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《完結》女同士の狂騒曲、大魔王との狂詩曲  作者: ひより那
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第57話 最強の乙女

 同時刻。北の塔、頂上闘技場。対峙するのは、翡翠色の鱗を持つ『翡翠の竜人(ジェイド・ドラゴン)』。竜人族の中でも、最もバランスの取れた戦闘タイプの戦士だ。


『……ほう。人間にしては落ち着いているな』竜人が、興味深そうにシノンを見下ろす。『我の前に現れたのが、貴様のようなひ弱な娘とはな。これまでで一番弱そうだ』


 竜人の目の前には、シノンが立っていた。武器は持っていない。ただ、自然体で立っているだけだ。


「……あの、急いでますので」シノンは、ペコリと頭を下げた。「すぐに、終わらせますね」


『……驕るなよ、人間風情が!』


 竜人が激昂し、魔力を膨れ上がらせる。翡翠のブレス、鋭い爪、鋼鉄の尾。そのすべてを同時に放つ、必殺の構え。


 だが。


「『基礎』……瞬動(しゅんどう)


 シノンの姿が、掻き消えた。竜人が反応する間もない。次の瞬間、シノンは竜人の懐に入り込んでいた。そして……掌を上に向けた。


「『昇竜掌(アッパー)』」


 ドォォォォン!! シノンの掌底が、竜人の顎をカチ上げた。その衝撃は、竜人を気絶させるだけでなく、物理法則を無視した運動エネルギーとなって、巨体を打ち上げた。


『ガ、ハッ……!?』


 翡翠の竜人は、自分が攻撃されたことすら認識できないまま、塔の結界を突き破り、遥か上空へと弾き飛ばされた。  ――瞬殺。  一秒もかからなかった。


 ◇


 上空。戦況を静観していた『古の竜王エンシェント・ドラグ・ロード』は、地上から飛来した物体に眉をひそめた。


『……む?』


 ズダンッ!  飛んできたのは、意識を失った、翡翠の竜人だった。竜王は、それを片手で受け止める。


『……翡翠が、一撃だと?』


 竜王の黄金の瞳が、細められた。配下の不甲斐なさへの怒りではない。それを成した存在への、純粋な興味。


 竜王は、配下の体を放り捨てると、飛んできた方角に視線を向けた。


『……面白い』


 ズズズズズン……!  竜王が、降下を開始した。竜王は、北の塔の頂上にいる少女を睨みつける。そして、竜王が闘技場に着地する。

 そのプレッシャーは、先ほどの竜人たちとは次元が違っていた。生物としての頂点。絶対強者。


『……人間よ。名はなんという』


 竜王が、シノンを見下ろす。


「……シノン、です」


『シノンか。……先ほどの一撃、見事だった』竜王は、シノンだけを見ていた。『魔力に頼らず、純粋な体術のみで竜の鱗を透過させ、さらに我の元まで届けるとはな。  ……貴様、ただの人間ではないな?』


「……ただの、学生です」シノンは、拳を握った。「約束通り、ここの代表には勝ちました。他のみんなもきっと勝ちます! そうしたら、この国から手を引いてください」


『クク……。ああ、約束は守る。他の三塔の結果次第だがな』竜王は笑った。だが、その殺気は収まるどころか、膨れ上がっていく。『だが……これほどの『強者』を目の前にして、黙って帰るわけにはいかんだろう?』


「え……?」


『我もまた、武を極めし者。……久方ぶりに、血が騒ぐのだよ』


 竜王が、構えを取った。それだけで、大気が悲鳴を上げ、塔の床に亀裂が走る。


『特別に、我が相手をしてやろう。……喜べ、人間。古の竜王エンシェント・ドラグ・ロードと戦える名誉をくれてやる』


 竜王が出てくるなんて話は聞いていない。だが、シノンは理解した。この王は、理屈ではなく、ただ純粋に『戦いたい』のだと。


(……ディアブロさんや、私と同じなんだ)


▶(シノン)◇


(……仕方ないなぁ)


 ここで断ったら、この人は暴れるかもしれない。それに……


(私も……ちょっとだけ、試してみたい。半魔人になって、ディアブロさんにもらった、この新しい力。どこまで通用するのか)


