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「あっ! あなた、先日の……」
「あー、なるほど君が僕を探してたって子か。なんの用だい?」
驚くレディアと対照的に、おっとり訊ねるリンの前で、謎の少女はその姿に似合わぬ不敵な笑みと共に数歩近づき、口を開く。
「単刀直入に言えば、私は貴方が欲しいのよ。類稀なる、その能力がね ―― もし仲間として一緒に来てくれるなら、一族を上げて歓迎するわよ?」
「て、ちょっと待ってよっ。この前も何も言っていかなかったけど、大体あなた、リンちゃんに何させる気で力が欲しいとか言ってる訳?」
その発言に、彼が応も否も返さぬ内。思わずと言った風に、その姿を背後に庇う様にしてレディアが問い質すが、アリシアでの態度とは打って変わって、少女は彼女にも無遠慮な物言いで。
「―― 猫ってのはね、どの子も情報収集には長けてるわ。それに、他の生物なら潜り込めない様な場所にも結構楽に入っていける」
「……は?」
「でも、その猫は他のどんな猫より……私の一族の誰よりずば抜けてるの。『夢の遣い手』でもないのに近未来を正確に予知できる、その力とそれ故の危機回避能力。そしてどんな困難でも潜り抜け目的を達成する知的好奇心と戦闘能力……素晴らしい。あまりに素晴らしいわ。何と言っても、あの“神秘の谷”の『王家の聖櫃』へ潜り込み、しかも平気で出てきた時は感嘆したものよ」
その言葉に、レディアもまた愕然として背後の青年を見やった。神秘の谷とは、オーガスタの南方にある今では大半が雪山と化した山脈の中にある奇妙な力に満ちた地域の事だ。そこに、現在のステラの魔法技術の礎となる知識を誇っていたとされる古代民族の遺跡らしいものがあるとは、学者の間では結構知られている話だったが……何分にもそうした民族の仕掛けた数々の防御罠を潜り抜けられる人間がおらず、従って遺跡の全容解明は夢のまた夢とさえ言われる程だったのだ。
まさか、そんな所へ出入りできる程の冒険家だったとは ―― しかし、驚嘆と感服の眼差しをレディアから貰っていながら、彼が口にしたのは呑気な苦情だった。
「んー、そう簡単に秘密の情報源をバラされちゃ困るなぁ。ま、あそこで得られる情報は僕にとっては、もうないから良いと言えば良いんだけど」
「―― リンちゃん? 今度、ぜひ私にその遺跡の出入り法を教えてちょうだい。今さら秘密にするようなら、いっそダブルフラットかますからね?」
「あ……あははは……うんまぁ、行きたいなら教えるよ」
「とにかく ―― 我が眷属の力を総動員しても中々掴めない貴方の行先をここだと断定できた時に思ったのよ。今こそが絶好の機会だってね……私と一緒に来て。一族で最も尊ばれる色彩たる金を帯び、類稀なる力を誇る貴方ならきっと誰もが歓迎するわ、一族の王としてね」
どこか剣呑な2人の会話に、再び割り込んだ少女の言葉、その最後にレディアの目が丸くなる。
「な、何それ? 王っていったい、何させる気?」
「別に? ただの一族の長ってだけよ。力を失いつつある我が一族の復興には、その猫の力は欠かせない……ま、その為にはまず私のものになってもらわないと、だけどね。どうかしら?」
「ん~。僕ってば、こういう見た目だから良く誤解されるんだけどさぁ。実はねー」
やはり対照的に落ち着いたままのリンはと言えば、そんな台詞の後にっこり微笑んで。
「これでもれっきとした“わんこ派”なんだ。だから君は却下だ……『猫又』君。ごめんね♪」




