27、口撃
電話でリルが見つかったと告げると、チギルや、ドーラや、ヤスリ達も安心し、喜んでくれた。ハルトとリエには、チギルから連絡を回してくれるという。
そうして、みんなで公園の四阿に集まることになった。
「はぁー、良かったじゃんか、見つかって。」
「仲直りも出来たみたいだし。」
ヤスリもオトも、遠くから走って戻って来たので汗でぐしょぐしょになって肩で息をしている。
「ほんとにありがとうね、昨日出会ったばっかりなのに。こんなになるまで探してもらって。」
面と向かって女の子にお礼を言われて、彼らはちょっとばかり、照れ臭そうにした。
「いいってことよ、放っておいたら寝覚めが悪いしな。」
「そうそう、男らしい事させといてよ。」
ヤスリが照れ隠しにランナの背中を叩こうとすると、ランナはすぅっと距離を取った。
「あ、ごめん。流石に汗だくで触られるのはちょっと……」
「お前が言うなよ!」
オトがヤスリをなだめている間に、ドーラがランナに話しかけてくる。
「また会えて、良かったね。ちゃんと、言えた?」
「うん、ドーラちゃんもありがとうね。初めてのカスタム、初めての贈り物、ちょっとはマスターらしくなれたかな?」
「うん、大丈夫。今のランナちゃんは、立派なマスター。ところで、リルとヘラのパーツ、どうしたの? とくにヘラ……」
そこで、机の上で話していたプラモたちの中で、ドルチェが大声を上げた。
「まぁ、それは最低なのです!」
慌ててヘラが抑える。
「さ、最低だなんて言い過ぎですよ。」
「じゃあなんて言うの? ヘラはもっとお兄さんにはっきり言ってやるべきだよ!」
リルも、勢い込んでヘラに迫る。
「え、ええ……」
「え、何々? 何の話?」
急に穏やかではない表現が飛び出したので、慌ててランナが訊く。
「ランナちゃんのお兄さんが最低だっていう話。」
「ああ、そっか、そうだった。そういえば、詳しい経緯を聞いてなかったよね。」
ランナはさっきヘラから断片的に聞いていたが、詳しい経緯に関しては聞いていなかった。
「チギルさんの昔の男の話なのです。」
「……は? CPU腐ったの?」
ドーラは全く訳が分からなかったが、ランナと共にヘラの口から話を聞くとすぐに迎合した。
「さいてー。」
「ねー、最低なのです。」
「そんなこと言われてもだんまりなんて、お兄ちゃん意気地ないわねー。」
「そこは力強く否定すべき……。」
そんな話で盛り上がる女子たちを、ジックスと、ヤスリとオトは隅の方で小さくなりながら見ていた。
「……女子って、怖いな。」
「ああ、今までバトルした何より怖かったぜ……早く助けてほしかったぜ、ヤスリ……」
「クラスのイケメン野郎とか、こういうのと隣り合わせなんだね。おいら、モテなくてもいいや。」
そんな話をする一方、ヘラが右腕のシザーについての思いを語ったり、知らないパーツの出所、ガラクタ村での葬式について話すと感涙したり、ロマンチックだと盛り上がったりする。その落差に彼らは震えた。
そんな話をしていると、チギルがやって来た。
「おー、いたいた。いやぁ、良かったな、見つかって。」
女子たちの視線が一斉にチギルに向く。申し訳なさそうな顔をするヘラ以外は、じとぉっと突き刺す針のような視線だ。
「ん、な、なんだ!?」
まず口火を切ったのはランナだった。
「お兄ちゃん最低。」
「最低だよ。」
「さいてー。」
「最低なのです。」
突如襲ってきた言葉の波状攻撃に、チギルは衝撃を受ける。
「ぐふっ、な、何で……」
ランナが立ち上がってチギルに向かって怒鳴る。
「何でじゃないわよ! ヘラから聞いたよ、結局お兄ちゃんは、この子の体が目当てだったのね!」
正しくは、シザーのパーツを付ける土台としての体と言うべきである。
「昔の男の代わりなんて、一番やっちゃダメな奴。人としてさいてー。」
先日仲良くなって一緒に組み立てもした仲であるドーラの言葉が、地味に強烈にチギルの心を抉っていた。そして、確実に誤解を招く発言でもあった。
公園に来ている人たちの視線と話し声が、チギルの心に追い打ちをかけていく。彼は胸を押さえて、顔を見られないように蹲った。
「は、はは、へ、ヘラと、いつの間に随分仲良くなったんだな、嬉しいぞ……」
「いいこと言ってる風にして誤魔化すな!」
苦し紛れに逃れようとするチギルを、ランナが怒鳴りつける。
そして、場の空気に勇気づけられたのか、ガラクタ村という逃げ道を見つけて吹っ切れたのか、ヘラまでもが思いを吐露した。
「え、えっと……チギルさんのサイテー! 私は私なんです! チギルさんと、バディになれてると思ってたのに! 通じ合えてると思ったのに! なのに……なのに……チギルさんのあんぽんたん!」
チギルはハッとして顔を上げようとしたが、その前に思い切り踏みつけられた。ランナはそのままチギルの体の上を通り過ぎた。
「とにかく、お兄ちゃんはしばらく頭を冷やして反省してよ。それまで、ヘラはあたしの部屋で預かっておくから。」
「お、重いっ、ぐぼぉっ!」
止めとばかりにランナは足を踏みつけていった。
ドーラは流石に踏みはしなかったが、氷河の様に冷たい一瞥をくれた。
遅れて、ハルトとリエが到着した。
「あ、ハルトさん、リエさん。御覧の通り、無事見つかりました。ありがとうございました。」
「お、おう、それはいいが……どうしたの、あれ?」
彼の視線の先には頭を地面に突っ伏して脱力した非常に間抜けな友人の姿があった。
ハルトは若干引き気味だが、リエは何があったか察してとても申し訳なさそうにしている。
ランナはハルトの質問を笑顔で無視した。
「それじゃ、またお店に行きますんで。さようなら。」
「お、おう、さよなら……」
リエは、チギルの傍に言って土を払ってやる。
「えっと……その…………ごめんねー……。」
そして一部始終を見ていた小学生男子たちは、顔面蒼白で手を取り合って震えていた。




