前期中間考査
おばあちゃんのお通夜、お葬式を終え、家に戻ってきた。
そろそろ前期中間考査なので、明日から、試験勉強、はじめないと…。
明日、学校に行くための準備を始める。
いつものように教科書、ノート、それから・・・・。
「グリモア」と「直通電話」もカバンに入れ、財布には例の「黒いクレジットカード」も入れておいた。
「グリモア」はノートの姿に偽装しておいた。
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学校では、いつもと同じように授業を受けていたのだけど、
いつもより、授業の内容が頭に入っていっている気がした。
少しだけ、頭が良くなったような感覚を感じていた。
いつもボソボソとしゃべって聞こえにくい為、
とても眠くなる事で有名な数学担当の「真倉先生」の授業でも、
不思議とハッキリ聞き取る事が出来て、今日は、眠らずに授業を終える事が出来た。
先生の話し方が変わったのかな?…と思い、
周りを見ると、教室の7割以上の生徒が、眠気に勝てずに寝てしまってたので、
いつもの「真倉先生」の授業だったんだな…と思った。
今日から、授業の内容が頭に入ってきた…といっても、私の成績は、いつも、中の中くらい。
極めて平凡な成績の私が、そんな変化くらいで、何かが変わるとは思えない。
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休み時間は、ノートに偽装された「グリモア」を読んでいた。
本は大好きだけど「グリモア」の話は「普通の本」と比べて、バツグンに面白い。
活字で表現されているのに、とてもリアルで、実体験をしているかのように、没入出来る。
飽きさせない工夫が随所に見られて、ず~っと読んでいたいという気にさせる。
ふと、私は、周りの視線が気になった。
私は、本を読んでいる時、表情が、ものすごく変わってしまうらしい。
いつもは、単行本を読みながら、それをしているので、まだ良いのだが、
今日は、自分のノートに偽装した「グリモア」を読んでいる。
周りから見たら、自分のノートを見ながら、ニヤニヤしている変なヤツに見えてたかも?。
ノートに偽装させるのは、ちょっと「無理」があったかな。
これからは、単行本に偽装させる事にしよう。
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放課後、私の居場所は、いつも通り図書館だった。
でも、今は図書館の本よりも「グリモア」に夢中だ。
今は、いつも読んでいる小説の単行本の姿をさせている。
家でも読めるのだが、お母さんが煩いので図書館に来てしまう。
それに図書館は、大好きな本の香りに囲まれて、落ち着くのだ。
「グリモア」の中の話は、試験勉強をする少女の話になっていた。
数学では、話の中で、主人公の少女は試験勉強をしているが、
あるある的な失敗をやらかしながら、解決策を自ら見つけ出し、
理解を深めていくというという内容だった。
歴史では、過去の史実を実体験していった。
物理や化学では、実際に、様々な実験をしていきながら、
公式を生み出すまでの過程を実体験していった。
…というような感じで「グリモア」の話は、とてもリアルで、自分が実体験したように感じていた。
だから、どんな参考書よりも、わかりやすく頭に入ってきた。
それでいて、実際に体験するよりも、非常に短時間で、それを読み終えていた。
だから、あれも、これも、勉強する事が出来た。
一度にたくさん詰め込むと、頭がパンクしそうになる気がするが、
不思議と、頭の中はスッキリしていて、いくらでも読めそうだ。
そして、不思議と、それは、今度の試験範囲に合致していた。
だから、試験前でも「グリモア」だけを読んでいた。
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試験当日。
今回は、いつもより、ちょっとだけ出来た気がした。
いつも、中の中くらいだけど、今回は、中の上くらいに、なってるかも…。
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数日後、試験結果が、壁に貼り出された。
うちの学校では、答案が返される前に、試験順位と合計点数が貼りだされる。
いつも、学年の真ん中くらいという平凡な順位の私にとって、順位など興味がない事だ。
だけど、今日は、皆が、なんだか、騒いでいた。
「えっ?。あれって、うちのクラスの明石さん?」
「明石さん、すごっ…」
…とか、聞こえてくる。え?。私、何かやらかした?。
普段、本ばかり読んでいる私に、話かけてくる人なんて、殆どいないのだが、この日は違っていた。
「明石さん、明石さん、すごい事になってるよ。」
「明石さん、あんた、どうしたの?。」
「え?」
「ちょっと来て、来て…。」
試験順位が、貼りだされているところまで、連れてこられた。
「見て、見て、あんた、1番になってるよ?」
「え?、えぇ…!?」
え、学年トップ?
「グリモア」で勉強した「前期中間考査」は、信じられない成績になった。
あれ?、全教科満点?。私だけ?。
何だか、2位の人と大差をつけて、ブッチギリの1番になっていた。
あれぇ…!?