「(ディアブロさんが見てる……)」


 空の彼方で、彼が笑っている気配がする。『やってみせろ、私の嫁よ』って。

 うん。分かってる。私はもう、守られるだけの『お姫様』じゃない。


▶◇◇◇


「……分かりました」


 シノンは、深く息を吐き出し、腰を落とした。『基礎』の構え。だが、そこから放たれる気迫は、竜王の覇気と衝突し、火花を散らした。


「お相手します。……でも、手加減はできませんよ?」


『クハハハ! 面白い! ぬかせ、小娘!』


 竜王が、咆哮と共に突っ込んできた。音速を遥かに超える神速の爪撃。山をも砕く一撃が、シノンに迫る。


「『基礎』……受け流し」


 シノンは、紙一重で爪を逸らす。衝撃波だけで、塔の壁が吹き飛ぶ。


『ほう! これを捌くか!  ならば、これはどうだ! 『崩星の息吹(スターダスト・ブレス)』!』


 竜王の口から、極太の光線が放たれる。すべてを原子分解する、滅びの光。


「『基礎』……魔力断ち」


 シノンは、手刀に高密度の魔力を纏わせ、光線を真っ向から切り裂いた。光が左右に分かれ、雲を消し飛ばす。


『な、に……!? ブレスを、素手で……!?』


 竜王が、初めて驚愕の表情を見せる。


「終わりです!」


 シノンは、ブレスの隙間を縫って、竜王の懐に飛び込んだ。半魔人の身体能力と、祖父から受け継いだ技術の融合。


「じいちゃん直伝、『基礎』奥義……!」


 シノンの拳が、光り輝く。それは、前に地面を砕いた技の、完成形。


「『天地崩壊(ワールド・ブレイク)』!」


 ズドォォォォォォォン!!!!!


 シノンの拳が、竜王の腹部に深々と突き刺さった。時間すら止まったかのような静寂の後。竜王の巨体が、くの字に折れ曲がり、遥か上空へと打ち上げられた。


『ガ、アアアアアア……!』


 竜王は、空中で体勢を立て直そうとしたが、ダメージが深すぎて動けない。そのまま、重力に従って落下し、闘技場に突き刺さり煙幕が広がった。


 …… ……


 土煙が晴れる。そこには、膝をつき、荒い息を吐く竜王の姿があった。その胸には、シノンの拳の跡がくっきりと刻まれている。


『……見事だ』


 竜王が、静かに口を開いた。その声には、怒りも屈辱もなく、ただ純粋な称賛だけがあった。


『魔力に頼らず、己の肉体のみで、我ら竜の王を膝をつかせるとは。人間よ。いや、シノンよ。貴様の強さ、確かに見届けた』


「ありがとうございます」


 シノンは、構えを解き、深く一礼した。相手が敵であっても、敬意を払う。それが祖父の教えだった。


 竜王は、ゆっくりと立ち上がった。そして、目を閉じ、世界全体の気配を探るように意識を広げた。


『金剛、紅蓮、疾風……。我が同胞たちも皆、敗れたか』


 竜王は、満足げに頷いた。


『よかろう。我ら古の竜人族、この勝負、完敗を認めよう』


 竜王が、大きく翼を広げた。その風圧だけで、雲が吹き飛ぶ。


『だが、戦いは終わっても、我らの役目は終わっていない。……シノンよ。貴様らが守ろうとしたこの国に、最後に真実を告げねばならん』


「真実……?」


『そうだ。なぜ我らが舞い降りたか。なぜ魔界が戦場となったか。……その罪の所在をな』


 竜王は、力強く羽ばたいた。その巨体が、北の塔から浮上し、王都の空高くへと舞い上がる。


 ◇


 一方、王都の広場。三体の竜人が落ちてきた後、最後の決着を固唾を飲んで見守っていた民衆は、空を見上げた。


「見ろ! 竜王だ!」「まだやる気なのか!?」


 人々が戦慄する中、黄金の竜王は、王都を見下ろす位置で静止した。その体には傷があり、戦いの激しさを物語っていたが、放たれる威厳はいささかも衰えていない。


『――聞け、人間どもよ』


 竜王の声が、王都全域に響き渡る。それは、勝利宣言でも、破壊の宣告でもなかった。世界の守護者としての、厳正なる『審判』の言葉だった。


『我ら古の竜人族は、人間との決闘に敗れた。よって、約束通り、この国を滅ぼすことはしない』


 おおお……!  広場から、安堵と歓喜の声が漏れる。


『だが! ゆめ忘れるな!』


 竜王の一喝が、歓声をかき消した。


『我らがなぜ、剣を抜いたか。それは、貴様らの国が……王が、魔界に対し不当な侵略を行い、星の資源を強欲に貪り続けたからだ!』


「……え?」


 民衆の顔から、表情が消えた。侵略? 魔界が攻めてきたのではなく、自分たちが? そんな言葉があちらこちらから飛び交った。


 竜王は、王城のバルコニーで震えている大臣や宰相たちを、鋭い眼光で射抜いた。


『貴様らの指導者は、《《魔王軍の侵略》》という嘘を吐き、民を欺き、私利私欲のために戦火を広げた。……その罪、万死に値する』


 突きつけられた真実。それは、勝利の喜びを瞬時に凍りつかせ、国そのものを揺るがす、最大の衝撃だった。



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