第30話 チェストォォォォ!
『これより叡山高等学校の文化祭を開催します!』
「「「うおらっしゃああぁぁあ!」」」
各教室から歓声が上がる。
──ついこの間、叡桜女子高での文化祭開始時とはだいぶ雰囲気が違うよな~。
なんて言ったら、『一人だけ女子高の文化祭に行った裏切者が!』とクラスの男子との距離がまた遠くなるのがオチなので黙っておく。
「さて。1日目の午前の部は、クラス出し物のシフトか。しかし、この格好は慣れないな……」
用意した大正ロマン活劇の剣士キャラの服は、着物に袴という出で立ちで足元も草履だ。
まぁ、こういうコンカフェで野郎店員になんて、客も興味は無いだろう。
「才斗。お客さんが来る前に一緒に写真撮ろ」
そう言って、凛奈がこちらに来た。
凛奈の姿は、俺と同じ大正ロマン活劇の女性剣士。
いざコンカフェが始まったら、こういう凛奈みたいなのが注目の的になるんだろうな。
「お~。再現度高いな凛奈」
「そこは、ちゃんと可愛いねって言って欲しいんだけど。婚約者なんだから」
だから、婚約者って言っても仮だっての。
「可愛いねは、家で着て見せてくれた時に言ったじゃん」
「そうだけど~。今回の方が、ヘアメイクもちゃんとしてるんだからね……」
モジモジと凛奈が褒めて欲しそうに、こちらを見てくる。
たしかに、いつもの黒髪ロングの凛奈とは違い、髪をサイドポニーテールにして、毛先にふんわりとウェーブがかかっているのは、計算し尽されて、見事に原作再現されていた。
けど……。
俺だって、褒め言葉の一つや二つ言いたいのは山々なんだが……。
「家で着て見せ……。ハハハ……そうだよな……そりゃそうだよな……。そりゃ、若いんだから当然、そっちにも使うよな」
「彼女にコスプレさせたい人生だった……」
「おかしいな……。文化祭ってアオハルイベントなのに、開始早々から死にたくなってきたぞ……」
クラスの男子たちのテンションが駄々下がってるんだよな……。
とても、これから祭りを始めるようには見えない。
「なははっ! 見せつけてくれますな~九条夫婦は」
「いや中條さん。その呼称には大いに語弊が……」
「あら、中條さん、たまには良い事言うじゃない。あと、ヘアメイクありがとね」
俺の訂正は無視され、凛奈が既成事実化される。
ああ、凛奈のヘアメイクは中條さんが担当したのか。
「いやいや、これくらい訳ないでござるよ。西野殿を通して預かった、本職メイドの草鹿先輩からのヘアメイクマニュアルもありましたので」
そんなマニュアルまで拵えてるのか草鹿さんは。
っていうか、凛奈のヘアメイクは草鹿さんがしに来るのかなと思ったのだが、そういや仕事で最近は不在がちだって、凛奈も言ってたな。
「それにしても中條さんの格好は気合い入ってるね」
「コスプレは日頃、陰キャの吾輩たちのような人種が唯一輝ける所ですからな~。一枚布の裁断からやりましたからな」
「持ってるのもデッカイ十字架だね。それ武器?」
中條さんは大人気ゲームアプリのキャラのコスプレをしていて、武器の小道具まで用意していた。
「中條さん、普段は教室のすみっこでドゥヒュドゥヒュ言ってるけど……」
「コンタクトして着飾ったら、めっちゃ美人だな」
「よく見たら、胸も結構あるし……」
「アリ……だな……」
「俺は前から、彼女の隠れ美人度について知ってたから」
「一緒に文化祭回ろうって中條さん誘ってみようかな……」
何やら、クラスの男子たちが中條さんへ熱い視線を送っている。
まぁ実際中條さんは、コスプレがキャラ負けしない程度にスタイル抜群で、喋らなければ美人だからな。
「九条殿は、流石に吾輩のこの格好でも驚かないですな。まぁ、九条殿とは夏休みに2人きりでプールに遊びに行った時にメガネ無しで密会しておりましたしなぁ」
「ちょ! 中條さん⁉」
事実だけど、プールの時にはあんなにクラスメイトと出くわすのを嫌がってたのに、何で暴露を⁉
「夏休み……クラスの女の子とプール……」
「死にたい……」
「ボクノホウガサキニスキダッタノニ……」
「また九条かよ……」
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
ほらぁ!
