28、物の在り方
チギルを如何にか立ち上がらせて四阿まで運ぶ。
「なぁ、そこのお二方とプラモさん。こいつに何があったか知らんかね?」
我に返ったオトが、横から聞いていた話をかいつまんで説明する。
「なんか、このチギルさんがヘラっていうプラモを、昨日話してたシザーの代わりとしか見てなかったとかって、それで女子たちが怒っちゃって。」
「怖かった……おれ、今度から女子にちょっかいかけるのやめよ……」
「なるほどな……」
ハルトでもそれだけ聞けば大体察せる。
「最低だ、俺……」
「もう、マチルダに言われたこと、どうして否定しなかったのよ。」
ずんと俯くチギルの背中を撫でながら、リエが問いかける。
「本当にそうだと思ったんだ。何にも考えずシザーのパーツを付けて、同じように戦わせて……本当に自然に、あいつと同じように扱ってた。」
「それぐらい、普通じゃねえの?」
ヤスリの言う通り、パーツを付けて戦わせるくらいはごく一般的なプラモバトラーの範疇だ。古いパーツを使いまわすこともあるだろう。
「俺は、ヘラにシザーと同じ戦い方を求めてた。あいつのパーツを付けて、何をしたかったかって言ったら、自分の心を慰めたかっただけなんだ。受け継いでいる、繋いでいる、あいつの心はまだ生きてるんだって、勝手に悦に入ってただけなんだ。」
「で、どうするつもりなんだ?」
彼女をそういう目で見ていたのは、それで彼女を傷つけたのは、チギルの弱さだ。彼の落ち度だ。
だが、ずっとこのままというわけにはいかない。それはチギルもわかっている。分かっているが、彼はどうすればいいのかわからず黙っていた。
「ねぇ、チギル。私ね、あなたとヘラちゃんと戦った時、凄いって思ったの。あの状態からマチルダの射撃を躱し、ワイヤーから逃れた。あそこまで出来るコンビはそう多くないもの。」
「あれだって、シザーのブレードがあって、俺はずっと一緒だったあいつに指示するように、ヘラに一を聞いて十を知れというような指示をした。上手く行ったからよかったけど、おれって、ヘラにシザーを求めて無理させてたんだ。」
卑屈なチギルの言葉を彼への負い目から優しく聞いていたリエも、さすがに苛々してきたようだ。
「ごめん、チギル。流石に我慢の限界だわ。」
リエはパチンと軽めにチギルの頬を叩いた。
「いってえ! 何すんだリエ!」
リエは手刀を自分の手のひらに打ち付けながらチギルを睨む。
「どうしたもこうしたもないわ! あんたってば自分の事ばっかりグチグチグチグチ!」
「だってこれは、俺がいけないんだから……」
リエの手刀がチギルに飛ぶ。
「だからそこよ! バトルはあんた一人じゃないの。彼女もいっしょに戦ってたのよ。」
「一緒に……」
「わかんない? あの子がどうしてあんなに頑張ってたのか。きっとそれは、あんたの隣に並ぶためよ! あんたの相棒でいるためよ!」
「俺の、相棒に……」
チギルはヘラの事を思い出した。彼女はいつでも、チギルに応えようと頑張っていた。チギルがシザーと同じ戦い方を指示している間にも、彼女は成長して、自分の考えでチギルと共に戦える程になっていった。
おもむろに、黙って話を聞いていたジックスが口を開いた。
「俺、ちょっとわかるわ、そういうの。」
「ジックス?」
「人間と友達になるために生まれた俺たちにとっては、マスターが全てだ。一緒に居られないっていうのは、死ぬのと同じなんだ。飽きられたり、捨てられたりすることが一番怖い。」
「俺、そんなことしねぇぞ?」
ヤスリは不機嫌そうだ。
「わかってる。ヤスリはそんな奴じゃない。でもな、そう思うのは一番大切なマスターだからさ。精一杯頑張って、自分を見てほしい。自分がその人の一番でありたい。この人にふさわしくなりたいって、だから頑張るんだ。あいつもそうなんじゃないのか?」
彼の言葉は、多くのプラモロイドに共通する事だった。
彼らは人間の友達として生まれた。だから、人間を好きになるように作られている。
でも、それだけではないのだ。ただプログラムに従うだけでは、嫌いではないだけ。悪い気がしないだけ。一緒にいるだけなのだ。
離れたくないと思えるのは、その人のために頑張れるのは、プラモロイド自身が、その人が大好きになったからだ。
必ずしもそういう相手に出会える者ばかりではない。そういう相手に出会えるのは、お互いに幸せなことなのだ。
「だから、うじうじしてないで、もっと自信をもってヘラのパートナーになってやれって、そういうこと?」
「そうそう、そういうことだよ。もうあいつにとってチギルのことが大事なんだったら、望むのはチギルが自分を責め続けることでも、ましてや別れることでもないと思うぜ。」
結ぶ言葉が見つからず、頭をガリガリ掻いていたジックスを見かねて、オトが助け舟を出した。
彼らの言葉に、チギルは自分を見つめなおした。自分が自分がと、ヘラの事を考えているようで考えていなかったのかもしれない。
「おれ、ちゃんと相棒出来てなかったな。あいつのこと、何にもわかってなかったや。あいつと、二人で戦ってたはずなのにな……」
お前そんなこと考えてたのか、と照れ隠しにじゃれる少年たちを見る。彼らには、チギルの失っていた輝きが、絆があった。
「ありがとな、ジックス、みんな。」
あの輝きをもう一度と、彼女とならもう一度絆を結べるのではないかと、希望を抱いていたはずだった。なのに、過去に囚われ曇った眼は手に入れかけた輝きすらも見逃していた。
お互いがお互いを大事に思う。だから頑張る。簡単なことなのに。
息をつくチギルの肩に、ハルトが手を置いた。
「なら、どうすればいい分かるだろ?」
「ああ、あいつに謝らなきゃ……それで……」
それで、許してくれるだろうか? チギルの心を不安がよぎる。
不安そうな彼を見て、ハルトが背中を叩く。
「全く、5年前から随分と臆病になったもんだな。あんないいこ、絶対に別れる手はないぜ!」
「ハルト……」
「女の子に思いを告げに行くんだもの、弱気になっちゃだめよ。かっこよく迎えに来てくれるのが一番ときめくんだから。」
「リエ……お前、そんな普通の女の子みたいなセリフいうキャラだったのか?」
公園に鈍い音が響いた。




