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地味な読書少女と、世界を綴る本 ~静かに始まる小さな奇跡  作者: 秋月心文


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19/20

少しだけ特別な夏祭り

「夏祭り?」

「あぁ、どうかな?」

 圭佑は、私を元気づけたいらしい。

 私は、先日の津波の一件以来、どうにも気持ちが晴れなかった。

 そんな私の状態を気にしていたらしい。

「うん、いいよ」


 ・ ・ ・ そ の 夜 ・ ・ ・ ・


 出かける時、お母さんが浴衣を着つけしてくれた。

 私の身長だと子供っぽいデザインのものが多い。

 身長146㎝だしね。

 だけど、思っていたより、大人っぽい浴衣だった。

 あえて大人っぽい柄で仕立ててもらっていたらしい。


 家を出ると、秘かに同行していた水瀬管理官が、

 私の浴衣姿を見て、親指をグッとあげていた。

 え? これ用意したの水瀬さん?

 行くの決めたの今日の昼なんだけど?

 もしかして、国家権力?

 すごいな、国家権力。

 いいのか、こんな風に使って、国家権力。


 圭祐が用意していたのは、

 オープンタイプの小型スポーツカーだった。

「わっ!? こんなの買ってたの?」

「あぁ、悪くないだろ!」

 この車で夏祭り会場に向かう。

 スポーツカーの助手席か。

「どうぞ」

 ドアまで開けてくれるのか、紳士だな。

「ありがとう」

 ドアも優しく閉めてくれる。

 お姫様気分で悪くないかも。


 運転もスムーズだ。

 発進もブレーキも振動を感じない。

 「こわれやすいもの」でも扱うような慎重な運転だ。

 もしかして、私のことをそんな風にみてくれてる?

 「グリモア」のおかげで核攻撃でも無傷になった私を?


 エンジン音がしない。

 走っているのに、するすると滑るみたいに進む。

 変速ショックも感じない。

 よくわからないけど、そういう車を選んだらしい。


 ・ ・ ・ 夏祭り会場 ・ ・ ・ ・


 はしゃいでいるのは、圭祐の方だった。

 あれぇ!?

 日本の夏祭りは初めてだったらしい。


 そういうことなら、妹さんと一緒が良かったんじゃないの?

 そう思った途端、ふと視線を感じた。

 誰かにつけられている?

 また、どこかの勢力なのかな?

 いや、あれは、圭祐の妹の祐子ちゃんじゃない。

 何やってるの?

 どうやら、私たちの尾行をしているらしい。

 バレバレなんだけど。


 こうして、私は、今、なぞの三角関係のような構図だ。

 祐子ちゃんは、兄の圭祐のことが大好き。

 圭祐も、そうなんだろうけど、最近は、私のところに居ついている。

 まぁ、面白くないんだろうな。

 でも、この人ごみの中だ。もしも、迷子になったら困るし、見失われないように少しゆっくり歩こう。

 そう思ったのだけど……


「あっち行ってみようぜ」

「あ、ちょっと……」

 圭祐に手を引かれて引っ張られていく。

 「グリモア」が守ってくれるとはいえ、体はそのままなんだぞ。

 まったく、こっちがか弱い女子高生だってこと忘れてないか?


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 後ろを見る。

 良かった。ちゃんと付いて来ている。

 って……。いつの間にか、りんご飴食べてる!?

 反対の手には、綿あめまで……。

 ただの尾行のようで、なんだかんだ、夏祭りを満喫してる?

「ふふっ……」

 自然と笑っていた。

「良かった。楽しんでくれてるみたいだな」

 えぇ、楽しまされてるわ。あなたの妹さんにね……。

 そろそろいいかな。


 私は、祐子ちゃんに手で合図した。

 おいで、おいで……と。

「お兄ちゃん、ひどぉ~い」

 あたふたする圭祐。

 私は2人を抱き寄せ……。

「ここからは、2人で遊びましょう?」

「え? いいの?」

「今日はお祭りだよ。みんなで楽しく遊ぶ。そういう日なの」

「やった!!」


 圭祐はやれやれ...…という顔をしている。

 そんなことより、妹さんの浴衣を褒めてやれ!

 頑張って着付けしてきたみたいだぞ。

 祐子ちゃんが、圭祐の服を引っ張っている。

 ほら、ほら……。


「い、いまさらだけど。2人ともキレイだよ」

 え?

 私もか!?

