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恵の物語  作者: リンダ


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研ぐ身体、鍛える心

『恵の物語』


第24話 研ぐ身体、鍛える心


世界選手権を終え、札幌へ戻ってきた恵と光希。


休む間もなく、新しいトレーニングが始まった。


目標はただ一つ。


2042年インスブルックオリンピック。


そこへ向けた二年間の土台作りだった。



「高く、薄い空気」


夏。


日本代表は北海道の高地トレーニング施設へ移動した。


標高の高い場所。


空気は薄く、一歩走るだけでも呼吸が苦しくなる。


初日。


クロスカントリーコース。


ラーシュが笑った。


「今日から君たちは酸素不足と友達になる。」


光希は苦笑いする。


「できれば友達にはなりたくないべ……」


アップが終わる頃には、全員が息を切らしていた。


一周目。


脚が重い。


肺が焼けるように苦しい。


二周目。


呼吸が追いつかない。


相田飛竜が叫ぶ。


「ラーシュコーチ!


空気が少ないっす!」


ラーシュは笑顔で答えた。


「知っている。」


佐々木正嗣も肩で息をしながら言う。


「分かってて連れてきたんですね……」


「もちろん。」


全員が苦笑した。



恵の新しい身体づくり


一方、恵。


コスキネンと海斗、寄子の三人がメニューを組む。


目的は、


「細くなること」ではない。


空中姿勢をさらに美しくするために、


余分な動きを削り、


必要な筋肉だけを磨いていく。


コスキネンが説明する。


「恵。


体重を落とすことが目的じゃない。」


「体を研ぐんだべ。」


海斗が続ける。


「筋力は落とさない。


必要ない動きを減らす。」


寄子も頷く。


「数字より質。」


恵はメニューを見て笑う。


「これ……


食事管理まで全部書いてあるべ。」


寄子。


「もちろん。」


「世界一は、台所から始まる。」



光希の課題


クロスカントリーでは、


ラーシュが光希だけを呼び止めた。


「世界選手権で何が足りなかった?」


光希は即答する。


「最後の二キロです。」


「ヨーロッパ勢の後半の爆発力。」


ラーシュは頷いた。


「その通り。」


ホワイトボードに書く。


爆発力。


筋力。


持久力。


精神力。


「全部鍛える。」


光希は苦笑する。


「全部ですか。」


「全部だ。」



新たなライバル


ラーシュは映像を流した。


そこには、


ドイツ代表の若きエース。


フェリックス・アドラー


二十三歳。


登坂力とラストスパートを武器に、


世界選手権で急成長した選手だった。


ラスト二キロ。


まるで別人のような加速。


実況。


「フェリックス・アドラー!


ここで一気に飛び出した!」


ラーシュが映像を止める。


「見ろ。」


光希は真剣に画面を見る。


「苦しそうに見えない。」


「そう。」


「苦しい。」


「でもフォームが崩れない。」


「筋力が最後まで残っている。」


「だから加速できる。」


光希はノートに書き込んだ。


最後までフォームを保つ筋力。


ラーシュは続ける。


「君が倒したい相手は、


昨日の自分だけじゃない。」


「フェリックスも、


ルーカスも、


マルコも、


みんな進化してくる。」


「だから君も進化する。」



地獄の坂道


午後。


坂道ダッシュ。


一本。


二本。


三本。


十本。


十五本。


光希は息が上がる。


「はぁ……


まだですか……」


ラーシュは笑う。


「まだ半分。」


相田が叫ぶ。


「半分!?」


佐々木が空を見上げる。


「誰か酸素持ってきて……」


全員が笑いながらも、


脚は止めなかった。


一週間。


二週間。


三週間。


少しずつ体が変わる。


高地の空気にも慣れてきた。


そしてある日。


光希自身が驚いた。


クロスカントリー終盤。


以前なら脚が止まっていた場所で、


まだ加速できる。


ラーシュがストップウォッチを見る。


「いい。」


「最後のタイムが落ちていない。」


光希は笑う。


「体が軽い。」


ラーシュ。


「違う。」


「強くなった。」



恵も変わる


ジャンプでも変化が現れていた。


助走。


踏切。


空中。


以前より姿勢が静かだった。


コスキネンが映像を止める。


「見て。」


恵は画面を見る。


「空中で余計な修正が減った。」


海斗。


「筋力を維持したまま、


空気抵抗が減っている。」


寄子。


「体の線を研いだ成果だね。」


恵は少し照れながら笑う。


「まだ途中だけど。」


コスキネン。


「途中だからいい。」


「完成したと思った瞬間、


止まるべ。」



夜のミーティング


練習が終わる。


選手全員が集まる。


ラーシュが最後に言った。


「世界選手権が終わった。」


「だが、


2042年インスブルックまで、


まだ時間がある。」


「この時間を、


どう使うかで、


金メダルの色が決まる。」


コスキネンも続ける。


「勝った選手ほど、


変わる勇気を持つべ。」


恵は静かに頷いた。


光希も拳を握る。


苦しい高地トレーニング。


酸素の薄い空気。


地獄の坂道。


それでも、


二人は確かに変わり始めていた。



エピローグ


夜。


宿舎の窓から星空を眺める恵。


隣には光希。


「きつかったべ。」


「んだ。」


「でも、


少しずつ変わってる。」


光希は笑う。


「最後の二キロ、


今度は負けない。」


恵も笑う。


「うちは、


もっと静かに飛ぶべ。」


二人は同じ空を見上げた。


世界選手権は終わった。


だが、


インスブルックへの道は、


今、静かに始まっていた。



次回予告


高地トレーニングの成果を試す、夏の国際大会。


恵は新フォームで世界記録級の飛距離に挑み、光希は強化した後半の加速力を初めて実戦でぶつける。


世界のライバルたちも、この数か月でさらに進化していた。


そしてフェリックス・アドラーが光希に宣戦布告する。


「次は最後の一キロで勝負しよう。」


次回、

第25話 夏空へ跳べ


苦しさの先にしか、本当の伸びは待っていない。

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