少しだけ特別な夏祭り
「夏祭り?」
「あぁ、どうかな?」
圭佑は、私を元気づけたいらしい。
私は、先日の津波の一件以来、どうにも気持ちが晴れなかった。
そんな私の状態を気にしていたらしい。
「うん、いいよ」
・ ・ ・ そ の 夜 ・ ・ ・ ・
出かける時、お母さんが浴衣を着つけしてくれた。
私の身長だと子供っぽいデザインのものが多い。
身長146㎝だしね。
だけど、思っていたより、大人っぽい浴衣だった。
あえて大人っぽい柄で仕立ててもらっていたらしい。
家を出ると、秘かに同行していた水瀬管理官が、
私の浴衣姿を見て、親指をグッとあげていた。
え? これ用意したの水瀬さん?
行くの決めたの今日の昼なんだけど?
もしかして、国家権力?
すごいな、国家権力。
いいのか、こんな風に使って、国家権力。
圭祐が用意していたのは、
オープンタイプの小型スポーツカーだった。
「わっ!? こんなの買ってたの?」
「あぁ、悪くないだろ!」
この車で夏祭り会場に向かう。
スポーツカーの助手席か。
「どうぞ」
ドアまで開けてくれるのか、紳士だな。
「ありがとう」
ドアも優しく閉めてくれる。
お姫様気分で悪くないかも。
運転もスムーズだ。
発進もブレーキも振動を感じない。
「こわれやすいもの」でも扱うような慎重な運転だ。
もしかして、私のことをそんな風にみてくれてる?
「グリモア」のおかげで核攻撃でも無傷になった私を?
エンジン音がしない。
走っているのに、するすると滑るみたいに進む。
変速ショックも感じない。
よくわからないけど、そういう車を選んだらしい。
・ ・ ・ 夏祭り会場 ・ ・ ・ ・
はしゃいでいるのは、圭祐の方だった。
あれぇ!?
日本の夏祭りは初めてだったらしい。
そういうことなら、妹さんと一緒が良かったんじゃないの?
そう思った途端、ふと視線を感じた。
誰かにつけられている?
また、どこかの勢力なのかな?
いや、あれは、圭祐の妹の祐子ちゃんじゃない。
何やってるの?
どうやら、私たちの尾行をしているらしい。
バレバレなんだけど。
こうして、私は、今、なぞの三角関係のような構図だ。
祐子ちゃんは、兄の圭祐のことが大好き。
圭祐も、そうなんだろうけど、最近は、私のところに居ついている。
まぁ、面白くないんだろうな。
でも、この人ごみの中だ。もしも、迷子になったら困るし、見失われないように少しゆっくり歩こう。
そう思ったのだけど……
「あっち行ってみようぜ」
「あ、ちょっと……」
圭祐に手を引かれて引っ張られていく。
「グリモア」が守ってくれるとはいえ、体はそのままなんだぞ。
まったく、こっちがか弱い女子高生だってこと忘れてないか?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
後ろを見る。
良かった。ちゃんと付いて来ている。
って……。いつの間にか、りんご飴食べてる!?
反対の手には、綿あめまで……。
ただの尾行のようで、なんだかんだ、夏祭りを満喫してる?
「ふふっ……」
自然と笑っていた。
「良かった。楽しんでくれてるみたいだな」
えぇ、楽しまされてるわ。あなたの妹さんにね……。
そろそろいいかな。
私は、祐子ちゃんに手で合図した。
おいで、おいで……と。
「お兄ちゃん、ひどぉ~い」
あたふたする圭祐。
私は2人を抱き寄せ……。
「ここからは、2人で遊びましょう?」
「え? いいの?」
「今日はお祭りだよ。みんなで楽しく遊ぶ。そういう日なの」
「やった!!」
圭祐はやれやれ...…という顔をしている。
そんなことより、妹さんの浴衣を褒めてやれ!
頑張って着付けしてきたみたいだぞ。
祐子ちゃんが、圭祐の服を引っ張っている。
ほら、ほら……。
「い、いまさらだけど。2人ともキレイだよ」
え?
私もか!?