 そういえば、何も言われてなかったな。

 なんだか、顔が熱くなる。

 天気予報でも、今夜も暑いとか言ってたな。


 私は、よくカワイイと言われる。

 高校生にもなっても、

 背が150㎝にすら届いてないこともあってか、

 幼い子どもに見られることが多い。


 だからか、人には大抵カワイイと言われる。

 褒めているのはわかっている。

 だけど、そう言われると背が低いことを言われてるみたいで、

 正直、良い気はしなかった。

 なのに、キレイと言われるかぁ……。

 キレイなんて言われるのは、初めてかも?

 こいつ、意外と私のことを理解してるのかな?


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「このあと、花火大会があるけど見ていくか」

 あなたの手の中にチケットが見えてるんだけど、

 なのに、あえて聞くのね?

「うん」

「もちろん行くよ、お兄ちゃん」

 祐子ちゃんはノリノリだ。

 それにしても、祐子ちゃん、高身長だね。

 私より、かなり年下だったと思ったけど……。

 いかん、いかん、そんなことで嫉妬してどうなる。

 気にしたところで背は伸びないのだ。


 あれ? 圭祐は3人の予定じゃなかったのでは?

 後ろを見ると、水瀬管理官が、親指をグッとあげていた。

 なんとか3人並んでいる席を用意したらしい。

 また国家権力か。

 便利すぎるだろ、国家権力。

 でも、ちょっとやりすぎかな? 国家権力。


 まぁ、楽しんでこいってことね。

 いいわ。それにのってあげましょう。

 有料の特等席で、花火見るなんて初めてだしね。


 ・ ・ 有料の特等席 ・ ・ ・


 上が見やすいようになっている席が用意されていた。

 かなり上等なシートだ。

 席と席の間隔もかなり空いていた。

 ドリンクホルダーや、お菓子を置ける机までついている。

 いたれりつくせりだ。


 圭祐が、ジュースとポップコーンを買って来た。

 映画館と勘違いしてないか?


 なんだか、よくわからない挨拶で少し待たされたあと、

 ようやく最初の花火が夜空へ打ち上がった。


 ヒューン、ドォォォン。

 ヒュルルル~、ドォォン、バラバラ……。


 特等席だけあって、人の頭で見えなくなることもない。


 いろいろな花火を満喫した。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「まだ、ちょっといいか」

「うん」

 妹さんを後ろの席に乗せて、

 圭祐が車を走らせる。


 頭の中には、よこしまな妄想が横切る

 今日は、ホテルを取ってるんだ……的な。

 何を考えてるんだ、私。


 次に圭祐が連れてきたのは、人気のない海岸だった。


 人気のない海岸!?

 まさか、そういう展開?

 いや、それはないな。妹の祐子ちゃんいるし。


「ジャ、ジャ~ン」

 圭祐がそういうノリで取り出したのは花火セットだった。

 なるほど、そういう趣旨か。

「ちょっとバケツに水汲んでくる」

 そう言って渡されたのは、

 花火セット、点火棒てんかぼう、ロウソク、

 軍手、蚊取り線香、ランタン式の懐中電灯。

 なんだか、徹底的なほど準備万端だ。


 こうして私たちは、バケツの水の上で線香花火をしたり、いろいろな花火を楽しんだ。

 使い終えた花火は、バケツの水の中に浸けていく。

 一晩から数日間は水に漬け込むのが大事だ。

 祐子ちゃんは、人生初めての花火だったらしく、

 とてもはしゃいでいた。圭祐もね……。


 帰りは、途中で祐子ちゃんを家に送った。

 その時、私は、祐子ちゃんに袋を1つ手渡した。

「これは?」

「あんまり食べてなかったでしょ」

 私は見ていた。

 祐子ちゃんは飴こそ食べてたけど、

 あまり、お腹に残るものは食べてなかった。

 だから、お祭りの時、余分に買っておいたのだ。

 やきそばとか、そういう系の食べ物を。

 もっとも、こんな夜中に渡すものではないのだろうけど。

「ありがとう」


 このあと、圭祐の運転で私の家に帰った。

「いつの間に買ってたんだ」

「ふふ~ん、秘密だよ」

 言えない、実は水瀬管理官に頼んでおいたとは。

 そうだよ、国家権力で。

 すごいね、国家権力。

 使っちゃうよ、国家権力。


 こうして、少しだけ特別な夏祭りの一日は終わった。

 お読みいただき、ありがとうございます!


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