「あんた、一体どうしたの?」
「えーっと、今回、いつもと、勉強方法を変えたからかな…。」
ふと視線を感じて、振り向くと、中学の頃から、常に学年トップの才女「綾部 希美」さんが、怖いくらい悔しそうな目で、私を見ていた。
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「綾部 希美」は、総理大臣「綾部 総一郎」を父親に持ち、自分も総理大臣になる事を夢見ている。
その為、常に、何でも1番になる事に、とても、こだわりを持っていた。
スポーツ万能、容姿端麗、成績優秀で常に学園トップ…を維持し続けてきたのだが、今回の前期中間考査では「明石 晶」に負けた。それも大差で…。
今回の試験は、とても難しかった。特に数学が…。
数学担当の「真倉先生」は、いつもボソボソとしゃべって聞こえにくい授業をする為、とても眠りを誘う事で有名で、生徒たちからは「眠りの真倉」と呼ばれている。
たぶん、まともに授業を受けれてた子は少ない。
その上、ちゃんと聞いていても、先生の授業はわかりにくいので、
塾に通うか、家庭教師でもつけない限り、数学の点数は期待出来ないと言われている。
なので「綾部 希美」も家庭教師に教えてもらって、補完していた。
だけど、今回は、それ以上に、問題の難易度が高かった。
なぜなら、数学の「真倉先生」は、普段の授業でも、自分がどこまで教えたのか忘れてる事が多く、ほぼ毎回のように、いつも、生徒に「今日は、どこからかね?」と聞いてくる。
テスト問題も、どこまでの範囲から出題するか、よく把握してない状態でテキトーに作成する事が多いらしく、時々、教えてない範囲から出題してくるから注意してね‥と先輩たちから聞いていた。
だから、それに備えて、少し先のところまで予習するようにしていたのだが…。
今回出題されたのは、年度末くらいにやるような先の範囲のものが混じっていた。
結果、殆どの子が成績を落とした。ホントに勘弁してほしい。
だけど、そんな問題が出ていた数学も「明石 晶」は、満点だった。
「明石 晶」の事は、中学から知っていた。
同じ学校で、同じクラスだった事もある。中学でも、学年の真ん中くらいだったと思う。
少なくとも、学年上位50位に入る事などは1度もなかった。極めて「普通の子」だった。
そんな子が、全教科満点…!?。
何か勉強方法を変えたに違いない。どこの塾?。どこの家庭教師?。知りたい…。
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ふと、綾部さんと、目があった。
すると、綾部さんは、ズカズカと大股で、こちらに向かってきた。
「ちょっと明石さんに、お伺いしたい事があるんだけど…」
「何?」
「さっき、勉強法を変えたって言ってるのが聞こえたのんだけど、
私にも、それ、教えてくれない?。私、何が何でも、1番でありたいの。」
彼女は、私の目をしっかり見つめて聞いてくる。
コミ障の私には、こんなに見つめられて話をされるのは、ちょっとツライ。
だけど、彼女の目から「どうしても知りたい」という強い意志が伝わってくる。
でも「グリモア」の事を言っても信じてもらえないだろうな…、何て言おうか…。
「ちょっと言いにくいんだけど、私、本好きで、いつも活字と向き合っていて…」
綾部さんは、真剣なまなざしで、私の目をしっかりと見つめ、私の話に聞きいっている。
「今回は、小説仕立てで書かれている参考書を譲ってもらったので、それを読んでみたんです。
挿絵も図解もない本なので、私みたいな本好きでないと、逆にしんどいかもしれないです。」
…と、やんわりと、かわしてみたつもりだったけど…
「それ、私も読んでみたいわ。」
うーん「グリモア」は、貸したりする事が出来ないみたいだし、他の子では「読めない」らしいし…。
活字ビッシリの、今回読んだ話を、一部だけでも、書き写してみせたら、諦めてくれるかな!?。
「形見として譲られた本なので、貸してあげる事は出来ないんだけど…
試しに一部分だけでも、書き写してみましょうか?。」
「コピーしてくれるの?」
「いえ、ちょっと事情があって、コピーとか出来ないので、
私が、文字として、書き写す事になるんですが…」
「そこまでしてもらうのは、申し訳ないわ。
明石さんに、音読してもらって、それを私が書き写すとかいう事は出来ないかしら?。
出来れば、今度の日曜にでも、私の家で…。送り迎えの車も出すわ。」
「車?」
「私のお父さん、総理大臣してるから、歩いて登下校すると、
誘拐される危険があるから…って、いつも車での送り迎えなの。」
そういえば、綾部さんは、この前、通夜であった総理大臣と、同じ名字だ。
「じゃあ、今週の日曜に…。迎えに行くので、住所教えて…。」
何だか、ものすごくグイグイ来る子だ…。
熱意に負けて、住所を教え、今度の日曜に、彼女の家に行く事にした。




