表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖樹にまつわる交響曲  作者: ファル
― second Mov. 野兎の円舞曲 ―
11/35

b-6

 ※この話には、本編三章のネタバレが微妙に含まれます。

 ほんの僅かなネタバレも認めん! と言う方は、恐れ入りますが

 先に本編をお読み下さいます様、お願い致します (*- -)(*_ _)ペコリ

「さっすがレッドさんだね! あの女王を倒すなんて、凄腕すぎだよっ!」


 あれから2日後。呑気な様子でやって来たウサ耳子供・ミールは、これまた気安げな感想を述べると何やら大きな籠を背から降ろした。


「じゃ、これが約束の報酬っ。てんこ盛り山人参♪ あ、既に呪いは解けててまともな効能を持ってるヤツだから心配ないよ! これだけあれば、例え卸値で売ったとしても相当なお金になる筈だからね、十分足りると思うんだけど……どう? まだ何か欲しかったりする?」


「いや、問題ないよ。売らずに薬として困ってる人にあげても良いしね。ありがとう、ミール」

「そっか、なら良かった。じゃ、ホントにありがとうねレッドさん!」


 ―― あくまで兄貴にしかお礼を言わない辺り、中々いい性格してるじゃないかこの兎……。


 本来なら、こういう手合いには関わりたくないってのが正直な意見だが、今ばかりはそうも言っていられない。一頻りの「ご挨拶」が済んだ後、とっとと帰ろうとするウサ耳をこっそりつけていった俺は、町の出口付近まで来てからその背中に声をかけた。


「あれ? 何お前。ボクになんか文句でもあるの?」

「そう言う訳じゃない……ていうか、声かけた位でそう喧嘩腰になるなよ」


 銀の瞳に浮かぶのは、兄貴の時とは明らかに違う非友好的な光。こうもはっきり敵愾心を見せつけられると、少しならず傷つくが……まぁ、あの時は幾分かは俺も悪かったから仕方ないか。


 それはさておき ―― 苦手意識さえ抱いてたりするこのチビっ子を追ってきたのは他でもない。この子が夜兎族に対抗し得る力を持つ雪兎族、その一員だからこそだ。俺は先日からずっと消せずにいる不安をミールに相談してみる事にした。


 果たしてあの女王の“最期の言葉”は本当に、兄貴が笑い飛ばす様な、心配のないものなのだろうか? と。


「―― そりゃ、かなりまずいねー……確かに死ぬ寸前じゃ、元気いっぱいの時と比べりゃ呪力は籠めにくいかもだけど。でも、名前がバレてる状態で、でしょ? だとすると……」

「やっぱりそうか……なぁ、お前も雪兎族なら“浄めの術”使えるんだろ? ミール。何とか、その呪いを解呪できないか? 正式な依頼として報酬も払うから」

「いや……だって女王の呪いでしょ? そりゃボクには無理だよ。て言うか里長にだって無理だ。それだから今回、レッドさんに依頼しに来たんじゃないか」


 そういやこの前、そんな事を言っていたな……しかしそうなると、例えステラで最高の呪術師に頼み込んだ所でどうにもできないかもしれないし、どうしたものか……。


 本気で悩んでいると、流石にただそう言って振り切るのも情がないと思ったか、チビっ子兎はさっきまでよりは余程、普通の目つきになって訊ねてくる。


「ね、その呪い……お前も受けたんだろ? さっきからレッドさんばかり心配してるけどさ、お前、自分の方だって危ないとか思わない訳?」

「……あぁ。俺の方はたぶん、大丈夫かなって……何しろ、俺は名前は知られなかったからな」


 それは偏に、兄貴のお陰だ。あの時、女王が脅しにかかって以降、兄貴は俺に呼びかける時も相手に俺に関する交渉をする時も一切、俺の名は呼ばなかった。


 それ以前に名を出さなかったのは偶然としても、普段は割と俺を名前で呼ぶ率が高い兄貴が、まるきりそれを出さずに会話を続けると言うのは相当に気遣いが要ったろう。まして、あれ程の激闘が続いた中でさえ、その一点を忘れずに居てくれたと言うのは、これはもう感謝してもしきれないって所だ。だが……だからこそ余計に、その身の安全が気がかりにもなる。俺を守って兄貴自身は倒れる、なんて事にでもなったら今度は、後悔してもしきれないじゃないか。


