第44話 新たな任務
『アベレージ・ワン』の絆がより強固なものとなってから、数日後。王都は、相変わらずの勝利ムードが漂っていたが、学園内にはピリピリとした緊張感が走っていた。
「……新しい通達よ」
放課後、作戦会議室に集まった四人。アリアナが通達文を広げた。そこには、学園長と軍部からの署名が入った、新たな『特別任務』が記されていた。
『任務:古代遺跡「黄昏の塔」の調査、及び未確認魔導具の回収 難易度:Aランク相当(学生用特別任務)』
「Aランク……!」
エルザが、目を輝かせる。
「ついに来たか! ゴブリン退治なんかじゃ物足りなかったんだ!」
「……場所は、王都から北へ三日。国境付近の山岳地帯ですね」
リリィが、地図を確認しながら眉をひそめる。
「魔王軍との前線に近いです。……かなり『きな臭い』場所ですよ」
「ええ。それに、この『黄昏の塔』……伯爵の話では、王家が極秘裏に研究していた『古代兵器』の封印場所だという噂があります」
「兵器……?」
シノンが、不安げに呟く。
「でも、どうして私たちが? 学園には、もっと上の先輩たちや、強いチームがいるはずじゃ……」
シノンの疑問はもっともだった。『アベレージ・ワン』は魔人幹部撃退で評価を上げたとはいえ、まだ入学したての一年生だ。学園には、何百、何千という生徒がおり、その頂点に君臨するチームは他にもある。
「……他は、もう残っていないのよ」
アリアナが、重々しく告げた。
「学園最強と言われる三年生の『王の盾』は、すでに最前線の砦へ派遣されたわ。二年生のトップ、魔術特化の女性チーム『銀の月』も、王宮の魔法結界維持に駆り出されている。……武闘派の『黒犬』たちですら、補給線の護衛任務よ」
「ええっ!? 先輩たち、みんな行っちゃったんですか!?」
「そう。国は本気よ。使える戦力は、学生だろうと根こそぎ動員している。……だからこそ、まだ『手』が空いていて、かつ『Aランク相当』の実績を持つ私たちに、この特殊任務が回ってきたの」
「なるほど……。猫の手も借りたい状況、というわけですね」
リリィが、状況を理解し、ため息をつく。王国は、彼女たちが思っている以上に、余裕を失っていた。
「兵器の回収……。王国軍は、魔王軍への『反撃』のために、なりふり構わなくなっているのかもしれないわ」
アリアナの表情は険しい。
「私たち学生に調査させるというのも……万が一の時の『捨て駒』にするつもりか、あるいは、私たちを本当に当てにしているのか……」
「どっちにしても、嫌な予感がします……」
シノンは、胸の内の魔力石を握りしめた。ディアブロたちは、今、魔界の深層で防衛ラインを構築している。彼らの負担を減らすためにも、王国の暴走は、少しでも食い止めたいというのが共通の意見だった。
「……受けましょう」
アリアナが、決断した。
「先輩たちが前線で頑張っているのに、私たちだけ指をくわえているわけにはいきません。それに……王国の闇を暴くチャンスかもしれません」
「おう! シノンもいるしな!」
エルザが、シノンの背中を叩く。
「今のシノンなら、古代兵器だろうが魔王軍だろうが、デコピンで倒せるだろ?」 「ええ!? そ、そんなことないですよ!」
シノンが慌てて否定するが、三人の目は「いや、倒せるでしょ」と語っていた。
「ふふふ。それに、古代遺跡なら『お宝』も期待できますしね」
リリィの目は、すでに査定モードに入っている。新生『アベレージ・ワン』の、初の本格的な『任務』が決定した。
▶◇◇◇
その夜。王城、宰相執務室。薄暗い部屋で、数人の男たちが密談を交わしていた。
「……例の『学生チーム』、任務を受諾したようです」
「ふん。『王の盾』や『銀の月』を前線に送ってしまったからな。使える駒は、あの『一年生』どもしか残っていなかったが……大丈夫なのか?」
「報告によれば、その中の一人……『シノン』という娘が、かなりの魔力を持っているという報告があった」
宰相と呼ばれた初老の男が、ワイングラスを揺らした。その目は、底知れぬ野心に濁っている。
「……『黄昏の塔』の最上階には、古代の魔神を封印した『鍵』があるという。その鍵を開けるには、膨大な魔力が必要だ」
「まさか、その娘を『生贄』に……?」
「人聞きが悪いな。……国のための『尊い犠牲』だよ」
「くれぐれも、エインズワース家の娘にだけは怪我をさせることのないようにな」
「心得ています」
男たちが、下卑た笑い声を上げる。彼らは知らない。その『生贄』にしようとしている少女が、魔神どころか魔王と互角に渡り合う『最強』であり、そのバックには魔王軍全軍がついていることを。
◇
翌朝。王都の門前に、一台の豪華な馬車が待機していた。軍部が用意した、特別仕様の輸送車だ。
「うわぁ……。広いですね!」
シノンが、内装の豪華さに目を丸くする。
「ふん。これくらい、エインズワース家なら普通よ」
アリアナが、努めて冷静に振る舞うが、その手は少し震えていた。
(……いよいよ、始まるのね。先輩たちも戦っている。私たちも、負けていられない!)
「行くぞー! 遠足みたいだな!」
エルザが、リリィの用意した大量のお菓子を抱え込んで乗り込む。
「経費で落ちますから、遠慮なくどうぞ」
四人を乗せた馬車は、静かに動き出した。目指すは北の国境。そして、その上空には。
『行くぞ、野郎ども』 『了解です』『魔将の妻に、怪我でもさせたらウチの首が飛んでしまいます』
防衛ラインを構築している三魔将に変わって、その部下たちが、護衛として追走していた。さらにその上空の彼方には、「魔王様以外の方が女王様に傷一つ付けるなんて許されません」と、腕組みをしているディアブロの側近の姿もあった。
役者は揃った。『黄昏の塔』を巡る、人間、魔族、そして古代の遺産を巻き込んだ大騒動が、今、幕を開ける。




