第32話 才斗とお揃い♡
「わぁ~。本当にコスプレしてる。それって何のキャラなの才斗?」
「ああ、これは人気マンガの主人公ので」
うちのクラスの出し物のコンカフェに来た玲は、真っすぐに俺の方に来て興味津々に訊ねてきた。
「いや、玲……。まずは俺だけ何で執事服じゃないのかが気にならないのか?」
「え? あ、ホントだね。才斗しか見てなかったから気づかなかった」
俺の指摘に対して、玲が屈託のない笑顔を見せる。
その裏表の無さに、俺の一人だけ執事服からハブにされた心の傷は少し癒された。
だが。
「あれが叡桜女子高の王子様……」
「間近で見ると、超絶美人だな……」
「そんな美人が九条にあんな夢中になって……」
「悲報。執事服でキメた俺達。王子様の視界にすら入っていなかった模様」
「こんなんモブ以下ですやん……」
「あ。シンプルに死にたい……」
クラス男子たちがあからさまに意気消沈する。
でも、今回は俺の事を意図的にハブにしたので、俺の方からも助け舟は出さんぞ。
そして……。
「玲様、輝くような笑顔ですわね……」
「玲様……やはり、あの男の事が……」
「グフッ……吐血が……」
「皆の者! ハンカチで目を塞ぎなさい!」
玲の親衛隊の面々もダメージを受けている様子だが、これも俺にはどうすることも出来ない。
佐々木さんの号令で、お嬢様女子高生がハンカチで目を一斉に隠しているのは、相変わらず異様な光景である。
「一緒に写真撮ろ才斗!」
周りが死屍累々の状態なのに、本当に玲はこういう時に一切空気を読まないな……。
まぁ、素直で真っすぐなのが玲の良い所なのだが。
「あ、そう言えばキャストとの写真撮影ってお金かかるんだよね中條さん。男子の場合はいくらだっけ……。って大丈夫? 中條さん」
なぜか中條さんは、カフェの客席に隠れて、なるべく表面積を小さくしている。
「ああ、中條さん。この間はどうも」
「え、ええ……玲殿。いらっしゃいませ……」
玲も気づいて挨拶すると、中條さんが歯切れ悪く挨拶をすると、観念したようにこちらに来る。
「あれ? 中條さんって玲と面識あったっけ?」
「いや、九条殿は記憶力死んでるんですかな? 夏休み中に吾輩をスケートリンクに呼び出した時に、玲殿に取っ捕まったんでござるよ……」
ああ。
婚約した凛奈へどうしたらいいか相談した時か。
「そっか。俺の知らないところで、2人が仲良くなってくれてるのは、ちょっと嬉しいな」
「あ~、もうツッコミ入れるの面倒でござるな」
「そんな! 俺のこと捨てないで中條さん!」
ジト目を向けてくる中條さんに追いすがる俺。
中條さんという心のオアシスがないと、俺、この学校で生きていけないよ。
「だぁ~! だから、そういう誤解されるような事言うと!」
「中條さん……あんなに否定してたのにやっぱり……」
「ほらぁ! すぐに王子様が闇堕ちしちゃうでござるから!」
おお……。
最近はロミオ役でカッコいい玲を見る事が多かったから、久しぶりのヤンデレ王子バージョンはちょっと新鮮だ。
「さっきからホールが騒がしいと思ったら痴女王子が来たのか」
「あ、愛梨ちゃん。魔法少女の格好、可愛いね」
闇墜ちしかけていた玲だが、魔法少女姿の愛梨によって、上手く毒抜きされた。
「まったく……メイド服の方がまだマシじゃったのに……」
「流石に、愛梨殿の身長では衣装のサイズ調整にも限界があったでござるよ」
ボヤく愛梨に、すかさず中條さんが説明を補足する。
そっか……。執事コンセプトでないのは俺だけじゃなかったか。
仲間がいると心強いな。
「あら、ヘタレ王子来たのね」
真っ先に出てくると思っていた凛奈だが、真打登場とばかりにゆっくりホールに降臨される。
って、あれ?
凛奈もメイド服じゃなく、元の大正浪漫活劇の剣士服のままだ。
「その格好……凛奈ちゃん、ひょっとして……」
「そっ。才斗とお揃い♡」
そう言って、凛奈は玲に見せつけるように、俺と腕を組んで身体を寄せる。
「お~。キャラの合わせはやっぱり良いでござるな~。流石、同人誌では夫婦カップリングされてるだけあるでござるよ」
いつの間にか構えていた、女子高生が持つには随分とゴツイ一眼レフカメラを向けながら、中條さんが何度もこちらにシャッターを切る。
中條さんって、普段は空気がとても読めるのに、オタク魂が背骨にあるから、それ関係になると一切空気読まねぇなホント……。
「そうなのよね~。やっぱり、こういうのって、隠してても夫婦的な落ち着きが私と才斗の間から醸し出されて」
「凛奈ちゃん……それは、ボクへのマウントかな?」
そして、分かりやすい挑発に全力で乗っかる玲。
ああ、もう……。
またケンカかよ……。
「あ、ごめ~ん。だって、ヘタレ王子は学校も違うから、こういう事できないもんね」
「ぐぎぎっ……」
「ちょ! 玲、女の子がそんな歯ぎしりしないの!」
今にも泣きそうな玲を宥めたいところだが、特にこれといった材料が……。
「玲殿、玲殿。ちょいとちょいと。耳寄りな話が」
と思っていたら、中條さんが玲の方へ近づいて何やら耳打ちする。
「それ、ホント!?」
「ええ。ちゃんと、担任の寝屋教諭には許可も取ってるので」
「やる!」
2人で何やらコソコソと裏へ行ってしまう玲と中條さんを、俺達や佐々木さんを筆頭とした親衛隊が怪訝そうにしながらも、見送ったのであった。
玲と中條さんとの裏話については、電車王子様2巻のゲーマーズ様特典SS『中條さんの憂鬱』に掲載されています。
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