第33話 死にやがれですわ
「う~ん。この肉巻きおにぎり串は美味しいですわ」
「たしかに、食欲をそそる匂いで、うめぇですわ」
「先日、我が校の文化祭で出店していた出張屋台で食べた焼きそばが、今でも私、忘れられませんの」
叡桜女子高の面々は、裏に引っ込んだ玲の事が気になりつつも、同じく気になっていた、叡山高校文化祭で出す食べ物に舌鼓を打っていた。
どうやらお嬢様たちとしては、パンケーキなどの映えスイーツよりも、肉巻きおにぎり串の方が物珍しくてお口に合うようだ。
「お口に合って何よりです」
「ええ、美味しいですわ。それと、貴方に話しかけられると虫唾が走り回るので、声をかけないでくださいな」
「死にやがれですわ」
──なんだこれ、帰りてぇ!
客から店員へのカスタマーハラスメントが厳しい昨今なのに、モロに罵倒されてるんだけど⁉
しかも、見た目淑やかなお嬢様から言われるのがよりダメージがデカい。
「もう、こんな事なら俺、キッチンの方に引っ込んでようかな……」
午前の俺は、キッチンであんなに輝いていたのに。
お客さんの叡桜女子の皆さんに不快感を与えるなら、いっそキッチンの方でと思った俺は、裏に引っ込む。
「ほい。パンケーキあがりなのじゃ」
「愛梨ちゃん、トッピング綺麗で上手~い」
「肉巻きおにぎり後2分で上がる。タイマーかけてるから、私皿洗っとく」
「西野さん、手際すご……」
──あ……。これ、キッチンにも俺の居場所無いわ。
キッチン内の女子は、愛梨と凛奈によって完全に掌握されており、上手く回っていた。
そもそも、今は男子生徒が接客をする時間な訳だし、俺だけサボって女子達と裏で戯れてたなんて思われたら、今度こそ男子たちから唾棄すべき行いとして嫌われるだろう。
ここは、諦めてホールに戻る俺。
──それにしても、やはりというべきか午前の部にはお客さんがそこまで入ってないな。
今は一応、叡桜女子高の子たちで店内は満席だが、入店待ちの列はゼロで、午前の大賑わいと比べると幾分か寂しい。
中條さんの戦略だったが、やはり野郎の執事服なんて、よほどのイケメンが着てるとかでもない限り、需要はそんなに……。
と、俺は親友の事をチラッと疑った。
だが、それは俺の愚かな誤りであった。
「ええと……中條さん。着たのはいいんだけど、ボクの服、才斗のと大分違わない?」
「まぁまぁまぁ」
中條さんに背中を押されながら、何やら戸惑い気味な玲がホールに現れた瞬間。
「「「「わきゃああぁぁぁぁああああ!」」」」
突然、女子たちの叫び声が店内に響いた。
玲が、執事服を着ていたのだ。
長身で手足の長い玲は、裾の長い燕尾服タイプの執事服を難なく着こなしている。
そして、その右目には片眼鏡が輝き、元から持つ銀髪の髪と相まって、まるでマンガの世界から抜け出てきたような存在感を放つ。
故に、親衛隊たちからの大歓声である。
「きゃああぁぁあああ玲様! こっち向いて!」
「視線こっちに! いい! いいですわっ!」
大興奮の親衛隊の子たちに、すかさず中條さんが近付く。
「お客様ぁ。当店では、キャストの撮影は有料となっておりますで候。1ショット500円、2ショット撮影は1,000円からでござる。給仕の際に指名料を支払うとキャストが指定できます。指名料は時価で」
「はいはい! 私、玲様の指名料に5,000円出します!」
「こなくそっ! 私は1万ですわ!」
市場原理に基づき、あっという間に吊り上がる玲の指名料。
そうか……。
これが中條さんの狙いだったのか……。
「ここまで読んでたんだ。凄いね中條さん」
「なははっ! 叡桜女子高の人たちの訪問時間は聞いておりましたからな。持つべきは、インサイダー情報を流してくれるマイブラザーですな」
中條会長から情報を聞いてたのね。
しかし、思い切った作戦を取るもんだ。
それはそうと、俺には一つ気になる事があった。
「っていうか、玲の着てる燕尾服なんだけど」
「どうでござる? 吾輩の同志たちが、コス衣装作りの技術の粋を結集して仕立てた逸品でござるよ。サイズは例のまぁまぁニキ動画から身長や腕、股下の長さを推計して」
「……そんな芸当が出来たなら、俺の分の執事服も作れたんじゃないの?」
「おっと、そこなご令嬢。勝手な撮影はダメでござるよぉ」
──誤魔化した……。
結局、午後の部の営業は、午前以上の賑わいになった。
なお、客は女性客オンリーだったが、全部玲がかっさらっていったため、クラス男子の平の執事たちは、俺と同じくやる事がなかった。
何だか、職場で干されたオジサンみたいな気分で居た堪れなかったという点では、この時ばかりはクラスの男子たちとシンパシーを感じ合わずにはいられなかった。
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