24、弔い
「あの、手掛かりはないですか? リルちゃんの居そうな場所とか。」
レッドツェッペリンの前で、ヘラは肩の上から辺りを見回す。
「わかんない、あたしが飛び出して、多分そっちのほうに来たと思うんだけど……」
「そこの坂は? 結構急で落ちたら結構遠くまで行きそうですけど。」
ヘラは店から少し歩いたところの、下り坂になった脇道を指した。
「あのくらい、みんなが探してる筈だよ。」
「どこまでです?」
「どこまでって……」
確かに、暗くなりかけた時間帯で、あの坂の下まで探しに行くのは難しい。
「じゃあ、一回行ってみようかな。」
ランナは坂の下に向かって歩き出した。
しばらく歩くと、ガァガァと煩い声が聞こえる。
ゴミ捨て場にカラスが群がっているのだ。怯えるヘラを手で庇いながら、足早に通り過ぎた。
「ありがとうございます……」
「いいよ、人間でも怖いもの。」
坂を下りると、街はずれ、大きな川に出た。
「まさか、転がってここから落ちちゃうなんてこと、無いよね……」
「まさか、丸くもないし重くもないから、ここから河川敷まで落ちて転がるってことは無いですよ。」
不安を振り払おうとはははと笑って見せるヘラのマイクが、風に乗ってきた僅かな声を拾った。人間の声ではない、機械の合成音が、いくつか。
「どうかした?」
「ランナさん、ちょっとこの辺りをぐるっと回ってください。」
ヘラの言う通り、ランナは辺り一帯をぐるりと歩く。
「ここ、この建物です!」
ヘラはどこかの会社の、古い倉庫を指さした。金網に囲まれた敷地で、近くには行けそうにない。
「ここが、どうかしたの?」
「何かはわからないですけど、機械の声が聞こえます。ちょっとこの建物の周りを。」
建物の裏路地に回ったとき、ヘラは金網の異常に気づいた。
下の方が破れている。丁度プラモが通れそうなくらいに。
「ここ……」
「これ、中に入れるの?」
金網の向こうの敷地を見ると、さっきの倉庫の裏側だ。
「降ろしてください。私、ちょっと行ってみます。」
ランナは肩の上のヘラを手に乗せ、地面に降ろした。
「ごめんね、あなたに頼るしかなくって。気を付けてね。」
「大丈夫ですよ。任せておいてください。」
手を振って、ヘラは一人きりで歩き出した。人間のいない場所に、自分で歩いて行った。
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遅くまで起きていたリルは、翌朝充電が済むまで時間がかかった。この場所の充電器は全員にいきわたるほど多くは無い。順番を待っているうちに、遅くなってしまったのだ。
目が覚めると、周囲が慌ただしくなっていた。昨夜の穏やかな様子とは、ちょっと違う。
リルは、近くのプラモを捕まえて、尋ねた。
「あの、何かあったんですか?」
「爺さんがな……ローダ爺さんが、動かなくなったんだ。」
「え……?」
昨日話した、トラック型の古いプラモ。彼が動かなくなったというのだ。
居場所を聞いて行ってみると、彼を抱く、あの少女型プラモのアスがいた。
「ああ、あなた、昨夜の……」
「……彼は……?」
彼は、ピクリとも動かない。それは、まるで作り物のおもちゃの様に……いや、ローダは今、作り物の命を終え、元のおもちゃに戻ったのだ。
「逝ったわ。やっと逝けたの。」
アスは安らかな顔で、彼を撫でている。
BISは周囲のABSからすべての情報を受け取り、ABSに乗せて情報を発信する。ABSが休眠した今、もう何も聞こえていないし、感じていないだろう。
「みんな、臆病だから。みんな、変わるのが嫌だから。こうして、時間をかけてゆっくりと消えていくしかないの。」
「そっか……」
長い長い時間をかけて、切っ掛けを待ち続けて、ようやく終わったのだ。きっと祝福すべきなのだろう。
後ろから、ぎしぎしという音が近づいてくる。
「そうか、とうとう彼にも、お迎えが来たのか……」
「フリーさん……」
ガラガラしたフリーの声は、寂しそうで、でも、喜んでいた。心から、祝福していた。
集まってきた皆はそうして、彼らを囲んで沈黙していた。これがきっと、この村での弔いなのだろう。
そうしていると、村の入り口の方から、物音がした。
「おや、誰だろう? 外出しているものはいないはずだが……?」
何人かの若いプラモが様子を見に行った。
すぐに、リルのマイクに聞き覚えのある少女の声が聞こえてくる。
「あ、あのっ。私、怪しいものではなくて……ここに、友達が来ていないかと思いまして。」
リルは入口の方に走った。
「ヘラ、どうしてここに? それにその格好。」
行ってみると、やっぱりヘラだった。突然現れた知らないプラモたちにしどろもどろになっていたが、リルが姿を現すと、思い切り怒鳴った。
「どうしてじゃないです! 一晩も姿を消して、ランナさんがどれだけ心配したと思ってるんですか!?」
ヘラ自身も手には錆が付き、砂埃を体中に纏い、ここまで来るのが決して楽な道のりではなかったと分かる。
実際、ランナと別れた後は錆びついた階段を上り、迷いながらも外に置かれた古びたコンテナの上の痕跡を見つけ、ようやく壁に空いた穴から、1階の奥にしまわれた段ボールと天井の間の空間であるここまで来たのである。
2階との間に空いた穴から拾った延長コードを引き込み、細々と廃棄された機械を拾ったり、店先からくすねてきた機械で充電環境や照明を整えたのが、このガラクタ村である。
「私も少し怒ってます。なんでこんなに遠くまで来てるんですか?」
ヘラは珍しく……というほど付き合いはないが、前見た時の少し気弱な感じからは考えられないほどリルにずいずい迫ってくる。
「か、カラスに攫われて……もう、そんなに怒らないでよ、ランナちゃんみたいだよー。」
事実としてランナは短気とはいえ、仮にも自分のマスターに向かってあんまりない言い草である。
「むぅ……私、あんなに短気じゃないですよぉ……」
ヘラも、向こうが自分に負い目があるからと中々に酷い言いようである。
「へっくしゅ!……もう5月になるっていうのに、体冷えちゃったかしら……?」
金網の外では、ヘラが戻ってくるのを待つランナが急なくしゃみに不思議そうにしていたが、二人のプラモロイドはそんなことなど知る由もなかった。
そこに、フリーぎぃぎぃと音を立ててやってきた。
「お嬢さん方、悪いが静かにしてもらえるかな? 今は葬式の最中なのだよ。」
ノイズの混じる声で静かに、しかし強く言われて、二人とも言葉を飲み込み、粛々と従った。
「はぁい……」