「ふむふむ……ま、仮に名前はバレてなくっても一応、お前の方も危ないからね。ここはひとつ、ボクが一肌脱いであげるよ」

「え?」

「中途な呪いとは言え、何しろあの女王の術だ。ボクには完全に解く事は出来ないけど……それを“薄める”位なら出来ると思うよ。 ―― お前、ちょっとボクの前に座りな」


 座れ、といっても街中なんだが。でも、そんな反論は許さない様子のミールに、仕方なく従ってみせる……兎に跪く人間なんて、あまり人には見せられない光景だな。


 そんな愚痴を内心で零していると、ウサ耳を2,3度軽く振りたてたミールは徐にその気配を変える。小さな身体から想像を超える程の、神聖魔法にも似た“浄めの力”が溢れ出し……普段の男勝りな乱雑口調はどこへやら、の厳かな雰囲気を持つ一続きの言葉をその唇が紡いでいった。


「……その身に訪れし挫折と絶望は、決して越えられぬものではない。同じ時、汝には必ずや“救いの光”も訪れるであろう ―― 新たな力と希望を以て闇に打ち勝て、ブルーよ。雪兎族・ミールの名の下に、汝に天の加護と祝福を与えん」


 一連の、祝詞めいた言葉が終わった時。その手が白い髪へと伸びるや、痛くないのか? という勢いで一つまみ程も毛を引き抜き、そして……掌に凝らせた“浄めの力”の中へそれを落とし込むと、何か呪文らしきものを数言呟いた。するとそこには、やけにふんわりした感じの、絹より光沢がある白い、細めのリボンが現れる。


「これは、レッドさん用ね。お前は今の祝福だけで何とかいけると思うけど ―― 気休め程度かも知れないけどさ、一応これをお守りとしてレッドさんに渡しておいて。……厄介な仕事を頼んで悪かったよ、ごめん。お前達の無事はボクも祈ってるからね……それじゃっ」


 一瞬、泣きかけかと思える謝罪顔を見せるや、それこそ脱兎の勢いでミールは町の出口へと走っていってしまった。呼び止める間も……この「お守り」の礼を言う暇さえなく、である。


 次に会ったら、野菜スティックの3人前もおごってやるか ―― 再び会える筈もない、と頭のどこかで解っちゃいたのに、思わずそんな事を考えながら、俺はその姿を見送っていた。


─…‥・‥…─…‥・‥…─…‥・‥…─


 ―― そんな事件から、約一年後。


 ステラの南方に位置する神聖都市・オーガスタに奇妙な現象が起こっている、との噂が届いて暫くの後。兄貴の下へ、当のオーガスタから1つの依頼が舞い込んだ。


 一緒にその依頼内容を聞いていた俺は、どうにも嫌な予感がしてたまらず、この依頼だけは何が何でも断れ、と必死に兄貴へ訴えたが。変な所で頑固と言うか生真面目と言うか……な兄貴は結局、その制止を振り切ってオーガスタへと赴いてしまった。


 そして ―――― それが、俺が兄貴の元気な姿を見た『最後の時』となった……。


 やはり、あの女王の呪いが現実化してしまったと言う事なんだろう。ただでさえ、名だたる魔法種族・雪兎族でも歯が立たなかった程の呪術師だ、ましてや死に際の……それこそ全霊を込めての呪詛だったのだから。


 そしてその呪いは確実に、俺の上にも降りかかりかけていた。兄貴の後を追ってオーガスタで話を聞き、その遺志を継ぐべく事件を解決しようとアルパス監獄に向かった俺は、確かにあの時の女王の言葉……「挫折と絶望」を存分に味わったのだから。


 けれど、そこに颯爽と現れた『新たな力』―― 後の仲間達は、これまたあの時のミールの言葉通り、俺にとって「救いの光」となってくれた。彼女達が事件の後もずっと一緒に旅をしてくれたからこそ、俺は兄貴の死という絶望から立ち直る事が出来た……本当にそう思う。


 そう言う意味では、あのウサ耳子供には感謝しなくちゃいけないんだろう。例え兄貴が呪いを受けるきっかけを作った兎でもあるとはいえ ―― 色々と思う所はあるが、でも。


 これだけは確実に言える、俺は兎と……ラーンさんだけは一生苦手だ。きっと……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