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《完結》女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 002 ===

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第59話 戴冠と学生生活

 革命の夜が明け、王都に新しい朝が訪れた。

 王城のバルコニーの下、広場を埋め尽くす民衆たちは、不安と期待が入り混じった表情で、固く閉ざされた扉を見上げていた。


 朝日が昇りきった、その時。重厚な扉が開き、あの大神官が姿を現した。


「――民よ、聞くがいい!」


 大神官の声が、魔法によって王都全域に響き渡る。


「昨夜、天より『神託(オラクル)』が下った! 古き王家は去り、この国は生まれ変わる! 神が選びし、新たな『王』……。それは、国を救いし英雄、『アベレージ・ワン』を率いる少女!」


 大神官が、恭しく脇へ退く。そこへ、純白のドレスと、煌びやかな王冠を身につけたシノンが、ゆっくりと姿を現した。


 その隣には、それぞれ宰相、将軍、財務大臣の正装に身を包んだアリアナ、エルザ、リリィが控えている。


「……新女王、シノン陛下である!」


 ワァァァァァァァッ!!!!! 地響きのような歓声が上がった。昨日、絶望の淵から国を救った少女。彼女が王になることに、異を唱える者はいなかった。


 シノンは、手すりに手をかけ、震える足を必死に抑えながら、民衆を見渡した。


(すごい数……。みんな、見てる……言わなきゃ。私の、言葉で)


「……王都の、皆さん」


 シノンの声は、最初は小さかったが、次第に力強さを帯びていった。


「私は、政治のことも、難しいことも、まだよく分かりません。ただの、田舎から出てきた学生でした。でも……私は、この国の日常が大好きです。皆さんが笑って、ご飯を食べて、明日を楽しみにできる……そんな普通の幸せな日々が、何よりも大切だと思います」


 シノンは、胸に手を当てて言葉を続けた。


「だから、私は誓います。その日常を脅かすものからは、私が……私たちが、全力で皆さんを守ります!  人間とか、魔族とか、古の竜族とか関係なく……みんなが手を取り合って笑える国を、作ります!」


 飾らない、しかし心からの言葉。それが、民衆の心を打った。


「女王陛下万歳!」「シノン様ー!」「アベレージ・ワン万歳!」


 熱狂の中、シノンは振り返り、仲間たちと頷き合った。そして、歴史的な瞬間が訪れた。


 空が暗転し、黒い太陽のような闇が、王都の上空に出現した。民衆がどよめく中、そこから静かに降下してきたのは、魔王ディアブロと、三魔将(さんましょう)たちだった。


 侵略者としてではない。一国の王と、その使節団として。彼らは、堂々と王城のバルコニーへと降り立った。


「……約束通り、来てやったぞ」


 ディアブロが、シノンの前で立ち止まる。その顔には、いつもの不敵な笑みと、隠しきれない《《愛おしさ》》が浮かんでいた。


「はい。……お待ちしていました。ディアブロさん」


 シノンも、女王として、そして恋人として、彼を見つめ返す。


 二人の間に、一枚の紙が広げられた。


恒久平和条約こうきゅうへいわじょうやく


 不可侵、通商、技術交流。長きにわたる戦いの歴史を終わらせる、誓いの書。


 シノンとディアブロは、サインを交わし、そして、固く握手をした。


(その際、ディアブロの人差し指が、こっそりとシノンの掌をくすぐったのは、二人だけの秘密だ)


 同時に、後ろに控えるアリアナとグレイ、エルザとゼスト、リリィとマモンも、それぞれの立場で握手を交わす。


 ワァァァァァァッ!! 王都は、かつてない祝福の鐘の音に包まれた。平和が訪れたのだ。


 ◇


 ……と、そこまでは、感動的な『大団円』だった。問題は、その直後である。


 即位式の興奮も冷めやらぬ控室で、宰相に就任したアリアナが、青ざめた顔で一枚の書類を見ていた。


「……シノン陛下。大変なことに気づきましたわ」

「え? 何、アリアナさん?」(陛下って呼ばないで……)