そういえば、何も言われてなかったな。
なんだか、顔が熱くなる。
天気予報でも、今夜も暑いとか言ってたな。
私は、よくカワイイと言われる。
高校生にもなっても、
背が150㎝にすら届いてないこともあってか、
幼い子どもに見られることが多い。
だからか、人には大抵カワイイと言われる。
褒めているのはわかっている。
だけど、そう言われると背が低いことを言われてるみたいで、
正直、良い気はしなかった。
なのに、キレイと言われるかぁ……。
キレイなんて言われるのは、初めてかも?
こいつ、意外と私のことを理解してるのかな?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「このあと、花火大会があるけど見ていくか」
あなたの手の中にチケットが見えてるんだけど、
なのに、あえて聞くのね?
「うん」
「もちろん行くよ、お兄ちゃん」
祐子ちゃんはノリノリだ。
それにしても、祐子ちゃん、高身長だね。
私より、かなり年下だったと思ったけど……。
いかん、いかん、そんなことで嫉妬してどうなる。
気にしたところで背は伸びないのだ。
あれ? 圭祐は3人の予定じゃなかったのでは?
後ろを見ると、水瀬管理官が、親指をグッとあげていた。
なんとか3人並んでいる席を用意したらしい。
また国家権力か。
便利すぎるだろ、国家権力。
でも、ちょっとやりすぎかな? 国家権力。
まぁ、楽しんでこいってことね。
いいわ。それにのってあげましょう。
有料の特等席で、花火見るなんて初めてだしね。
・ ・ 有料の特等席 ・ ・ ・
上が見やすいようになっている席が用意されていた。
かなり上等なシートだ。
席と席の間隔もかなり空いていた。
ドリンクホルダーや、お菓子を置ける机までついている。
いたれりつくせりだ。
圭祐が、ジュースとポップコーンを買って来た。
映画館と勘違いしてないか?
なんだか、よくわからない挨拶で少し待たされたあと、
ようやく最初の花火が夜空へ打ち上がった。
ヒューン、ドォォォン。
ヒュルルル~、ドォォン、バラバラ……。
特等席だけあって、人の頭で見えなくなることもない。
いろいろな花火を満喫した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「まだ、ちょっといいか」
「うん」
妹さんを後ろの席に乗せて、
圭祐が車を走らせる。
頭の中には、よこしまな妄想が横切る
今日は、ホテルを取ってるんだ……的な。
何を考えてるんだ、私。
次に圭祐が連れてきたのは、人気のない海岸だった。
人気のない海岸!?
まさか、そういう展開?
いや、それはないな。妹の祐子ちゃんいるし。
「ジャ、ジャ~ン」
圭祐がそういうノリで取り出したのは花火セットだった。
なるほど、そういう趣旨か。
「ちょっとバケツに水汲んでくる」
そう言って渡されたのは、
花火セット、点火棒、ロウソク、
軍手、蚊取り線香、ランタン式の懐中電灯。
なんだか、徹底的なほど準備万端だ。
こうして私たちは、バケツの水の上で線香花火をしたり、いろいろな花火を楽しんだ。
使い終えた花火は、バケツの水の中に浸けていく。
一晩から数日間は水に漬け込むのが大事だ。
祐子ちゃんは、人生初めての花火だったらしく、
とてもはしゃいでいた。圭祐もね……。
帰りは、途中で祐子ちゃんを家に送った。
その時、私は、祐子ちゃんに袋を1つ手渡した。
「これは?」
「あんまり食べてなかったでしょ」
私は見ていた。
祐子ちゃんは飴こそ食べてたけど、
あまり、お腹に残るものは食べてなかった。
だから、お祭りの時、余分に買っておいたのだ。
やきそばとか、そういう系の食べ物を。
もっとも、こんな夜中に渡すものではないのだろうけど。
「ありがとう」
このあと、圭祐の運転で私の家に帰った。
「いつの間に買ってたんだ」
「ふふ~ん、秘密だよ」
言えない、実は水瀬管理官に頼んでおいたとは。
そうだよ、国家権力で。
すごいね、国家権力。
使っちゃうよ、国家権力。
こうして、少しだけ特別な夏祭りの一日は終わった。
お読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけましたら、
★や【ブックマーク】で応援していただけると、
今後の創作活動の励みになります。




