13、兄妹対決決着
一安心したところに地面を削りながら飛んでくるブレードに、ランナが悲鳴を上げる。
慌てるマスターの声を聴いて、リルは逆に冷静になっていた。
正面を向いているから推進器を吹かしてもそれで回避するのは分が悪い賭け。射撃で迎撃するのは、十分な威力がない。そして普通に転がっても初速が出ない。
「だぁぁっ!」
リルは地面にステッキを突き立てて、光弾を連射して上半身を浮かして転がって致命傷を避けた。ブレードに光弾を当てて軌道をずらし、下半身も守る。
「ひぃっ!」
ブレードは胴体を危うくかすめ、スカートの前半分を刈り取って通り過ぎた。
『ちょっとお兄ちゃん!なんて恥ずかしい攻撃するのよ!えっち!』
『ちっげーよ、事故だよ事故!あのままだと普通に致命傷のルートだっただろうがよ!』
スカートが刈り取られてインナー部分が丸出しになったことで、マスター同士の言い争いになる。
チギルとランナがギャーギャー言い合う裏で、地面を滑りながら着地したヘラにリルが話しかける。
「ねぇ、私の事、恨んでる?」
振り向いたヘラは、一瞬呆けたような顔をしていたが、すぐに、少し寂しげな笑みを浮かべた。
「ううん……恨んでないっていったら、嘘になるのかな……? すごく、悲しかったけど、でも、私には、今のマスター、チギルさんがいるから、大丈夫。大丈夫……」
「そっか……」
傷はいえていないようだが、恨みは無いという言葉が嘘ではないと、先程から戦いあっていたリルにはわかった。しかし、すぐにその表情が曇る。
「でも、どうしてあんな風に……?」
「プラモは友達じゃないなんて、言ってたけど……」
次のセリフは二人とも、同じだった。
「なんだか、辛そうだったね……」
二人で向かい合って話していたが、そのうちにマスター達の口喧嘩が終わったらしい。
『連射!』
『下がれ!』
指示が飛ぶと同時にリルは光弾を連射し、ヘラは片方だけのシールドを張りながら距離を取る。しかし、先程からの連射続きでステッキはオーバーヒートだ。
弾幕が止むと、ヘラはすぐに距離を詰めてくる。
『リル、切り取られたスカートを拾って。』
リルのスカートはいくつかのパーツに分かれていて、部分ごとに別々に角度が付くようになっている。ステッキを脚のジョイントに戻し、スカートのパーツの一つを手に取った。
『それ、推進器は使える?』
手の電極を切断面の導線に当てて電気を流すと、推進器が暴れそうになるのを慌てて抑える。
「使えるよ!」
『よし、両手に持って、それが武器よ!』
『んな!?』
距離を詰めてブレードで攻撃しようとするヘラに、推進器で加速した右手の甲を叩き込む。エネルギーシールドを展開した状態でだ。
「さっすが、ランナちゃん!」
「がはっ……」
「もう一発!」
一発殴っただけで終わりではない。左手を加速してシンバルで挟み込むように殴る。
「ぐぅぅっ!」
強い衝撃で挟み込まれ、ヘラのHPが一気に削り取られる。
『いいわよ、そのままとどめ!』
リルが、シールドが消えた両腕を再加速する。
『跳べ!』
チギルとしては、後ろに跳べと言ったつもりだったが、ヘラは間違えて「飛べ!」という指示だと思ったらしい。
「はい!」
推進器を一気に吹かして、ヘラは真上に飛ぶ。その脚にガッと右手の甲がヒットし、ヘラは姿勢を崩して上下がさかさまになる。
「はわわわ……ッ!」
上下がさかさまになったことで、推進器の勢いで急落下する。
そして、反射的に手を地面につくために手を前に出すと、出しっぱなしのブレードが突き出る。
「うぇ!?きゃああああっ!」
見上げるリルの胸にブレードが突き刺さり、機能停止になり、爆発のエフェクトを残して消えた。
『り、リルゥゥゥゥッ!?』
標的が消えたことで、ヘラはそのまま墜落し、ブレードが地面に接触し、その反りに沿って勢いが逃げて、ズザザと滑りながら着地した。
「ふぐぅ……い、痛い……」
思い切り地面について顔も腹側も土まみれだが、起き上がる気力もないらしい。
