表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
=== 002 ===

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/60

第60話 卒業、そして未来へ

 季節は巡り、二年後。王都は、かつてない活気と繁栄の中にあった。人間と魔族の交流は進み、街には魔道具や魔界の食材が溢れ、人々の笑顔が絶えない。


 そして今日。  王立学園の講堂には、厳かな空気が流れていた。


「――卒業生代表、シノン」


 学園長の声が響く。席を立ったのは、この国の女王であり、同時に、学園一のトラブルメーカーでもあった少女。


 シノンは、壇上へと進んだ。王冠も、豪奢なドレスも身につけていない。着古した、思い出の詰まった制服姿。


「……はい」


 シノンは、学園長から卒業証書を受け取った。二年前、震える足で民衆の前に立った少女は、もういない。数多の公務と、課題と、魔王との外交(デート)を乗り越え、彼女は、真の王者の風格を身につけていた。


 証書を受け取り、振り返る。そこには、苦楽を共にした仲間たちがいた。

 アリアナ、エルザ、リリィ。そして、在校生や教師たち、来賓席のディアブロたちまでもが、惜しみない拍手を送っている。


▶(シノン)◇


(……終わったんだ)


 長かったようで、あっという間だった二年間。勉強して、特訓して、国を動かして。普通の学生生活とは程遠かったけれど。


(……最高の、学生生活だった)


 私は、証書を胸に抱き、深く一礼した。女王としてではなく、一人の卒業生として……。


▶◇◇◇


「ありがとうございました!」


 ◇


 その夜。  王城の大広間で、卒業記念の謝恩会……という名目の、『アベレージ・ワン』と『魔王軍幹部』の合同パーティーが開かれていた。


「卒業、おめでとうございますわ、シノンさん」


 アリアナが、グラスを掲げる。彼女は、宰相としての激務をこなしながら、学年首席の座を守り抜いた。その隣には、当然のようにグレイがいる。


「……よくやりましたね、アリアナ」


 グレイが、愛おしげに彼女の髪を撫でる。「


「貴女の魔術理論は、もはや私の修正(サポート)を必要としないレベルです。……これからは、対等の研究者として、共に歩んでいけますね」

「はい! 先生……いえ、グレイ様!」


 二人の薬指には、お揃いの指輪が光っていた。


「わははは! やっと卒業だぞ!」


 エルザが、山盛りの肉を頬張りながら叫ぶ。将軍職と道場経営、そして学業。全てを体力でねじ伏せた彼女の筋肉は、さらに洗練されていた。


「食い過ぎだ、エルザ」ゼストが、ナプキンで彼女の口元を拭いてやる。「だが、悪くない食いっぷりだ。……そろそろ、私の魔界にも顔を出せ。弟子たちがお待ちかねだぞ、若女将(おかみ)

「おう! いつでも行ってやるよ!」


 二人の間には、言葉以上の信頼……拳で語り合った絆があった。


「ふふふ。卒業はゴールではありません。新たな商戦のスタートです」


 リリィが、手帳を開く。財務大臣として国の経済を立て直した彼女の手腕は、他国にも轟いている。


「これからは、外交特権を使って、大陸全土に『コレット商会』の支店を展開しますよ」

「お供しますよ、リリィさん」


 マモンが、恭しく頭を下げる。


「貴女の強欲が尽きるまで、どこまでもお供します。……私の全てを、貴女に投資済みですから」

「あら。リターンは大きくお返ししますわよ?」


 最強のビジネスパートナーにして、最愛の強欲者(パートナー)たち。


 そして、バルコニーには、シノンとディアブロの姿があった。喧騒から離れ、二人きりで夜風に当たっている。


「……卒業、おめでとう。シノン」


 ディアブロが、優しく声をかける。


「ありがとうございます。ディアブロさん」


 シノンは、夜空を見上げた。二年前に誓った日を思い出す。あの時は、不安でいっぱいだった。でも今は、隣に彼がいることが、何よりも心強い。


「……早かったな」ディアブロが、シノンの肩を抱く。「人間にしては、よくやった。国を治め、魔界との架け橋となり……。貴様は、私が選んだ通りの『嫁』になった」

「ふふ。ディアブロさんが、支えてくれたおかげです」シノンは、彼の胸に頭を預けた。「外交官として、毎日来てくれて……。仕事の邪魔ばっかりされましたけど」

「クク……。あれは『視察』だ」


 ディアブロは笑って、シノンの左手を取った。そこには、あの『魔力石(コールストーン)』が加工された、黒い指輪が嵌められている。


「さて、シノン。学生という枷は外れた。 ……そろそろ、約束を果たしてもらおうか」

「約束?」

「とぼけるな。結婚の返事だ。……恋人の期間は、もう十分だろう?」


 シノンは、顔を上げた。彼の赤い瞳が、真剣な光を宿して、自分を見つめている。もう迷いはなかった。平凡への未練も、種族の違いへの不安もない。ただ、この人と、生涯を共に歩みたいという想いだけ。


「……はい」


 シノンは、満面の笑みで答えた。


「喜んで。……私の、生涯の相棒(パートナー)


 ディアブロは、満足げに頷くと、シノンを抱き寄せた。月光の下、二人の影が重なる。誓いのキスは、以前よりも深く、長く続いた。



「あー! また二人だけでイチャイチャしてる!」

「まったく……。主役が不在では、パーティーが締まりませんわ」

「ふふふ。新婚旅行の予算も、計上しておかないといけませんね」


 会場から、アリアナたちの温かくも呆れた声が聞こえてくる。シノンとディアブロは顔を見合わせ、吹き出した。


「……行くか」

「はい!」


 二人は手を取り合い、光の溢れる会場へと戻っていく。そこには、大切な仲間たちが待っている。


 女王として。魔王の妻として。そして、『アベレージ・ワン』の一員として。シノンの新しい物語は、ここからまた始まっていく。笑顔と、愛と、ほんの少しの『狂騒曲(カプリッチョ)』を乗せて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