第49話 祭りの夜
シノンたちの出し物は、学園祭の伝説となるほどの大盛況のうちに終了した。
日は落ち、学園は夜の帳に包まれている。すべての出し物が終わり、校庭の中央には巨大な篝火が焚かれ、楽しげな音楽と共に、後夜祭のダンスパーティーが始まろうとしていた。
仕事を終えたアベレージ・ワンの四人は、それぞれのパートナーと共に、祭りの最後の夜へと繰り出していた。
◇
フォークダンスの輪の中。ひときわ目立ち、周囲のカップルたちが、スペースを空けているペアがいた。
「わははは! 踊るぞ師匠! ステップなんて関係ない!」
ドレスアップしたエルザが、ゼストの手を引いて豪快に回る。
「ぬんっ! 足運びが甘いぞ、エルザ!」
闘将ゼストもまた、タキシード姿とは思えない機敏さで、エルザの動きに合わせていた。
二人のダンスは、傍から見れば組手のようだった。激しく、速く、そして誰よりも楽しそうだ。
「師匠! 私、今、すっごく楽しいぞ!」
「ふん。……悪くない『余興』だ」
ゼストは、汗ばむエルザを受け止め、ニヤリと笑った。言葉少なだが、その武骨な手は、しっかりとエルザを支えていた。
一方、輪の少し外れた場所では。
「……先生。カウントが早すぎますわ」
アリアナが、頬を染めながら文句を言う。
「失敬。音楽の拍子と、貴女の歩幅の最適解を計算すると、この速度が最も効率的です」
氷の魔将グレイは、眼鏡を光らせながら、完璧すぎるステップを踏んでいた。
「もう……。ダンスは理論じゃなくて感情でするものです!」
「感情……。ふむ、未知の領域ですね」
グレイは、困ったように眉を下げたが、その手はアリアナの腰を優しく引き寄せた。
「では、貴女がリードしてください。……私のパートナー」
「……はいっ!」
アリアナは、幸せそうに微笑み、憧れの先生との時間を噛み締めた。そして、さらに優雅な一角。
「マモン様。本日の収支、予想を上回る黒字でした」
「リリィさんの手腕には、恐れ入りました」
闇の魔将マモンとリリィは、ダンスを踊りながらも、甘い言葉の代わりに数字を囁き合っていた。
「この利益で、次はどんな投資をしましょうか?」
「そうですねぇ。……ですが今は」
マモンは、リリィの手の甲に口づけを落とした。
「貴女という宝石を磨く時間に、投資させていただきたい」
「まあ……。マモン様ったら、お上手ですこと」
リリィは、うっとりと目を細めた。
◇
そして。喧騒から離れた、校舎の屋上。シノンとディアブロは、二人きりで夜空を見上げていた。ここなら、誰にも邪魔されない。
「……綺麗ですね」
シノンが呟く。地上の灯りと、星空。そして、遠くから聞こえる楽しげな音楽。
「ああ。……だが、少し物足りんな」
ディアブロが、悪戯っぽく笑った。
「シノン。空を見ていろ」
ディアブロが、パチン、と指を鳴らした。
ヒュルルル……ドンッ! 夜空に、大輪の華が咲いた。魔王の魔力によって織りなされた、幻想的な魔法花火。
赤、青、金、銀。見たこともないような美しい光の粒子が、雪のようにゆっくりと降り注ぐ。
「わぁ……!」
シノンは、歓声を上げた。地上からも、「すげえ!」「なんだあれ!?」というどよめきが聞こえてくる。
「私の恋人とのデートだ。これくらいの演出は必要だろう?」
「……ふふ。すごいです。魔法みたい……あ、魔法でしたね」
シノンは笑って、ディアブロの方を向いた。
逆光の中で、彼の赤い瞳が優しく輝いている。魔王としての威圧感はない。ただ、一人の青年として、シノンを愛おしそうに見つめていた。
「……シノン」
「はい」
「楽しいか?」
「はい。……すっごく」
シノンは、一歩、彼に近づいた。平凡になりたかった少女が、今、世界で一番、特別な人の隣にいる。そのことが、何よりも嬉しかった。
「ディアブロさん。……私を見つけてくれて、ありがとうございます」
「……礼を言うのは私の方だ」
ディアブロは、シノンの頬に手を添えた。
「貴様がいてくれるから、今の私がいる。……この日常も、悪くない」
二人の顔が近づく。花火の光が、二人の影を一つに重ねる。今度は、邪魔は入らない。誰の目も気にせず、二人はゆっくりと唇を重ねた。
甘くて、温かい、幸せの味。
「……おーい! シノン!」
「シノンさーん!」
「ここにいましたか」
キスの余韻に浸っていると、屋上の入り口から賑やかな声が聞こえてきた。エルザ、アリアナ、リリィ、そして三人の師匠たちが上がってくる。
「あ、みんな……」
シノンは、慌ててディアブロから離れた。
「むー! 二人だけズルいぞ! 花火、ここから見るのが一番いいって気づいたな!」
エルザが駆け寄ってくる。
「もう、エルザ。邪魔しちゃ悪いでしょう?」
アリアナが苦笑するが、その手はしっかりとグレイと繋がれている。
「ふふふ。皆様、最高のフィナーレですね」
リリィもマモンに寄り添っている。
全員が揃った。人間と魔族。本来なら敵対するはずの者たちが、今はただの恋人として、友達として、同じ空を見上げている。
「……ふん。騒がしい連中だ」
ディアブロが、呆れたように、しかし嬉しそうに言った。
「だが、まあ……。たまには、こういう夜も良かろう」
シノンは、みんなの顔を見渡した。大好きな人たち。大切な居場所。
「……うん!」
シノンは、満面の笑みで頷いた。
花火が消え、祭りが終わっても。明日もまた、みんなと会える。学校に行って、特訓をして、笑い合う『日常』が待っている。
「帰ろう、みんな!」
シノンの言葉に、全員が笑顔で応えた。『アベレージ・ワン』と最強の師匠たちの、最高にハッピーな学園祭は、こうして幕を閉じた。




