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聖樹にまつわる交響曲  作者: ファル
― fourth Mov. 異空に於ける変奏曲 ―
21/35

d-4

【メディカルケア・システムへのアクセス要求確認。認証に必要なIDコードを直接、または音声入力願います】


「毎回めんどくさいなぁ……えーと? 何だっけ」

「音声入力で頼む。『AA:000969』だ ―― 何度も使ってるんだ、いい加減覚えろよ。簡単だろうが、この位」

「うっさいよ。魔法が使えなくなってるくせに口ばっかり立派なままの奴よりかマシだ!」

「使えない訳じゃないっ」


 ―― 時は既に、中央制御室でのティリアとの面会から数時間後。


 まずは最も被害が大きいとされる都市西部、ウェスト・エリアへと転送されたスバノン達だったが。そこには予想通り、何種類ものモンスターが暴挙の限りを尽くしていて、それを阻止すべく戦闘を挑んだ、そこまでは良かった。しかし ―― お約束な言い合いの中スバノンが言った様に、ブルーの魔法は何故かその大半が「発動が極めて困難」という笑えない事態になっていると気付いた時には、まず当人が青ざめ……どころか紙の顔色と化したものだ。


 その後のブルーの推測によれば、どうやらこの世界の『精霊力の理』は彼らの世界と大分異なるものらしい。それ故、何らかの魔法を発動させたくばその都度、まるで魔法契約を済ませたばかりの見習い魔道士の如く七面倒な呪文詠唱と言う「手続き」を踏まねばならない、と言う事の様だ。

 もっとも、幾度とない戦闘の中で実地で確認した所、この現象は攻撃魔法のみに作用しているらしく、ヘイストやアースヒールといった補助・回復魔法は元の世界のままに使用可能なのがせめてもの救いだろう。


 そうした訳で現状、魔物との戦いは8割方スバノンが請け負っている。この状態で広大な都市の西・東・北に至るまでを平定してのけてきたのは、いっそ天晴ではなかろうか。


【画像認識結果……エルフィン博士とは認められず。但し代理人・スバノン、ブルー両名と確認 ―― 左方の簡易医療カプセルへどうぞ。診断・治療を開始します】


 そんなガイダンスに従い、アースヒールにも似た「治療」を受けるのも慣れてきた感がある。如何に使用困難と言え、いざという時に備え魔力を温存するのは戦略としてはまず、正しい。故に彼らは極力、怪我や体力の回復にこの世界の便利な機能、医療システムを利用する事にしていた。流石に骨折などの大怪我は、あくまで「簡易医療」しか行えないこの機能では治せないらしいが、幸いそうした事態には今の所陥っていないので、これで充分間に合っているのだ。


「さて、残りは南……サウス・エリアだっけか。この地域のターミナルも、もう復旧してるんかな?」

「どうだかな ―― このエリアのターミナル位置、及び現在それが使用可能かどうかを教えてくれ」


 スバノンの疑問を受け、ブルーが端末へと問いかける。彼らがモンスターを討伐し終える度、順次ティリアの「修復指令」により復旧していっているらしき各エリアの都市機能は、既に大部分が本来の、超がつく程の利便性を発揮できる様になっている。とは言え、このエリアはまだ最後のボス格モンスターを退治してから然程経っていないので、他の区域への移動までが可能なのかは解らない。 ―― ついでに言えば、この世界における“瞬間移動”がどの様な理論・技術で可能になっているのかも謎だったが、それに関してはブルーでさえ完全理解を諦めている感もある。


【検索結果……N-1a-4c地点がここから最短距離にあるターミナルです。ただ、サウス・エリアは現在、戒厳令下の防衛システム最優先稼働状態の為、エリア内部への転送は出来ません。最寄りの大通路への転送で宜しければ現在、システムは復旧しておりますので可能です】


「それで十分だ。……ただ記号で指し示されても。どう行けば着ける?」


【了解 ―― 案内用ホログラム・1/10サイズ電子妖精を生成します。その後についていって下さい】


 硬質な機械音声が、やや戸惑った様に聞き返すブルーへ告げるや否や、彼らのすぐ横にいきなりティリアが出現した。但し、音声が言った通り小さなその姿はさながら「本物の、お伽話で良く見る妖精」状態だ。このティリアはあくまで道案内の為のみの存在らしく、会話機能も無いようで、小妖精は特にブルー達に声をかけるでもなく、ふわりと宙に浮きつつ移動を始めた。


「しっかし、アスティやエルフィンもどきがいるのに、何で俺たちに似たヤツはいないんだろ? ちょっと会ってみたかったよーな気がしないでも……」


「いなくて良かったじゃないか。会った所で、どうせお前じゃすぐ“自分と喧嘩”だぞ? ―― 一口に“並行時空”と言っても、基準時空……自分が住む世界と酷似する世界ばかりじゃないからな。基準時空から遠く離れた時空程、類似点は減っていくってのがセオリーだった気がする。……まぁ、この世界もそれなりに、俺達の世界との“共通点”はありそうだが」


 自然、歩きながらの会話は2人の間のみとなる。彼の言に、どこに共通点が? と言いたげな目を向けるスバノンへ、ブルーが半ば思案顔で続けた。


「ここ、シュティグは地底都市とか言ってたろう? 一方、俺達が飛ばされる直前にいたのはストラウス遺跡……あれも地下に展開されてる遺跡だから、その“共通点”により不安定な魔法陣がこの2世界を繋いだのかも知れないし。それに、この世界は今、いわば人類滅亡の危機に瀕してる訳だ、それは俺たちの世界もある意味同じ状況……そして。その危機的状況から人々を救う、または救いかけてる人物は正に同じじゃないか ―― どっちの世界でも、エルフィンちゃんってのは『世界的な重要人物』なんだよな、これって」


「あー。後はその、エルフィンに付き従ってる状態なのがアスティってのも“共通点”か。……なんか、下手するとあの2人だけで世界が回せたりするんじゃね?」

「はは……いや、それはさすがに……そうだったら、それはそれで怖いぞ」


 スバノンの軽口に、最初は笑って返すブルーだったが ―― ふとその表情に、何か懸念事項に囚われたかの色が宿る。


 だが、それを新たな話題として口にする前に目的地に到着した為、彼がその心配事を言葉にする機会はもう無くなった様だった。

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