折角色めき立ってた男子たちが、絶望顔してんじゃん!
「ふぅ。これで、変に男子たちから言い寄られる心配はないでござるな。まったく、吾輩がモテるのは解釈違いでござるからな」
「俺を防波堤にしやがったな!」
「それ位、いつも相談に乗ってやってる吉見で引き受けろでござるよ。それよりも九条殿、後ろ後ろ」
「後ろ?」
野郎よけの防波堤にされたことに詰め寄っていたら、中條さんが指先で俺の後方を指さしているので振り返ると。
「才斗……。夏休みに中條さんと2人きりでプールってどういう事かな? 婚約者の私にも分かるように答えて欲しいんだけど……斬首する前に……」
顔は笑顔だけど、どす黒いオーラをまとった凛奈が立っていた。
いつの間にか持たされていた模造刀を抜き身にしていて迫力が凄い。
「お~。コスプレキャラの、ダークサイドに堕ちるシーンを見事に西野殿が再現出来てるでござるな」
「何、呑気なこと言ってんだ中條さん! これ、中條さんも一緒に粛清される奴だよ!」
「今後、男子たちに付きまとわれる面倒な状況に陥るよりはマシでござる。一緒に死のう? マスター」
「誰がマスターじゃ!」
「さぁ……吐きなさい、才斗」
「ええと……模造刀とは言え危ないから、そんな物を振り上げちゃダメだぞ~凛奈」
夏休みに中條さんに凛奈の件で相談するために一緒にプールに行っていた事を、右手で剣を高く振り上げ、左手を添えた最初の一撃にすべてを賭けた構えの凛奈に、絶賛激詰めされてる俺。
「大丈夫よ才斗。ちょっとチェストするだけだから」
「何も大丈夫じゃねぇ!」
チェストって、凛奈って習い事で示現流でも修めたんか⁉
「マスター、命令を」
「さっきから言ってるマスターって何、中條さん⁉ 俺、原作知らないんだけど!」
いつも頼りになる相談相手の中條さんだが、どうやら今はコスプレをして原作キャラの性格に引っ張られていて、全然動こうとしないし。
俺が斬られた後に、今度は自分も凛奈からチェストされると分かってない。
「チェストォォォォ!」
そうこうしている間に猿叫と共に振り下ろされる、凛奈の一の太刀。
剣士役だから合ってるけども!
『示現流の一の太刀は受けるな。受けた刀ごと頭蓋を割られるぞ』
一応、俺の腰にもある刀で受けるのは色々な意味でリスクがあった。
ここは一か八か……と覚悟を決めた刹那。
疾風のように何かが俺の前を横切った。
「おい、痴女お嬢。ケンカで長物を使うのは、うちのシマじゃご法度じゃぞ」
示現流基本の構えから放たれた、一撃必殺の剛剣を、愛梨が片手で持った杖できっちり受けきってみせた。
さすがは地元では番長総代の愛梨である。
ただ……。
「かわいいいぃぃい!」
「これ、俺らが子供の頃の魔法少女の格好だよな」
「この魔法杖、当時私も誕生日プレゼントでもらった~」
「な……、なんじゃ、なんじゃ」
ここからバトル展開と思いきや魔法少女のコスプレをしている愛梨に、クラスの皆が群がって来る。
その様子に困惑する愛梨。
「さっきの西野さんとの殺陣も凄かったね。カフェの中でやるステージ公演にも組み込もうよ」
「小っちゃくて可愛いしね」
「九条君の地元の後輩って言うから、てっきりガラの悪い人を想像してたのにね」
はしゃぐクラスの面々。
「ちっ! 興が削がれた……。命拾いしたわね、才斗……」
さっきの大立ち回りも、殺陣の演出だと思ってくれたクラスの皆が周囲に集まってきてしまった事もあり、舌打ちしながら凛奈が刀を鞘に収める。
とりあえず、助かっ……。
「文化祭の後でお話があるからね才斗」
どうやら、俺の命は首の皮一枚しか繋がっていない様子……。
こうして、波乱の文化祭は幕を開けたのであった。
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