18、相談
「店番してたら表のガラスに寄りかかってふらふらしてたから、びっくりした。どうしたの、こんなに息を切らして……」
ドーラが心配そうにランナの顔を覗き込む。
「ど、ドーラちゃん……あたし、戻らなきゃ……」
走りだそうとするが、うまく力が入らずにまた転びそうになる。
「一旦座って休んで。水、持ってくる。」
そう言って、ドーラはランナを店に連れ込んで、カウンターの椅子に座らせた。そして奥に戻ってコップに水を入れて持ってきた。
水を飲んで一息ついたランナに、ドーラが尋ねる。
「それで、どうしたの?」
「あたし……リルに酷いこと言っちゃった……戻って謝らないと……」
やはりなという感じはした。あのぎくしゃくした関係ではいずれ問題が起こるだろうと、ドーラは思っていた。
「ふぅん。なるほど……丁度いい。」
「さっき丁度仕上がったのです。」
カウンターの隅にいたドルチェが、何かをもって走ってきた。
「仕上がった……?」
みたところ、短い棒の先にPEを付けたようなものだ。持ち手にはリルのステッキのような電極が付いている。
「プレゼント。謝るなら持って行って。」
そういいながら、ドーラは脇に置いてあった電池につながった導線をつかみ、導線を電極に当てる。
すると、PEから出た光が短く収束し、強く輝いた。
「ビームソード……?」
「そ、フェアリアは簡単なキットで武器があれだけだから。ほら、好きな色選んで、リボンを飾ってあげる。」
「え、じゃあ、ピンクで……」
ドーラは手早くABSが織り込まれたリボンを巻き、完成したばかりで飾り気のなかった武器に華を添えた。
「あ、もう少しリボン貰ってもいいかな……? 髪にも、つけてあげたいの。」
思えば、完成品で貰ったリルは、自分の手が加わった部分というものが無い。自分では出来なかったのでしょうがないが、顔も知らない誰かやパティに与えられたそのままというのが、ドルチェやサニィや、ヘラに比べて寂しい関係であるように思えた。
ドーラは優し気に笑った。
「いいよ、飾ってあげて。出来合いの関係じゃ味気ないもんね。」
「ありがとう。……いいの?何から何まで。」
言いながら、ランナは思う。プレゼントをこんなに真剣に考えたのは、いつ以来だろうと。
「いいの。友達でしょう?」
ドーラはリボンとソードを袋に入れ、ランナに手渡した。
ドーラの優しさに感極まったランナは思わずドーラに抱き着いた。
「ほんとにありがとう、ドーラちゃん。」
ドーラは少し驚いたようだったが、すぐに落ち着き払っていった。
「どういたしまして。友達と友達が仲良くないのは、嫌だもの。」
ドーラの言葉に、ランナが彼女を抱く手が強張った。
「友達……あたし、怖かったの。プラモと友達になっても、いつかお別れするんじゃないかって、辛いだけじゃないかって。」
「……お別れするかもなんて、人間も同じ。自分の気持ちを言えないままが、一番怖い。」
その言葉を聞いて、ランナはいつか覚えた喪失感を、無力感を思い出した。あの時失ったのは誰だったか。しかし、一つだけ言えるのは、もうそんな思いは御免だということだった。
「……そっか……そうだったね……なのにあたし、すごく臆病になってた。」
ランナはドーラから離れると、店の外に飛び出した。
「あたし、いくね。今度こそ、ちゃんと言わなきゃ。友達になろうって。」
「うん、がんばって。」
ランナはレッドツェッペリンに駆けこんだ。汗でぐっしょり濡れた彼女に周囲がぎょっとするが、構わず、奥のテーブルに向かった。
そのテーブルは別の人が使っていたが、そばで話していた。ヤスリとオトを見つけた。
「はぁはぁ……り、リルは?」
息も絶え絶えにランナが尋ねると、二人は顔を見合せた。
「お前、会ってないのか?」
「ねぇ、まずいんじゃないの、これ。」
何か悪いことがあったと言わんばかりの二人の態度に、ランナは血の気が引くほどの不安を覚えた。
「ど、どういうこと……?」
「あいつ、お前を追いかけていったきりなんだ。」
「止めようとしたんだけど、見失っちゃった。」
ランナは呆然と立ち尽くした。
「探しに行かなきゃ……」
我に返ったランナはまたふらふらと店の外に出た。
「探しに行くのか?」
「だって、あたし、まだあの子に自分の気持ちを言えてない!」
泣きそうなランナを見て、ヤスリとオトは頷き合った。
「しゃあねえな、そんな顔されたらほっとけねぇよ。」
「もう一回、探しに行こう。」
涙で顔をぐしょぐしょにしながら、ランナは手近なヤスリに抱き着いた。
「うぅ……本当にありがとう……」
ヤスリは慌ててランナを引きはがす。
「汗だくの体でくっつくんじゃねえ!鼻水拭くな! いいから行くぞほら!」
ランナの道程を辿って脇道なども調べた彼らだったがしかし、リルを見つけることはできなかった。
日が沈み、路地が暗くなるにつれて、走っているわけでもないのにランナの呼吸が荒くなっていくのにヤスリは気が付いた。
「おい、どうした……?」
「わかんない……わかんないけど、早く会わなきゃ……手遅れになっちゃう……」
「ねぇ、誰か頼れる人とか居ないの?」
オトの言葉に、ランナは携帯を取り出し、急いで電話をかける。
呼び出し音が鳴りだしてすぐ、兄の繕ったような声が聞こえた。
『おう、どうかしたか?』
何かを隠しているような声だが、ランナにはそれを気にする余裕はなかった。
「お兄ちゃん、助けて……リルが……リルが居なくなったの!」




