、下手に突っ込むとしっぺ返しが恐いので止めておこう。
なにせ俺は、チモシーを持ち上げたままだったので、実は正面を見てしまうと、チモシーの腰に顔を埋めてしまうことになったりする。爆弾処理は最後の最後まで気を抜いてはいけない。
無事ミリィの誤解を解くことが出来たのに、ここでラッキースケベなんて発動したら致命傷になりかねない。俺はチモシーの身体の位置に気を付けながら、慎重に移動させてベッドサイドに座らせることに成功した。
そして俺も並んで座った。
「で、何じゃ」
女性に対してだとあまり意味がないが、ミリィに仕返しを兼ねて主語のない問い掛けをしてみた。
「え、あ、そう、チモシーと仲良く遊んでくれているのなら良いのよ。チモシー、遊びの邪魔してしまってごめんなさいね。私はみんなの所に行ってるから」と言い残して部屋から出ていってしまった。
あれ? 魔王のこととか、森の管理者が昨夜来て何したのかとか、そんな話を聞きに来たんじゃないのかなと思い、横に座るチモシーを見たのだが。チモシーは「なに?」って感じで小首をかしげるだけだった。
実はこの一連のドタバタでかなり時間を使ってしまったので、俺は焦りそうになっていた。
なんせアリスの話からすると、今日中には魔物と天物の戦いは魔王の登場により、魔物の勝利で終わる。
そのこと事態はどうでも良くないが、実際はどうでも良い。どのみち魔王と戦いに来たのだから。
ただ今日中というのは、範囲が広すぎる。今日中とは、単純に分けても朝昼晩と3つも期限があるのだ。そうとは言え、朝に争いが終わるなら「早ければ今夜中に……」とアリスなら言ってくれるだろう。だとすれば、最短は昼だと仮定することが出来る。だから、昼御飯の準備を始める前に、魔王対策をしようとしていたのだ。
まぁ今確認したが、安全地帯ギリギリに居るスズメさん達の監視に、未だ魔王の姿が掛かっていないことだし。効果があるかどうかもわからない対策品造りなんて午後でも良いだろう。
対策品のことに関しては、いったん脇に置いといて。新たな問題を解決しないと行けなくなった。
そう今、俺の横に座っているチモシーのことだ。
なんせこの事は、俺にとって魔王と戦う以上に重要度の高いことになったのだから。




