19、捜索
すっかり暗くなった路地に、重苦しい空気が漂っていた。
「あたしのせいだ……あたしが……」
鼻水を垂らし、泣きじゃくるランナ。
「お、おい、泣くなって……」
「きっと見つかるって、大丈夫だよ。」
ランナを慰めるヤスリとオト。
それを見ながら、ドーラは自分が引き止めなければよかったかと少し罪悪感を感じていた。尤も、彼女が止めようと止めまいとリルは迷子になっていたのだが。
「パティちゃんが居れば、財力と人海戦術でどうにかなったかも。でも、今日から明日にかけて定期健診だし。」
パティは何かの持病があるというので、定期的に病院に泊まり込みで検診する。その間は携帯の電源も切っている。
「これがスマホとかならすぐに見つかるんだけど、プラモは通信範囲が広くないしねぇ……」
リエは自分のスマホからこういう紛失時に役立つサービスが無いか調べたが、技術的に厳しいらしく、そんなものは無いらしかった。
「あちこち探してみたけど、全然見つからないな……暗くなってきたし、今日はもう厳しいな……」
ハルトはフィジカルを活かしていろんな場所を探し回った。
もちろんチギルも一緒に探したが、彼は集団の隅で黙っていた。
「チギルさん、帰りはランナちゃんのこと、ちゃんと面倒見てあげて。だいぶ参ってるから。」
ランナからチギルへ、チギルからリエとハルトへ助力を乞い、必死にリルを探す彼らを見かけたドーラを加えて手分けして捜索をしていた彼らだったが、結局リルを見つけることはできなかった。
「リル、どこ……? 会いたいよぉ……」
また探しに行こうとしたランナだったが、力尽きてその場に座り込んでしまった。
「ランナちゃん、大丈夫? 今日はもういったん帰ろう?」
ランナは大きく目を見開いた。
「あ……」
低い視線から路地を見たランナはその路地に見覚えがあることに気が付いた。いつだったか、あの時も、誰かに会いたくて、不安で、必死で、でも、そうだ。
あの時は今と違って、何かに追われていた。
そうだ、あの時会いたかったのは、あの時助けに来てくれたのは。
「シザー……」
ランナがつぶやいたその名に、チギルとリエの肩がぎょっと跳ね上がる。チギルの鞄の中で蹲っていたヘラも、その名前に思わず顔を上げた。
ランナが振り返って、チギルを見る。
「ねぇ、今、思い出したの……。お兄ちゃん、昔、うちにプラモロイドが居たよね……?」
小学生たちはきょとんとした顔をしているが、チギルは痛いところを突かれたような顔をした。
「ん、覚えてねぇのか? 昔はシザーと一緒によく遊んだじゃねぇか。」
「一緒に……」
あっけらかんというハルトの袖をリエが引っ張る。
「なんだよ。」
リエが口を近づけて小声で言う。
「最後にあんなことがあったのよ。忘れていたくもなるわよ。」
「おお、そうか……でも思い出しちゃったじゃねえか。中途半端に思い出すとか気持ち悪いじゃんか。」
「それは、そうね……」
リエとハルトは、黙ったままのチギルの方に視線を向けた。
「ねぇ、お兄ちゃん。彼のことを教えて。すごく……すごく大事なことだった気がするの。」
「いや、それは……今は、リルのことを考えるべきじゃないのか……?」
チギルは、さっきのヘラとのことから、シザーについて思い出させること、彼を意識させることがランナとリルの関係に悪い影響を与えるのではないかと考えてしまい、話をそらそうとした。
やり取りを見ていたヤスリがチギルの目を真っ直ぐ見て口を開く。
「よくわかんないけどさ、こいつ、さっきから変なんだよ。急に泣いたり叫んだり。わけわかんないのはうんざりだぜ。」
オトとドーラもチギルに詰め寄る。
「その昔の奴に、何かあったんでしょ? それでランナちゃんは苦しんでるんだよ!」
「ランナちゃんが前に進むために、お願い、チギルさん。」
チギルは何かをこらえるように歯を食いしばっていたが、やがてため息をついて、力を抜いた。
「……わかったよ。話すよ、五年前のこと。俺の昔の相棒、シザーのこと。」
チギルの言葉を聞いて。小学生たちは安心して引き下がった。




