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17、想起

 屋上まで登ったリルは一旦飛行を切って座り込み休む。


「どうする?脚を取りに戻る?」

『だめよ。そんな隙だらけのことしてたら今度こそ止めを刺される。』


 屋上でランナとリルが相談していると、下から何かの音が聞こえてきた。

 ガシャンガシャンと駆動する音が近づいてくる。音の重さがジックスの足音にも似ているが、間隔が早い、聞いたことが無い音だ。


「え、何……!?」


 急にリルの視界に影が落ちた。


「ウォーーン!」

『後ろ!』


 リルは後ろに腕を回してバリアを張りながら前に急発進して爪の襲撃をいなす。


「じ、ジックスなの!?」


 屋上に降り立ったプラモは四つ足で立つ獣のような姿をしていた。


『どーだ!変形かっこいいだろー!』


 元の頭が引っ込み、首元を起点に胴体の前と後ろについていたパーツが回転し、胴体についていた突起が噛み合わさって牙を携えた頭部になる。

 背中だった部分を下にして、肩が少し折れて前足の根元部分になる。

 前足も後ろ脚も、人間でいうつま先立ちをする獣のような四肢になる。

 腰には蛇腹剣がセットされ、尻尾のようにしなる。


 月明かりに照らされた屋上に、オオカミのような野獣を模したプラモの姿があった。


「グルルルル……さぁ、試合の続きをしようぜぇ……!」

「レディを誘いに来るならもっと紳士的な格好で来てね。」


 リルは高くに飛び上がって、攻撃に備える。


「ガァオウ!」


 ジックスは口腔内に仕込んだビームガンをリルに向けて発射する。


「お返しよ!」


 リルはビームをかわしたが、反撃の光弾もジックスに回避される。


『ちょこまかと……でも、これなら私たちに有利よ。』


 リルはジックスの上から射撃を繰り返す。

 ジックスはそれを回避していくが、このままではいずれ負けてしまう。


『くっそぅ、このままじゃ……』

「厳しいぜ、グルルル……」


 その時、ヤスリの目に屋上に設置されたタンクが目に入った。


『……おい、あのタンク、見えるな。敵をあの上に誘導しろ。』

「……なるほどなぁ、ガルルルル!」


 小声での会話なら、周りの音でランナに聞こえることはない。

 ジックスは口腔からのビームガンでリルをタンクの近くまで追い立てていく。


『ふん、そんなの当たらないわよ。すぐにとどめを刺したげる。』


 余裕しゃくしゃくなランナに向かって、ヤスリはにやりと笑った。


『言ってろ、今だジックス!』

「グゥゥォーン!」


 ジックスは一気に駆け出し、タンクを踏み台にしてジャンプした。


「え!?」


 ジックスは一気に懐に飛び込み、リルの射撃をすり抜けた。


「ガウッ!」


 ジックスはリルの胸部をがっちりとくわえ込み、隣のビルの屋上に着地した。


『ひぅっ……』


 胸を咥えこまれたリルの姿に、ランナは思わずわが身を抱いた。


『おっし、そのままビームでフィニッシュだ!』

「グルルォオ!」


 ジックスのパワーが高まり、リルにとどめを刺そうとする。


『や、やだ……やめて……』


 ジックスの口腔から放たれたビームがリルに炸裂し、HPが尽きたリルは爆散した。


「ウォーン!」

『いやぁぁぁぁぁぁっ!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ど、どうした!?」


 とどめの瞬間に、ランナは頭を抱えて蹲ってしまった。


「だ、大丈夫?」

「いや……いや……」


 オトの呼びかけにもランナはぶつぶつとうわ言を呟くばかりだ。


「しっかりしろおい!」


 ヤスリが肩をつかんで顔を上げさせると、ようやく呼吸を思い出したように荒く息をついた。

 その目は大きく見開かれているが、目の前のヤスリは映っていない。


「ラ、ランナちゃん……?」


 筐体から出てきたリルが恐る恐る声をかけるが、返答は期待していたようなものではなかった。


「ひっ……」


 その顔が恐怖にゆがむ。


「こっ、来ないでっ!」

「え……」


 リルの絶望的な顔を見て、ランナはハッとした表情になった。顔からサァッと血の気が引く。


「う……あ……」


 要領を得ないランナに業を煮やしたヤスリが詰め寄る。


「おい、自分のプラモにそんな言い方ないだろうがよ!」

「ちょ、ヤスリ……」


 オトがたしなめるが、もう遅かった。ランナの体の震えが止まらない。


「だって、あたし……あたし……」


 展示品のプラモが、今にも動き出しそうにこちらを睨んでいる。


「わかんない……わかんないのに……怖いの……」


 棚に並んだ商品から、今にもゆらりとプラモが立ち上がって追いかけてくるかもしれない。


「怖い、怖い、怖い……いや……いやぁぁぁぁ!」


 周りのものすべてが敵になって様な気がして、ランナは泣きながら店の外に走った。


「ランナちゃん!」

「あ、おい!」


 ヤスリ達が止める間もなく、リルもそれを追いかけていってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁ……はぁ……」


 走り疲れたランナは、建物に背中を預けて荒い呼吸を整えていた。


「あたし、酷いこと、いっちゃったな……」


 相手を心配して声をかけたのに拒絶されたら、自分だって悲しい。そんな思いをリルにさせていたのは、悪かったと心から思った。


 さっきは何故だか怖かった。怖かったけれど、リルとの関係を失うのがもっと怖い。それほどまでに、あの小さな友人はランナの中で大きな存在になっていた。


 しかし、戻って自分の気持ちを吐露して謝って、そうすればまた元の通りの距離を置いた関係ではいられない。歯止めが利かなくなる。


 今より仲良くなりたい。心からの願いなのに、そうなったときのことを思うと、辛い気持ちになるのは何故だろう。


「あたし、何で……とにかく、早く、謝らなきゃ……」


 来た道を戻ろうとするが、店からここまでノンストップで走ってきて、息も絶え絶えだ。


「あっ……」


 ふらりと倒れ込みそうになったところを、抱き留められた。見上げると、見慣れた顔があった。


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