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「――……い。おい、エガオン……聞いてんのか?」
「あ? や、わりぃ……ちとボーっとしてた」
「お前にしちゃ珍しいな。……じゃねぇや、お前も少し言ってやれよ。ウォートの奴、折角の出世話を断ろうってんだぜ?」
普段、こんな事はまずないんだが……今日は何だか、砂漠の方から嫌な感じの風が吹いてくる気がするもんで、つい昔の事を思い出しちまった。
あれから結構経って、今じゃ俺もウォートもギメル自警団の一員だ。ウォートの方は、或いは学者になるかも知れないと思ってたが、その腕前を放っておく輩はギメル上層部には誰も居なかった。実際、コイツにゃ未だに俺も勝てないかも知れねぇ程だ、本の虫にしとくには勿体なさすぎる。
「あ~……そりゃ既に散々言ってやったさ。けど仕方ねーじゃん、結局は本人の意思だろ」
仲間の1人が言う「出世話」てのは、ウォートへのセレンからの“お誘い”だ。大人になって、昔とは比べ物にならない程逞しい体つきになったコイツは、元々の顔の良さも手伝ってただでさえ人目を引くが……何よりその武勇の噂は遠い古都まで容易く届くものだったらしい。そして実際にギメルまで、ウォートの事を見に来た近衛兵のお眼鏡にも適ったらしく、今コイツにはセレンへの仕官の道が拓きかけてたりする。
だが ―― ウォートの、その“お誘い”を断ろうって理由が今ひとつ納得いかない。俺じゃあるまいし「堅苦しいのが嫌いだから」ときたもんだ。コイツの人当たりの良さや気配り加減なら、例えいきなり大国の王城に上がったからって、まず失敗なんざ仕出かさないと思うんだが。
「あはは……俺は、このギメルを守れてればそれでいい。余所に行く気はしないよ」
「ったく、もったいねぇな。ならいっそお前の方が代わりに行けばどうだ? エガオン」
「やなこった。俺は本気で、王室だの貴族だのは苦手なんだよ」
「いや、でもエガオンの腕も砂漠で埋もれさせてるには惜しいんじゃないか? おまえも地下遺跡ばかりじゃなく、俺や皆みたいに外でも訓練してれば、セレン兵の目に留まったのはおまえの方かも知れなかったんだしさ」
仲間に混ざって、ウォートまでそんな事を言ってくる……マジで一発くれてやろうかコイツ。例えそうしてた所で連中の目を引いたのは、きっとお前だけだったろうに。
「あいにく俺は、訓練で目立つ趣味もねーんだよっ。―― そろそろ日課の時間だ、先に帰るぜ」
大人になってからは昼間は無理なので、夜仕事が終わってから遺跡の訓練場に通う事にしている。ただの槍や剣の修行なら確かに皆と一緒にやる方が都合も良いんだが、俺は何とか、魔法もモノにしたいんだ。モンスターに立ち向かうのに、物理攻撃だけじゃどうしても限界がある。それに、思わぬ怪我を負わないとも限らない。本気で町を守ろうってんなら絶対、攻撃や回復と言った魔法能力も必須だ ―― そうは思うが。これが、どーしても上手くいかない……。
この点、ウォートの奴は腹が立つほど完璧で、その魔法力は今じゃギメルやセレンどころか、遥か遠くの魔法都市・ステラの連中にも勝てるんじゃないか? てな位に強い。なら、独学よりウォートに教わる方が早いと親父辺りにゃ言われそうだが……そこはアレだ。なんつーか負けたかぁないってヤツだ。
「ん~……それにしてもホントに、やな感じの風だなぁ……」
見上げた夜空に光る月は、これまた奇妙な色合いの濃い黄色。それに、この風……砂漠って一口にいっても、ギメルは四方が砂漠な訳だが、この方角にはデスヒルズ砂漠がある。あそこはただでさえ、おかしな『天然トラップ』のある地域だが……何だろう、やたら変な気分がする。
「―― ま、占い師じゃあるまいし、こんなのは気のせいだよな。気のせいっ。さて、今日は何の契約に挑戦するかな~」
一応、何度とない挑戦の甲斐あって、氷結魔法は中級クラスまで修得できてる。けどやっぱり、回復もできるよーにならねぇとまずいだろうな……辛うじて毒治療のキュアだけはこの前覚えたが……よし。今日はヒーリング系統でいってみるとしよう。
―― まさかそれが、次の日早速役に立つ事になるなんてのは、この時は知る由もなかった。




