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聖樹にまつわる交響曲  作者: ファル
― fifth Mov. 滅風の追走曲 ―
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※この部分は、本編6章で語られたギメルの歴史上、数行とは言え残酷描写にあたる表現があります。

 ほんの僅かでもそうした表現の苦手な方は、充分にご注意下さい。

 ちょいと熱中し過ぎたか、地下の訓練場を後にしたのは、多分外が夜明けだろう頃だった。


「ん~……間違っちゃいねぇ筈なんだが。なんでハイヒーリングの方は契約失敗するかなぁ?」


 つか初級のヒーリング自体、最初は見事に失敗した。術式はちゃんと写し描いたと思ったんだが……大体に魔法文字なんつーのは小難しいばっかで訳分からねぇのがムカつく所だ。ま、それでも何とか軽い傷程度ならすぐ治せるくらいにはなったし、良しとしておこう。


「―― ん? 何だ、この匂い……まさか火事か??」


 この地下遺跡は上下や横移動に“転移魔法陣”を使う上、ひとつの階が何区分にもなってる結構な迷路形式だ。だから地下1階まで辿り着いたからってすぐに外の様子は判らない。そんな訳で、何度目かの移動で辿り着いた出口付近でやっと煙たい空気が漂ってる事に気づき、驚いた。


「やばいな。出口塞がってたりしたら暫く“囚人”じゃねーかっ」


 何せ遺跡と地上を結ぶところだけは、ごく普通の階段だ。出口のある建物が焼け落ちてたりしたら本気で出られないかもだから、結構焦る。なんで、そこも魔法陣にしてくれなかったかなぁ? ココを作った奴らは。


 ま、俺が朝飯までに戻らないなんて異常事態が起これば、ウォート辺りが覗きに来るだろうから閉じ込められたとしても数時間だとは思うが。だからって大人しく空腹を抱えてる趣味は、俺にはない。

 とにかく、出口は無事であってくれよ ―― 祈りながらそこを駆け上る。だが……。


「――……!?」


 幸いにして階段は無事だった。いや……階段「だけ」が何故か無事だった、と言うべきか。


 漸く眩しくなりかけた朝陽、それが照らし出すギメルの町は ―― つい昨日までの、隅々まで馴染み切ったものとはおよそかけ離れた姿になっていた。


 家々は瓦解し、或いは焼け崩れ未だ火の手が上がっている所も多く。薄煙の漂う道路や割と形の残った建物に、動く影は何のものにせよ見当たらず……何より、そこかしこに転がってる、たくさんの塊は ―――― それによっちゃ何かが欠けてたりする……人の、死体だった。


「な、に……何なんだよコレッ!!? つか皆はっ、誰か無事なヤツはいねぇのかっ!?」


 暫くは、訳も解らず呆然と立ち尽くしてしまったが……気づけばいつの間にか、家の近くの細路地「だった」場所を走っていた。だが辿り着いた場所には、家も店も跡形なく……数本散らばった剣のみが、ここに武器屋のあった事を辛うじて示しているだけだった。


 ―― 兵舎も、行きつけの酒場も湧水を活かしたオアシス公園も……どこに駆けつけても人影がない。最後にゃ町の出口近くの、簡単な見張り所まで来ちまったが、知り合いどころか生きてるものの気配が全然ない「世界」に、気力も何も尽き果ててその場に倒れる様に座り込んだ。


 一体……いったい何があったってんだ?? これって幻覚なのか、ただの悪い夢なのか……?



「―― エガオン……か? よかった、おまえは……無事だった、のか……」



「っ!? ……ウォート!! おい、しっかりしろっ! お前いったい、どんな目にあって ―――― 」


 ふいに聞こえてきた、馴染み深い……けど聞いた事がないか細い声。弾かれた様に立ち上がり見回せば、町と砂漠とを仕切る防壁、その近くにウォートの ―― 血塗れの姿があった。


 コイツが……俺にだって勝てるだろうコイツがここまでやられるなんて、どんな敵が襲ってきたってんだ? いや、今はそんな話は後ってヤツだ。


 何もしないよりマシと、とにかくヒーリングを発動させる。―― くそ、昨夜ハイヒーリングの契約さえ上手くいってりゃ、もっと一気に治してやれたのに。


「……おまえ……いつの間に、治癒魔法、なんて……。はは、俺の……知らない間に、成長してるな……」

「あのな、こんな時までその保護者目線止めろや!! いいからとっとと回復しろっ!」

「無茶、言うな……ああ、でも。確か……薬が、1つ……残ってたな」

「薬っ? どこだか言え、出してやるから!」


 ―― そのエリクサーを与えてやると、魔法力の回復したウォートは自分でハイヒーリングを発動させた。お陰でどうやら、命の危機は脱したらしい……安心から力が抜けて思わずへたり込んじまったが、今ばかりは格好つけてる場合じゃなし、まぁいいだろう。


「で……結局何があったんだよ? こんな、どこもかしこもおかしくなっちまって……」

「うん……―――― ごめん、エガオン……」

「……なんでそこで謝る? つか、それじゃ意味わからねーっつの」


 まぁ、ウォートの方も瀕死から回復したばかりだし、まだ混乱してるのかも知れねぇが。それでもあんな怪我を負ってたんだ、少なくともギメルに襲いかかった“事件”を垣間見るくらいしてる筈 ―― この歯切れの悪さ、いつもならとっくに数発殴ってやってるトコだが、何とか我慢して話を引き出してみると。


「あ? ―― ギメル人口に匹敵する程の、モンスターの大群だと??」

「うん、だから……誰もが自分の身を守る事さえ出来るかどうかって状態で……エガオンがいれば、まだ何とかなるかもって思いはしたけど、呼びに行く暇が俺にも、誰にもなくって……」

「何だってまた ―― そんな数のモンスターがどーやって一晩で、ここに集まったんだ?」


 ギメルは、自慢じゃないがセレン北西部のほぼ全てを覆い尽くす大砂漠地帯にあって最大級のオアシス都市だ。近頃じゃライバルっぽいアリシアも負けず劣らず発展してきてるが、とにかくこの町は旅行者だけでなく住民の数も半端じゃない。

 その人口と変わらん程のモンスターなんてものが沸いた日には、襲われる数日も前から、絶対誰かが気づくだろ? 俺じゃあるまいし、自警団の連中みんなが見張りをサボってるなんて事はねぇだろうし。や、そんだけ大ごとなら一般住民だって普通に気づいてる筈だ。


 だが、ウォートの一言はそんな疑問を綺麗に払拭した。どっちかって、それで取り払ってほしくはなかった、てな位の驚き且つ腹が立つ理由を口にしたのだ。


「魔王が……魔王の力が流れ込んじゃったせいだ。その魔力からあの連中は生成されたんだよ……直前まで影も形も無いのは、だから当然なんだ。誰にも、どうしようもなかったのも。気づいた時が、もう襲撃の時だったんだから……」

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