「私たち……まだ、卒業してませんわ」

「「「…………へ?」」」


 シノン、エルザ、リリィが固まる。


「王国の法典、第128条。『王族、及び要職に就く者といえども、未成年の場合は学業を修める義務がある』……」


 アリアナが、震える声で読み上げた。


「つまり……明日から、『女王』兼『学生』として、学校に通わなければなりません」

「えええええええええ!?」


 シノンの絶叫が、王城に響いた。


 ◇


 翌日。王立学園の校門前に、異様な集団が現れた。

 完全武装した近衛騎士団(ロイヤル・ガード)の列。その中央を歩くのは、王冠を被り、制服の上に王家のマントを羽織ったシノンと、閣僚だった。


「……お、おはようございます、陛下!」

「おはよう!」


 すれ違う生徒たちが、直立不動で最敬礼をする。  先生たちも、冷や汗をかきながら道を開ける。


「(やりにくい……! すっごく、やりにくいよぉ……!)」


 シノンは、引きつった笑顔で手を振りながら、教室へと入った。


 授業が始まる。


「えー、では教科書を……。あ、陛下、ご質問でしょうか?」

「い、いえ! 普通に当ててください!」


 教師がビビりすぎて授業にならない。


 休み時間。  アリアナの席には、城からの早馬で、山のような『決裁書類』が届く。


「……ッ! 次の法案のチェック、予鈴までに終わらせますわよ! シノンさん、ここハンコ!」

「は、はいっ!」  宰相アリアナは、教科書と公文書を二刀流でさばいていた。


 体育の時間。


「将軍エルザ! 準備運動は完了しました!」

「うむ! では模擬戦だ!」


 エルザが張り切りすぎて、校庭の地面をクレーターだらけにする。


「こらエルザ! 修理費は国庫から出るのよ!?」


 財務大臣リリィが悲鳴を上げる。


 そのリリィはといえば、購買部を勝手に『国営化』し、魔界からの直輸入品を並べて、学生たちから小遣いを吸い上げていた。


「ふふふ。これも国家予算のためです」


 そして、放課後。四人は、逃げるように王城の執務室へと戻る。だが、そこにも『安息』はなかった。


「よう。勤勉だな、我が恋人」


 執務室のソファには、魔王ディアブロが我が物顔でくつろいでいた。その横では、グレイ、ゼスト、マモンも、それぞれのパートナーを待ち構えている。


「ディアブロさん!? なんでここに!?」

「『外交官』として、駐在することにした。……文句はあるか?」


 ディアブロは、仕事中のシノンの隣に椅子を持ってきて、ぴったりとくっつく。


「さあ、仕事など放っておいて、構え」

「無理です! この書類、今日中なんです!」

「ならば私が消してやろう」

「やめてください! 国が滅びます!」


 アリアナのデスクでは、グレイが「非効率ですね」と言いながら魔法で書類を自動処理してはアリアナがときめき、エルザはゼストと中庭で『将軍の稽古』と称した乱闘を始め、リリィとマモンは、国の予算を『魔界ファンド』に投資する相談をしていた。


「(……忙しすぎるー!)」


 シノンは、ペンを握りしめて天を仰いだ。平凡な日常?  そんなものは、もうどこにもなかった。


 あるのは、国の命運を背負い、最強の彼氏に振り回され、課題と公務に追われる、  世界一特別で、騒がしい毎日。


「……でも」


 シノンは、ふと、隣で自分の髪をいじっているディアブロを見た。そして、周りで騒いでいる、大好きな仲間たちを見た。


 大変だけど……みんな、笑っている。


「……ま、いっか」


 シノンは、小さく笑った。


「みんなー! これ終わったら、お茶にしましょう!」

「おお! 賛成だ!」

「リリィ、最高級の茶葉を出しなさい!」

「経費で落としますね」


 女王陛下の学生生活は、まだ始まったばかり。卒業までこの『最強のチーム』が、世界をどう変えていくのだろうか。


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