30、不安
「ごめん。今日もちょっと用事。」
学校が終わると、ドーラはすぐに荷物をまとめて帰っていった。その様子を、パティは寂しそうに見ていた。
「まぁ、最近お忙しいのですね。ランナちゃんはどうされます?」
「ごめん、あたしもリルのパーツを調整してあげないと。」
「そうですか……」
パティは一瞬しゅんとしたが、すぐに笑顔になった。
「でも、良かったですわ。お二人がちゃんとバディになれているか、少し心配でしたの。でも、何か心配事がおありですの? 顔色がすぐれませんわ。」
そういって、パティはまた顔を曇らせた。
「リルの事は、もう心配はいらないから大丈夫だよ。」
ランナは心配をかけまいと笑った。
「ならよろしいのですけど……困ったことがありましたら、いってくださいね。」
「あはは、ありがとう。でも、本当に、あたしは何でもないから。それじゃ。」
兄の問題でパティにまで余計な心配をかける必要は無いと、ランナは追及されないうちにそそくさと帰った。
どちらにせよ、この問題は余人がどうこうできるものでもない。
家に帰った蘭奈は、プラモのランナーと格闘していた。
「そうそうこの辺。ここにマーカーつけて。」
リルの指示に従って、ランナ―に印をつける。その通りに切り取れば、丁度L字を二つ繋げたような点対称のオフセットドライバーめいた形のプラ棒が手に入るだろう。
これを脚とホイールの接続に使えば、必要な時に接合部をくるりと回してホイールを接地させ、必要ない時には上にあげることができる。
そのためにハルトから廃材のランナーをもらってきたのだ。市販のジョイントパーツにはいいものがあるのかもしれないが、ランナには今お小遣いが無かった。
「こ、こうよね……?」
そういってニッパーを構えるランナの手つきは小刻みに震え、非常に危なっかしい。
「えい!」
思い切って切るが、切る瞬間に目を閉じてしまい、ニッパーがずれて短くなり過ぎた。
「ああー、これだと短すぎて、動かしたときに振動で抜けるかも。」
「またぁ? これで何回目よぉ。」
「4回目。丁度いい形になってるランナーって結構貴重なんだから、かんばってよ。」
再び挑戦するが、今度は長くなり過ぎたのを調整するときに切った余りが脇で見ていたヘラの方に飛んできた。
それをかわしたヘラは、自分も事によってはああなる運命だったのかと、無残な失敗作を見て震えた。
疲れて息をつくランナは、それを見て、チギルの事で不安なのだろうと思った。
「何、お兄ちゃんの事で不安?」
「あ、まぁ……確かにそうですけど……」
今一番不安なのはお前の手つきだというのは、お世話になっている手前飲み込んだ。
「お兄ちゃん、最近帰り遅いよね。何してるんだろ。家に帰ってきてからも部屋に籠ってるし。」
「やっぱり、私のことなんてどうでもいいんでしょうか……」
あれからヘラはチギルに会っていない。あんな別れ方をした手前、自分から会いに行くこともしづらい。
会いに来てくれないのも、会いに行きづらいのも、ランナがやりすぎたことが原因の一つではないかと恨みがましくランナを見上げるが、本人はそれに気づいた様子もない。
しかし、ヘラが不安がっているのは分かったようだった。
「まぁ、お兄ちゃんはプラモ好きだし、そんなぞんざいな扱いはしないでしょ。」
「プラモは好きでも、私のことは嫌いになったかもしれません……」
ヘラは不安が過ぎて思考がかなりマイナス寄りになっていた。
業を煮やしたリルが腰に手を当ててヘラに顔を近づける。
「もう、私はお兄さんの事よく知らないけど、信じてあげなよ。ヘラは生まれてからこないだまでずっと一緒だったんでしょ? その間彼のいろんなところを見て、好きになったんでしょ? あなたが好きになった彼はそんな薄っぺらいの?」
「あ……」
ヘラは思い出した。行き場を無くし、心細さに身を震わせていた自分を受け入れてくれたのは、間違いなくチギルだった。
「そうでしたね、ごめんなさい。」
あの優しさは、きっと嘘じゃない。ヘラはそう信じてチギルを待つことにした。




