16、修行
チギルがリエとのバトルを始めたころ、ランナはレッドツェッペリンに来ていた。
「へぇー、ここがショップ?賑やかなところだね。」
パティもドーラも都合が悪いというから暇だったので何と無しに来てみたのだが、棚一杯のばら売りパーツに、ランナは戸惑っていた。
「そ、そうね。えっと、バトルするにはどうしたらいいんだろ……」
ランナがきょろきょろしていると、棚の整理をしていた店員が話しかけてきた。
「お客様、何かお困りで……お、もしかして、ランナちゃん?」
急に馴れ馴れしくなった男性店員に対して、ランナは警戒を露にする。
「な、何ですか、あなた……」
「忘れてるか……ほら、チギルの友達のハルトだよ。昔何回か会ったことあるだろ。」
言われて、ランナはハルトの顔をじっと見てみる。そして、記憶の中にある兄の友達の顔と、確かに大きくなったらこんな感じだと思った。
「あ、あー、ごめんなさい。すっかり忘れてて。」
「いや、もうランナちゃんとも何年も会ってないしな。プラモ始めたって、チギルから聞いたぜ。中々可愛いじゃあないの。」
「ど、どうも、こんにちは……」
勢いよく喋るハルトに、リルは気圧されている。
「んで? 今日はなんだい?」
「あー、バトルの経験を積みたくて……」
「それなら、あそこのバトルスフィアだな。募集の札を立てている奴がいたら、それがフリーで対戦募集中っていう印だ。いたら話しかければいいし、居なければ自分で立てるといい。」
ハルトは店の真ん中にいくつか置かれた筐体を指し示した。
筐体には、何人かの子供や、時に大きなお友達が真剣な顔で向かい合っている。
この間はパティにはなんとか勝てたが、2度も同じように勝てるとは思えない。その後、兄には負けた。負けず嫌いなランナは、ここで経験を積んで強くなろうとしていた。
「えっと、ありがとうございます。」
「これも仕事だよ。あと、昔みたいにタメでいいぜ。」
「や、それは……」
ランナとしては、昔から馴れ馴れしいハルトのことはちょっと苦手だった。今もまだ苦手だ。
ハルトと別れたランナはいくつかある筐体のうち、1つだけ空いている筐体の前に立った。
「えっと、この札を立てればいいんだよね?」
筐体についていた「対戦相手募集中」の札を立てる。
すると、すぐに二人の少年がやってきた。ぼさぼさの頭をしたランナと同い年くらいの少年と、彼につれられた坊主頭の少年だった。
「なんだ、ここも空いてねぇのか。」
「しょうがないね。」
ぼさぼさ頭の少年は、ランナの筐体に立っている札を見て、ランナに話しかけた。
「なぁ、お前、対戦相手がいないなら、マシンを譲ってくんないか?俺たち二人でやりたいからさ。」
ランナとしてはバトルがしたくてここにいるので、それは面白くない。
「なによ、先にいたのは私でしょ?」
むすっと言い返すと、少年もカチンと頭に来たらしく、顔をしかめる。
「なんだよ、感じわりぃな。」
「どっちが!」
坊主頭の少年は大声で周囲の視線が集まってくるのを感じた。
「あのさ、ヤスリ。」
ヤスリと呼ばれたぼさぼさの少年は坊主の少年にもかみつきそうな勢いで振り返る。
「なんだよオト。あきらめろっていうのか?」
「そうじゃないけどさ。ここは、勝負して勝った方が使うってことでどう?」
「なるほどな!よっしゃやるぞてめー!」
盛り上がるヤスリを余所に、ランナは驚いてオトを見た。
オトはランナににっと笑いかける。これで、ランナは当初の目的通りバトルをすることができる。ランナは手振りで感謝を示した。
二人のやり取りの間に、ヤスリがリュックからプラボックスを取り出す。
「おい、ジックス。バトルだぜ。」
ボックスの中にいたのは、白い体に紫のラインが入った、がっしりとした力強い印象を受けるロボット型のプラモだ。胸と背中に弧を描くように付いたトゲトゲした装飾が特徴的である。
「おう、相手はどいつだ? オトか?」
ジックスはそわそわと辺りを見回す。
「そいつだ、そいつの持ってる青いやつ。えっと……」
「この子はリルよ。そんで、アタシが協片 蘭奈。」
ランナが名乗ると、少年たちも思い出したように名乗った。
「そーいやまだ名乗って無かったな。俺は佐久間 安里。んでこいつがGX。最強のプラモバトラーになるコンビだぜ!」
「おいらは接城音人。よろしく。」
主たちと同じように、プラモもあいさつを交わす。
「えっと、ジックス、さん?私はリル。よろしくね。」
