第5章 スポットライトの影と法のカーテンコール
第1節:嫉妬という名の不法行為
文化祭の熱気が冷めやらぬ、11月の校舎。廊下を歩く陣内 蓮と佐藤 翼の耳に、ヒソヒソとした陰湿な囁き声が届いた。
「あのさ、高田さん。次の買い出し、一人で行ってくれる?」
「……うん、わかった」
声の主は、2年A組の女子グループだった。ターゲットにされているのは、演劇部のエースである高田小夜子。先日行われた文化祭の『ロミオとジュリエット』で、彼女は儚くも芯のあるジュリエットを演じ切り、その実力は誰もが認めるところだった。
しかし、その「役得」が、彼女を地獄に突き落とした。ロミオ役を演じた一条大樹は、学校中の女子が憧れる不動のアイドル。そんな彼と恋人同士の距離感で演技をした小夜子に対し、熱狂的な一条ファンである女子たちが激しい嫉妬の炎を燃やしていたのだ。
「無視、パシリ、机の隠匿。……典型的な『女子特有の陰湿的排除行為』だな」
蓮は通り過ぎざま、手元のタブレットにさらさらとメモを打ち込んだ。
「待て蓮。お前、また首突っ込む気か?」
翼が焦ったように小声を出す。「いいか、女子のいじめに男が入ったら状況が悪化するってのは世の常識だぞ! 『あいつ、一条くんのジュリエット気取り?』とか言われて、余計に小夜子が追い詰められるぞ!」
「翼、それは三流の考えだ」
蓮はメガネをくいっと上げ、鋭い光を宿した。
「感情論でぶつかるから角が立つ。私がやるのは、法的根拠に基づく『不当な扱いの是正』だ。それに、小夜子さんは演劇部での私の活動(いじめバスターズのポスター作成)を密かに手伝ってくれた恩人だ。不法行為を見過ごすわけにはいかない」
第2節:法律オタク、演劇部の舞台裏へ
放課後の演劇部準備室。小夜子は一人で重い衣装ケースを運んでいた。A組の女子たちが、わざと彼女の進路を塞ぐようにして、聞こえよがしに笑っている。
「ねえ、大樹くんの隣に立てると思っていい気になってない? 実力? 笑わせないでよ。ただのおばさん役が適任じゃない?」
小夜子が唇を噛み締め、俯いたその時。
「『侮辱罪(刑法第231条)』。および、個人の尊厳を不当に毀損する行為は、民法上の不法行為に該当する可能性がある。君たち、法廷でその発言を再現する覚悟はあるかね?」
冷徹な声が準備室に響いた。蓮と翼が、まるで風紀委員のような重厚な足取りで現れた。
「な、何よあんたたち! 演劇部のことに関係ないでしょ!」
「関係大ありだ」
蓮は懐から小型カメラを取り出した。
「君たちがこれまで高田小夜子さんに対して行ってきた、買い出しの強要、持ち物の損壊、そして現在進行形の集団的な心理的攻撃。これらすべて、私のボイスレコーダーと、このカメラが記録している。これを証拠として提出すれば、学校のいじめ防止対策推進法に基づく『重大事態』として、保護者同伴の指導が入ることになるが、それでいいのか?」
女子たちは顔を見合わせ、気まずそうにその場を離れていった。
「……陣内くん、佐藤くん。ありがとう」
小夜子が震える声で礼を言う。しかし、蓮の介入に対し、周囲からは「陣内がジュリエットを守ってる? 気持ち悪っ」という、別の噂が立ち始めていた。
第3節:恋のベクトルと法的な防御
数日後。蓮は小夜子の相談に乗るという名目で、昼休みに彼女と話していた。蓮の胸のどこかで、かつて守れなかった白雪 紬の面影が、小夜子の憂いを帯びた瞳と重なる。
(私が君を救う。今度こそ、誰の脅威にも晒されないように)
蓮の胸が高鳴る。紬のことを想う気持ちは変わらないが、目の前で傷つく小夜子を放っておけないという感情もまた、嘘偽りないものだった。
「あの、陣内くん……」
小夜子がためらいがちに口を開く。「実は、一条くんから連絡があって……」
その瞬間、準備室のドアが勢いよく開いた。現れたのは、演劇部のロミオこと一条大樹だった。彼は蓮を鋭い眼光で射抜くと、小夜子の肩をそっと抱き寄せた。
「陣内、小夜子を助けてくれて感謝してる。だが、彼女を守るのは俺の役目だ」
「な……ッ!?」
蓮はフリーズした。
一条は爽やかに笑った。「小夜子と俺は、文化祭のずっと前から付き合ってる。彼女がいじめられていたのは知っていた。俺が人気者だから、俺のファンが彼女に当たる……それを防ぐために、俺たちが『恋人同士であること』を公式に発表することにしたんだ。もう、誰も彼女を傷つける理由はないだろ?」
蓮は、その場で全身の回路がショートしたかのように硬直した。
第4節:結末――そしてバスターズは行く
放課後の屋上。蓮はジュースを握りしめ、魂が抜けたような表情で空を見上げていた。
「……完全なる敗北だ」
「まあ、そうなるよな。一条くんと小夜子ちゃん、完全な両想いだもん」
翼が苦笑交じりに背中を叩く。
「いや、違う。私の法的な介入は正当だった。しかし……恋の法理においては、私は圧倒的に『第三者』であり、原告としての適格性を欠いていたのだ」
蓮は深く溜息をつき、いつもの強気な笑顔に戻った。
「まあいい。高田さんが幸せなら、それが法的にも、倫理的にも最適解だ。いじめという不法行為が解消されたのなら、私の任務は完了だ。それよりも翼、次なる『いじめ』の予兆を感知した。2年C組のSNSグループで、特定の生徒がターゲットになりかけている!」
「はいはい、わかったよバスターズ!」
翼は呆れながらも、蓮の背中を追いかけた。
蓮の紬を想うピュアな心はそのままに、彼はまた新たな「理不尽」を駆逐するために走り出す。
たとえ恋が実らなくても、理不尽に怯える誰かがいる限り、彼の六法全書は閉じられることはない。
――いじめバスターズの戦いは、まだまだ続く。
(終)
女子特有のいじめは男子が助っ人に入ったら、余計にこじれてしまうものですが、アイデアを出したら、AIがこのような物語を作ってくれました。




