22、自分
夜遅くまで語らって、喋り疲れてみんながダウンして、リルは、集団の端で黙って話を聞いていたフリーのもとに向かった。
「今日はありがとう。みんな、君との会話をとても楽しんでくれた。」
リルは彼の隣に腰かけた。
「よかったんですか? 話に混ざらなくて。」
「僕ももう歳だ、若い子たちのはしゃぐ姿を見るだけで、十分さ。」
そう言って力なく笑う彼は、本当のおじいさんのようだった。
「……ねぇ、歳って言いますけど、NISが無くても若いプラモにパーツをつなげば、幾分かマシになるんじゃないですか?」
休眠状態のABSも、活性状態のものとつなげば、段々活性化していって動くようになる。
「色々理由はあるがね、それはちょっと、若い子たちへの負担が大きいだろう。」
人間でいえば、古い臓器と元気な臓器を取り換えて生活してくれと頼むようなものだ。不調になるうえに、それで他人が元気になる様を見せつけられるのは想像を絶するほどの負担だろう。
「それにね、ここのいるプラモたちは、何より自分を大事にしているんだ。」
「自分を?」
見た感じ、お互いに充電を譲りあったりして、気配りができるプラモばかりに見える。
「自己中ってわけじゃあないさ。ただ、自分のパーツを誰かに任せることも、誰かのパーツを嵌めて生活することも、自分が自分で無くなるようで嫌なんだ。ここの皆は、かつてのマスターに愛されたままの自分で、その思い出で自分を慰めて生きている。まぁ、パーツに関しては、例外もあるがね。」
「例外?」
リルの疑問を流して、彼は話を続ける。
「それから、死にたいっていうのもある。」
「死にたい……?」
死ぬのが嫌なプラモたちの村、彼はそう言った筈だ。なのに死にたいという。リルは首をひねった。
「まぁ、さっきの話にも被るんだけどね。お互いのパーツを効率的に交換して回復させていけば、お互いに元の姿が分からないほど、自分が何者かもわからなくなるほどの時間を生きて、生きて……恐ろしい事さ。実は僕も昔、パーツを入れ替えて回復させようとしてたことはあったんだけど、あれは恐ろしい体験だったよ。周りのみんなが衰えていくのに、自分は他の誰かの姿を借りながら生きながらえていくんだ。その時パーツを借りてた子も、自分が誰だかわからないって、怖がってた。」
「パーツの入れ替えって、人間と居たころにやったことは無かったの?」
「マスターがいるときはいいんだ。彼が、ちゃんと僕らの存在を担保してくれる。だが、ここは駄目だ。組み換えを管理してくれる人がいない。上から見てくれる人がいないで、水平な視線から見るだけだからみんなおかしくなっていく。それにここにいるのは皆、死ぬのが怖かっただけの臆病者さ。死ぬのは怖いのに、生き続けるのも怖い。」
リルはぶるっと体を震わせた。
確かに、この閉ざされた世界で、思い出のない体に乗り換えて、名前を呼んでくれる暖かい声もなく、いつとも知れない遠い終わりを待ち続けるのは、そのうちに自分を失くしてしまいそうで、恐ろしい。
「そうならないようにほんのちょっぴり入れ替えるだけだと、それはそれで効率が悪すぎて駄目だしね。すぐに周りの休眠状態に流されてしまう。まぁ、そんなわけで、自分らしく死にたいのさ、みんな。生まれて、老いて、死んでいく。せめて少しは、人間のように美しくね。」
死にざまを美しく。リルには、まだ理解できず、ただ漠然と、自分を失うことの恐ろしさがこびり付いていた。