初めて見るロボット型、男性型のプラモに、リルは緊張している。対するジックスは、戦闘を前に高揚していて緊張など感じられない。
「おう、ジックスでいいぜ。リル、楽しませてくれよ!」
プラモ二人は筐体に入った。
「フィールド展開!」
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リルとジックスは、夜の街に転送された。高くて5階程度の低い建物が並び、街灯のある大通りは明るいが、路地裏エリアは明かりが少なく視界が悪いというステージだ。
お互いにお互いを視認できない位置の路地裏に転送されている。
『ひっ……』
ステージを見たランナが小さく息をのんだ。
「どうかした?ランナちゃん大丈夫?」
心配そうにするリルに、ランナは声を荒げる。
『大丈夫!敵の位置を探すわよ。』
このバトルスフィアは、バトルの様子が球体上のディスプレイに映し出されるのだが、筐体自体が結構大きく、建物の隙間にいる敵のプラモをランナの目線の高さから目視で発見することはできない。視界は画面に映し出された自機の周辺だけだ。
ただし、プラモ同士が接敵すればスフィア内のビルが透過し、ズームして戦いを見ることができるという仕組みになっている。
リルがビルの上に飛び上がって索敵を開始する。
「どこに隠れてるんだろう、全然見つからない……。」
『路地裏が暗すぎるわ。そんなところに居られたら……ッ屋上に退避!』
「え、きゃあッ!?」
リルが指示に従って動いた瞬間、下からビームが飛んできて翅を掠めた。
『チッ、いい的だと思ったのに、危なかったなお前。』
この暗いステージでは、リルのPAの輝きはよく目立つ。ランナがそのことに気づくのが一瞬遅れれば翅を奪われていた。しかし、今の一撃で敵がこの路地の下にいるということが分かった。
『リル、下よ!』
「うん!」
リルは路地裏に向かって照明弾代わりに光弾を乱射しながら飛び降りていく。
『逃げろジックス!』
「わかった!」
ジックスはビームガンで牽制しながら路地の角を曲がり、光弾から逃れる。しかし、光に照らされたその姿をリルははっきりと捉えていた。
「逃がさないよ!」
『男なら堂々立ち向かいなさいよ!』
ジックスを追って、リルも角を曲がる。それを見たヤスリはにやりと笑った。
『へへ、ばーか。』
その瞬間、リルは思い切り足を引っ張られて地面に叩きつけられた。
「がはっ……」
『え、な、なに!?』
見ると、リルの右脚には蛇腹剣が巻き付いている。
「油断したな!貰ったぜ!」
ジックスは右手で蛇腹剣を持ったまま、圧し掛かりつつ左手に3本並んだ鋭い爪を出してリルの喉を狙ってくる。
『リル!』
ランナの叫びを余所に、リルは咄嗟にステッキを爪の隙間に入れて受け止め、ステッキの角度をずらすと爪がガリガリとステッキを削り地面に突き刺さる。
「ぬっ!?」
ステッキの持ち手側を地面に向けて受け流したということは、先端はジックスの顔に向くことになる。
「いっけぇっ!」
リルはジックスの顔面に向けて光弾を連射し、一気にダメージを与える。
「ぐわあぁぁっ!?」
『なぁにぃっ!?』
『リル凄い!』
ジックスは圧し掛かりをやめて飛び退くが、蛇腹剣は持ったままだ。
『ビームガンで削れ!拘束解除の暇を与えるな!』
『し、シールド!』
「ランナちゃん、それじゃぁ……ううっ。」
リルはシールドで防ぐが、数発防いだ時点でシールドは切れてしまう。リルも射撃を行うが、蛇腹剣を振り回されて狙いが定まらない。
「ほらほらどうしたぁ!?守ってばかりじゃ勝てないぜ!」
『ううっ、どうしたら……』
リルはこの状況を打開する方法を思いついたが、それをランナに説明している暇は無いと思った。
「ぐっ……うっ!」
リルは縛られた右脚を膝の少し上のジョイントで自切して急発進し退避した。
『ひぃぃぃいぅッ!?』
「大丈夫!まだ戦えるから!!」
左足で跳ねて方向転換し、ジックスの上を取る。
『思い切りがいいプラモだな!』
「ははっ、すげーガッツじゃねーか!おっと!」
上から連射するリルからジックスは逃げるが、いくつか攻撃を食らってHPが危険域まで削り取られる。
『深追いしないで、屋上に退避して。』
「わかった。」
危険なのはリルの方も同じだ。ランナは片脚を失ってバランスが崩れたことに気づき、その状態になれないまま戦うのは危険だと判断した。




