29、協力
「なにしにきたの?」
喜飾古着・手芸店のドアをくぐると、人形のように冷たい目と声が出迎えてくれた。
チギルは一瞬ひるんだが、すぐに勢いよく額を床につけた。
「お願いします! ヘラに謝りに行くために、もう一度相棒になるために、力を貸してください!」
躊躇なく年下に頭を下げ、敬語まで使うチギルに、ドーラは目を丸くして固まってしまった。
数秒間そのまま固まっていただろうか、店内にいた客がひそひそと話す声が聞こえるが、目的のために恥も外聞も捨てたチギルはそれに耐えた。
なんとか持ち直したドーラは、カウンター裏からチギルの前まで歩いて、周囲の目をはばかるように小声で話しかけた。
「ちょ、ちょっとチギルさん。ど、土下座はやめて。敬語もっ!」
「あ、ああ……ふぐっ!?」
そのまま顔を上げようとするチギルを、ドーラは慌てて足で踏んで止めた。
「今日はスカート短いの! 気を付けて……」
「わかった……」
立ち上がったチギルの手を引っ張って、ドーラは店の奥にずんずん歩く。
「お母さん、店番かわって。」
「いいけど……その人は?」
「友達のお兄さん。」
奥にいた母親はチギルを見て不思議そうにしていたが、ドーラの説明で一先ず納得したようだった。
「ここ、私の部屋。」
「お、お邪魔します。」
チギルはランナ以外の女子の部屋に入る機会はめったになかったので緊張していたが、ドーラの方はチギルを入れることには特に思うところは無い様だった。
むしろ、中に飾ってある恐らく自作であろう机の上のぬいぐるみや、マネキンの様に人形達に着せられた服や、クローゼットの中に見える人間用の服を自慢したいのかもしれないと、チギルは思った。
机の上に居たドルチェがチギルを見て驚いた。
「まぁ、チギルさんではないですか! どうしたのです?」
「今から詳しく話を聞くけど、チギルさん、ちゃんと反省したみたい。」
言いながら、ドーラはクッションを出してチギルに座るように促し、自分も座った。
「さぁ、チギルさん。あなたの心を聞かせて。」
チギルは自分の心を素直に打ち明けた。
「俺、ヘラをシザーの代わりとして見ていた、それは否定しない、間違いない。けど、それ以上に、俺は自分の事を気にするばかりで、自分を責めるばかりで、あいつの気持ちを考えていなかったんだ。俺、あいつともう一度相棒になりたいんだ!」
ドーラとしては、先の土下座とこの言葉で、十分反省しているしちゃんと考えて来ていると思った。ドルチェの方をちらりと見ると、親指と人差し指で丸を作っている。プラモの視点から見てもオーケーということなのだろう。
「あなたの気持ちはわかったわ、チギルさん。」
「いいのか!?」
あの冷たい視線から、ここまですんなり分かってもらえるとは、チギルには意外だった。
「もともと私、怒ってはいたけど感情的だったわけじゃない。」
「それにきっと、ヘラちゃんが望んでいるのは、あなたを責めることではないのです。」
「そっか……ありがとう。」
チギルは、過去に浸っていただけの自分よりも小学生たちの方が余程プラモの事をわかっているなと自虐的に笑った。
「それで、何で私?」
「ああ、あいつ、ドルチェの衣装に憧れてたみたいだったからさ。教えてもらえたらと思って。」
自分の技術を買われて、ドーラは少し誇らしげだ。
「いいよ。前チギルさんにはPEの使い方を教えてもらったし。それにしても……」
ドーラはチギルを見てクールな表情を崩し、口元を隠してクスクス笑った。
「ん? 顔に何かついてるか?」
ドーラはすぐに笑いを鎮めたが、顔のにやつきを隠しきれていない。
「ごめんなさい、兄妹って、似るものね。不安と期待の混じった、一世一代の告白に行くみたいな表情、そっくりよ。」




