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不法行為につき、即座に駆逐いたします。〜突撃、いじめバスターズ!〜  作者: 村松希美


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第6章 選ばれし者の檻(おり)




放課後の校舎には、特有の静けさが流れていた。だが、二年生の教室の一つには、独特の刺々しい空気が滞留(たいりゅう)している。


「ねえ、掃除当番の表、まだ更新されてないんだけど。奨学生枠の人がサボると、私たちが汚れるんだけど」

冷たい声が教室に響いた。クラスの中心に君臨する女子生徒、藤堂麗華とうどう れいか。資産家の子女が通うこの学園で、彼女は「家柄」を盾に、生徒間の序列を支配していた。


ターゲットは、窓際で静かに本を読んでいた転校生の少年、相原湊あいはら みなと。彼が奨学生であることは、クラス全員が知っている周知の事実だった。

「ごめん。掃除は終わらせたはずだけど……」

「嘘つき。あそこの隅、まだ埃があったわよ。私たちの『聖域』を汚さないでくれる?」


周囲の取り巻きたちが、クスクスと笑う。直接的な暴力はない。しかし、湊の机の上には毎日濡れた雑巾(ぞうきん)が置かれ、共有のロッカーには彼の教科書が乱雑に投げ込まれる。それが、藤堂たちの「選民意識」に基づいた、陰湿な隔離工作だった。


教室の扉が、音もなく開いた。


「――『聖域』だと? 物理的な占有面積は公立も私立も平等だ。君たちの脳内にある序列とやらは、法的には何の効力も持たない妄想に過ぎない」

教室の空気が凍りついた。

現れたのは、陣内 蓮。そして、その後ろに呆れたような顔をした佐藤 翼。


「……またあんた? 『いじめバスターズ』だっけ。滑稽だわ。身分もわきまえない雑魚(ざこ)が」

藤堂は冷笑を浮かべた。蓮は表情一つ変えず、タブレットを起動する。


「藤堂麗華。君が行っている行為は、相原湊君に対する『職場環境調整義務違反』の学生版、つまり『学園生活妨害』に該当する可能性がある。民法第709条、不法行為による損害賠償責任。慰謝料の算定基準を提示しようか?」


「はあ? 法律? ここは学校よ。私たちの『文化』が全てなの」

「文化とは、他者を(おとし)めることでしか自分を保てない人間のための言い訳だ」

蓮は一歩、藤堂のデスクに近づいた。「翼、証拠を」


「あいよ」

翼がスマホをかざす。画面には、藤堂が他の生徒に「湊を無視するように」と指示を出しているLINEのスクリーンショットが映し出されていた。


「これ、全校生徒の掲示板に流す準備はできてるぜ。あと、先生への報告書もな」

藤堂の顔色が、さっと青ざめた。


「あんたたち……!」

「藤堂。君が自分の家柄を誇るのは勝手だ。だが、それを用いて他者の学習権を侵害する権利は、日本国憲法にも学則にも書かれていない」

蓮の視線は、冷徹なまでに真っ直ぐだった。


「もし相原君への嫌がらせが続くなら、君の親御さんに『学園生活において著しく品性を欠く行為を行った』として、正式に内容証明を送る。私立高校にとって、退学勧告は避けたい不名誉だろう?」


その言葉は、藤堂の「家柄」という(よろい)を物理的に無効化した。彼女が何よりも恐れているのは、自分の「汚点」が親に知られ、学園での居場所を失うことだった。


「……覚えてなさいよ」

藤堂は捨て台詞を吐き、取り巻きたちを連れて教室を出て行った。

教室には、静寂が戻った。湊は呆然と二人を見つめていた。


「……どうして、僕を?」

蓮は、そっと六法全書を鞄にしまった。

「理由は、君がここにいる権利を持っているからだ。それ以外に理由がいるか?」


湊の瞳が揺れる。かつての自分を見ているような蓮の瞳に、彼は「自分はここにいてもいいんだ」という救いを感じた。


放課後の廊下を、蓮と翼が歩く。

「……蓮、今回は上手くいったな。でも、藤堂みたいなタイプは、今度はもっと巧妙な手で仕返ししてくるぞ」


「ああ、承知している。だが、一度『反撃される可能性がある』と教えれば、彼らの支配は揺らぐ。恐怖で繋がれた関係は、論理的な事実の前では(もろ)い」


「相変わらずだな。……で、今日のLサイズポテトは、どの店にする?」

蓮は少しだけ口角を上げた。


「学園の近くに新しいバーガーショップができた。論理的に考えて、今日の我々の功績には、シェイクも追加する必要があるだろう」


「おっ、言うねえ! さすが相棒!」

二人の笑い声が、夕暮れの校舎に響く。

学園という名の「檻」に、彼らは小さな、しかし確実に風穴を開けた。それが、後に訪れる「カースト崩壊」への序章になるとも知らずに。


二人の後ろで、湊はゆっくりと立ち上がった。

窓から差し込む夕日は、昨日までよりもずっと温かく感じられた。








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