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聖樹にまつわる交響曲  作者: ファル
― third Mov. 星とにゃんこの輪舞曲 ―
13/35

c-2

 それは、デスヒルズ砂漠を上手く回避しつつセレンへと近づいた辺りの小さな山脈の麓に立っている、人々が渾名する通り、今ではその名を知る者もない、上部が半ば崩れた低めの塔であった。


 そのほぼ真逆の方角へ進んだ所にある大山脈に存在するピラミッドと同じく、かつてこの一帯を支配していた古代民族の建てたものとされてはいるが……ピラミッドと異なり、その用途も名に等しく伝承さえ残らぬ奇妙な遺物である。


「……ま、ちゃんと調べれば少なくとも、用途くらいは解りそうなものだけどね」


 小さな溜息と共に呟きつつ、剣の血糊を振り払う人影はレディアのものだ。デスヒルズと言う特殊な砂漠が近くにあるこの塔には、予想はしていたと言え魔物が数多く潜んでいる。彼女の腕なら苦労する程の相手ではないが、探索の邪魔をし過ぎる連中に少々閉口しているのは確かだった。


「ん~、やっぱり上部は特に何もないわね……後探るとしたら地下だけど……ちょっとなぁ」


 この塔が地下部を持っている、それ自体はレディア以前の探検家も既に見出していた事だった。しかし、その地下を探索し尽くせた冒険家はかつていない。理由は、口にするのも憚られる程の魔物が潜んでいる為とも、古代民族の英知が凝集された罠が待ち構えているからとも言われているが、明確には伝えられていない。唯一解っているのは、この塔の地下へ手を出そうとした者は、冒険家にせよ盗掘目当ての連中にせよ無事に帰っては来なかったと言う事のみだ。


「と言っても、上に依頼のものが見つからなかった以上は、ね……。ま、ほんのちょっと覗いてみて駄目ならさっさと帰りましょ」


 探索に出向いてきている以上、あの少女の依頼を果たさなかったとは言い難い。例え完遂はできずとも、それは少女の情報が誤っていたのでは? とも言い返せる状況は既に築き上げたのだ、後はいっそ自分の好奇心を満たすだけの探検で良い……そんな、半ば気軽な思いで、地下への階段を下りて行った時だった。


「―― って、あれ?」

「わっ? び、びっくりした……て。あなた確か、先日アリシアで……」


 階段を降り切り、すぐの曲がり角を折れかけた時。あわやぶつかりそうになった人影の正体に、レディアが衝突の回避時よりも驚いた風の顔つきになる。そこにいたのは、見事なネコ耳をぴくつかせつつ、これまた猫っぽい大きな瞳を更に見開いて彼女の方を見ているあの青年だったからだ。


「こんな所を探検する冒険家には、到底見えなかったけど……砂漠を越えられるって事は、それなりには力があるのねあなた。でも一体、ここに何の用?」

「あはは、僕は冒険家じゃないさ。ただの探究者だよ ―― ここへは、ちょっと調べ物さ」

「探究? あなたも、いわば歴史家って所かしら。この塔の謎を解明に?」

「うん、まぁそんなとこ。……そっか、その髪……君が“紫玉のレディア”か、そりゃこの塔も平気で、一人で探し歩ける筈だねぇ」

「―― その仰々しい渾名はいらないわ。呼ぶなら普通に名前だけにしておいて」


 その紫銀の髪と美貌からつけられた二つ名は、だが彼女自身には然程受けの良いものではなかったりする。その呼称には、彼女の外見や知性を褒め称える以外にも、その「氷の如き冷たい気配」まで誇張して言いふらす意味合いが含まれる事も多いからだ。そんな評判が独り歩きするから、中々男友達が出来なくなるんだ ―― などと密かに憤慨してたりしてなかったりするのは、まぁアリシアの人々は知らぬ話だが。


 それにしても……ややきつめだったか、と思える声音にも動じぬ風に笑っている相手を眺めつつ、レディアがふと疑問を瞳に浮かべる。ネコ耳はもとより、その髪は淡いながら見事な金髪だ。

 ―― まさか、この青年……いやそれは流石にないか?


「あはは、ごめんよ。じゃレディア。どうせなら一緒に、この地下を探検しない? いや~、僕もまだこの階層しか歩いてないんだけど上より敵が強くってね。何だか苦労しそうだから、誰かと協力する方がきっと楽かなーって。あ、僕の事はリンって呼んでね」

「リンちゃんね、解ったわ。……あなた、自分よりやや年下くらいの女の子に探し回られる心当たりとかある?」

「ん? ―― 妹なら1人いるけど、あいつはユグドから出てこないと思うなぁ。……アリシアで? いや、あの町はいつも通り過ぎるだけだから知り合いと呼べる人はいない筈だよ」

「そっか……解った。あ、ううん何でもない、ちょっとね」


 一応は確認してみるが、返された返事にやはり彼は違うか、と判断する。仮にあの少女が彼の妹だったとして、よもや兄を猫呼ばわりもすまい。まして欲しいだの何のとは言いだすまい。


「ふーん。面白い依頼だねぇ。ま、多分その謎ももうすぐ解けるんじゃないかな」

「なぜ、そんな事が……あなた何か見かけたりしたの?」

「見てはいないよ。ただ ―― 僕の勘は結構当たるんだよ♪ ま、とりあえず行ってみようか」


 そう言うや、猫っぽい笑顔と共に歩き出す青年に、不審げな視線を投げかけつつレディアも続く。だが、彼女がリンの“勘”以前に、その知識に驚かされるのは実際、この後すぐの事だった。

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