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こちらは、本編で言うと第五章の少し前、といった辺りのお話です。
レディアとリン、2人はなぜ共同調査を始めたか? そのきっかけ話。
オールラウンダーなレディアが一番好きなのが槍、の理由が解る。かも?
世界でも大きめの大陸、その半分近くは占めるであろう広大な砂漠地帯のほぼ中央に位置する一大都市・アリシア。砂漠を越えた南東部に位置するセレン王都と並ぶ世界でもトップクラスの発展を遂げる町であり、それだけに街を行き交う人々も多く、また彼らの衣装も各地から集まって来たのが一目で解る多様性に富んでいる。
そんな雑踏の中……一際目立つ紫銀の長髪を揺らす女性と、如何にも魔法使いといった装いの青年とが、何やら雑談しつつ歩いていた。
「……そっか、じゃヴィープちゃんは暫くステラで休息ってとこね」
「うん、もう大分帰ってないし、ここらでちょっと故郷でゆっくりしたいかなぁって」
そこかしこに開かれている蚤の市を軽く覗きつつ彼らが向かうのは、隣国の魔法都市・ステラへ移動する為の『転送魔法陣』が設置されている館の様だった。アリシアは一応、大国セレンの庇護を受ける町ではあるが、その実ほぼ独立した都市国家とも呼べる状態で、それ故にステラとの行き来を簡単にするワープゾーンも町の一存で築いてしまっているのだ。
「レディアはどうするの? また別の調査に向かうなら手伝っても良いけど」
「いや、やるとしても少しは間おくし大丈夫だよ。次に予定してるのは、ちょっと難関かもって感じのものだし、そうすると取りかかったら時間がかかっちゃうからね。ヴィープちゃんの事もちゃんと休ませてあげないと ―― って。ごめんなさ……い?」
会話の最中、うっかり誰かとぶつかってしまった女性 ―― レディアが謝罪を口にするが。その語尾が微妙に戸惑いを含んだのも無理はないだろう……何せ相手の青年は、似合ってはいるものの、それは見事な「ネコ耳」を備えていたからだ。しかも、どうやら本物らしい。
「あー、こっちこそごめんね。あ、ところで……デスヒルズ砂漠方面への出口って、どっちかな?」
「それなら、ひとつ向こうの大通りを南に進めば行けるけど」
「そっか。ありがと♪」
笑顔まで何だか猫っぽい青年がさっさと歩き去っていくのを思わず、という風に見送っていた2人だったが……ややあってヴィープの方が。
「―― あそこまで血の濃い『精霊の加護篤き者』は、流石に初めて見たなぁ。何だか、想像つかない程の特殊能力でも持ってそうだよね、ああなると」
「そうだね~。でも、冒険者らしくも見えないけどデスヒルズ砂漠なんて超えられるのかしら?」
「んー、知識さえ持ってれば大丈夫だろうけど。モンスターを上手く避ければ……ね」
一頻り案じてはいたが、知人でもない者を追いかけてまで世話を焼く事もあるまいと、彼らも再び転送所へと歩き出す。暫し雑談に興じ、ヴィープが魔法陣の中へ姿を消す頃にはふたり共、あの変わった青年の事はすっかり忘れ去っていた。
─…‥・‥…─…‥・‥…─…‥・‥…─
「ん? ―― そこは私の家だけど、あなた何か用?」
暫く後、湖の畔からほど近い自宅へと帰ってきたレディアが見出したのは、一人の少女の影だった。投げかけられた声に反応して振り向く瞳は、何となくだが人と言うより猫っぽい気がする。
まぁ、特に異質な外見でもなし、そう見えるのは或いは少女の内面が表れているのかも……思いつつ、どうやら家の前で自分の帰りを待っていたと思しき彼女に、今一度問いを投げると。
「こんにちは。この街でも有名な冒険家の貴女に、頼みがあってきました」
「頼み? 私は、冒険家と言っても人の依頼で動くタイプじゃないんだけど」
世の冒険家には確かに、依頼をクリアしては報酬を得る、と言う形で生計を立てる者も多い。だがレディアの場合、その能力はあくまで彼女本来の目的……各地に眠る謎を解き明かす際にどうしても避けて通れぬモンスターとの戦闘を潜り抜ける為に磨かれたものに過ぎない。偶さかに、旅先で路銀が尽きかけた時には何らかの依頼を受ける事もあるが、今は自分の故郷に戻ったばかり。長い調査の旅が終了した所でもあるし、出来れば何もせずゆっくり休暇を過ごしたいと言うのが本音である。たとえ相手がまだ子供と言える少女であっても、そうそう依頼を受けてあげようと言う気にもならないのだが ―― 子供故の強引さか、彼女はレディアの放つ拒否の気配などお構いなしで続きを語り始めた。
「今、砂漠を越えた向こうにある“名無しの塔”に、とても珍しい『金色の猫』がいる筈なんです。私はどうしても、その猫が欲しい ―― だから、どうかお願い。その猫を上手い事捕まえてきてほしいんです。もちろん、お礼はちゃんとします」
「猫? ……そりゃ金色って言うのは珍しいかもしれないけど、ペットにしたいとかなら町の店でも、幾らでも風変わりな猫を扱ってる所はあるんじゃ」
何分ここは、世界中から人が集う大都市だ。その数知れぬ要求に応じるべく、様々な品物を扱う店とて多い。蚤の市も含めて探せば、少女の欲求程度、簡単に満たせる店とてあるだろう。
だが、少女はレディアの反論には、およそ耳を貸そうとはしなかった。
「その持つ色だけじゃないの。その猫にはとっても珍しい“力”もある……私はそれが欲しいの。だからお願い、ぜひ捕まえて連れて来て」
「そう言っても……って、ちょっとっ??」
レディアの声が急に慌てたものになるのも無理はない。言うだけ言うや、少女の姿は忽然とその場から消えてしまったからだ。
「転移魔法? でも、こうまで見事な術はあまりお目には……ステラの高位魔道士か、それとも精霊のひとりか……どっちにしても困った事態ねこれは」
残された彼女の口調が、自然愚痴っぽくなるのも止むを得まい。相手は正体不明の、名前さえ名乗らぬおかしな少女だが、それだけに下手に依頼を無視すると後々何をされるか解ったものではない。つまりは、否応なしに依頼を受けざるを得ない状況に陥れられてしまったのだから。
「ん~、名無しの……つまり“名も無き崩れた塔”か。あそこも確かに、興味深い遺跡ではあるけれど ―― ヴィープちゃんが帰る前なら良かったかもなぁ」
未だ、納得がいかぬ風にぼやきつつも。暫く後に自宅の戸を開けたその背には、既に「一人で探検へ向かってみよう」と決めた気配が色濃く浮き上がっていた。