『……よくやったな、ヘラ!』
「えへへ……な、何とか、勝ちました……」
力が抜けて笑う彼女に、チギルは微笑んだ。
『ああ、今呼び戻すぞ。』
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ヘラが現実世界に戻ると、ランナのむすっとした顔が出迎えてくれた。
「く、くやしぃぃぃ!」
「もうちょっとで勝てたのになぁ……ランナちゃん、ちょっと落ち着いて。」
「だぁってぇ、今の事故じゃん、事故!」
ランナが悔しがるのも尤もである。最終的に負けたとはいえ、ヘラを追い詰め、最後の瞬間まで優位であったのは事実だ。自分の機転にとても自信があったので、悔しさも倍増だ。
「最後まで何が起こるかわからないのが、バトルってやつだ。今回は俺たちに運が味方したな。」
チギルは平静を装っているが、勝った喜びから笑みを隠しきれずにいる。
しばらく会話もしなかった二人だが、完全に仲直りしていないとはいえ、バトルを通じてこうして笑ったり怒ったりしている様子を見て、リルは安心した。
「ヘラ、よく頑張ったな。」
ヘラが出てきたことに気が付いたチギルは、ヘラを掌に載せて撫ぜた。
気持ちよさそうにするヘラを、ランナはじっと見る。
「むぅ……」
「……どうしたの、ランナちゃん。バトルで負けただけにしては、ちょっと機嫌悪すぎじゃない?」
ランナは、とてももやもやとした顔をしていた。ヘラに対して、何か拭えない違和感のようなものを感じていた。
「ごはんよー!チギル、帰ってきたばっかりなんだから、手を洗ってきなさい。」
母の声に、一旦思考を切り上げ、食事の準備に移った。
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『そんな顔すんな、お前を守れてよかったぜ……』
絶望的な状況にありながら、赤い戦士が不敵に笑う。しかし、彼女はその結末を、知っていた。
『いや……だめ、いかないで!もっと、一緒にいたかったのに、あたし、まだちゃんと、あなたに、言えてないこと、一杯なのに……』
駆動音が高まる。嫌だ、止めてしまいたい。でも、止まらない。すぐにあの時間が来てしまう。
『お別れだ……』
『バイバイ、ランナちゃん。』
その姿が、青い少女と重なった。
『ランナちゃんと会えて、本当に……』
地面に落ちた少女には、胸にぽっかりと穴が開いていた。暗い、真っ暗な穴が。
玩具に戻ってしまったように、ピクリとも笑顔を崩さない少女の、ガラスのような瞳が、じっと彼女を見つめていた。
『い……』
「いやあああああああああああああああっ!」
ガバりとベッドから起き上がり、呼吸を整える。ぐっしょりと寝汗が服に染み込み、張り付いて苦しい。
「どうしたの?ランナちゃん。」
「ひゃあっ!?」
荒い息をするランナに、いつの間にか目を覚ましていたリルが声をかけた。
「なんでも……ないわ……」
月明かりに照らされた部屋の中、机の上で自分を心配そうに見つめる小さな彼女に、手を伸ばした。
しかし、ランナは触れる前に手を止めた。加減を間違えればすぐに折れてしまいそうな彼女を、見つめ返すだけにとどめた。
「ランナちゃん。大丈夫。大丈夫だよ。私はここにいるから……」
リルはランナが止めた手に向かってジャンプした。
「ちょ、ちょっと!?」
飛距離が足りない。思わず差し出された手の上に、リルは少しだけ浮遊してふわりと着地した。薄暗い部屋の中で、PAの放つ淡い光が、幻想的に周りを照らす。
「ほら、やっぱり、ホントはこんなに優しいのに。」
呆けるランナに、リルはにこりと笑った。
「私、ランナちゃんのそういうところ、好きだよ。」
ランナはその言葉に目を見開くが、恥ずかしくなったのか、リルを机の上に戻して再び布団を被った。
「も、もう、まだ朝の3時じゃない、もうひと眠りするわ。」
そんな彼女を愛おしく見つめながら、リルもまた充電に戻った。




