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恵の物語  作者: リンダ


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世界の入り口

『恵の物語』


第22話 世界の入口


世界選手権の開催地。


世界各国の代表選手が次々と選手村へ到着していた。


女子ジャンプ会場には、リレハンメルオリンピックで恵と金メダルを争ったライバルたちの姿がある。


フィンランドのベテラン、

アイノ・コスキネン。


デンマークの安定感抜群のジャンパー、

ソフィー・アンデルセン。


カナダの飛距離自慢、

エミリー・マクレガー。


ノルウェー期待の新星、

イングリッド・ラーセン。


オーストリアの若きエース、

ハンナ・グルーバー。


スロベニアの技巧派、

ニカ・クラニツ。


誰もが、世界女王・上川恵を倒すために一年間研究を重ねてきた。


「恵型ジャンプ」


そう呼ばれるほどになった飛型。


しかし彼女たちは、ただ真似をするだけではなかった。


自分の体格。


筋力。


柔軟性。


空中姿勢。


それぞれに合わせ、新しい飛型へ進化させていた。


大会前日の公式練習。


コスキネンが笑顔で恵のところへやってくる。


「また会えたね。」


恵も笑う。


「今度も負けないべ。」


コスキネンは笑う。


「私も、今度こそ金メダル。」


二人は握手した。


ライバルであり、


互いを高め合う仲間でもあった。



一方。


ノルディック複合。


こちらも世界中の強豪が集結していた。


ノルウェー。


ドイツ。


オーストリア。


スイス。


イタリア。


フィンランド。


クロスカントリーだけ見ても、


世界最高峰の選手たちばかり。


その中でも注目されていたのは、


ドイツの若きエース、


ルーカス・ヴァイス。


登坂力は世界屈指。


続いて、


スイスの技巧派、


マルコ・シュタイナー。


滑走フォームが極めて美しい。


イタリアのスプリント王、


マッテオ・ベルナルディ。


そして、


ノルウェー期待の新星、


エリック・ホルメン。


全員が光希より年上。


世界のトップクラスだった。


ラーシュが光希に言う。


「見るだけで満足するな。」


「勝ちに行け。」


光希は静かに頷いた。



大会初日。


女子ジャンプ。


一本目。


海外勢は、


以前より確実に飛距離を伸ばしていた。


実況。


「各国とも、上川選手を研究した成果が見えます!」


解説。


「しかし、形は似ていますが、やはり本人とは少し違いますね。」


コスキネン。


130メートル。


ラーセン。


131メートル。


マクレガー。


129メートル。


会場が沸く。


そして、


恵。


助走。


踏切。


空中。


実況。


「上川、今日は空中でさらに細かな修正を入れています!」


解説。


「研究されることを前提に、そのさらに先へ進んでいます!」


飛距離。


132.5メートル。


トップ。


会場から大きな拍手が起こる。



クロスカントリー。


光希も驚異的な粘りを見せる。


ドイツ勢が前へ飛び出す。


イタリア勢が追う。


ノルウェー勢がペースを上げる。


しかし光希は焦らない。


見る。


拾う。


返す。


雪面の変化。


ストックの刺さり方。


ライバルの呼吸。


全部見ている。


実況。


「日本の青柳、順位を落としません!」


解説。


「無理に追わない。雪の変化を待っています。」


終盤。


ルーカスが少し力んだ。


シュタイナーは日陰へ入りすぎた。


ベルナルディはストックが一瞬滑った。


ほんの一瞬。


光希はその違和感を見逃さなかった。


ラインを一本だけ変える。


スキーが走る。


一気に三人を抜く。


観客席がどよめいた。


ラーシュは笑っていた。


「見えている。」



大会は続く。


女子ジャンプ。


ノルディック複合。


どちらも、


優勝したり、


二位だったり、


三位だったり。


それでも――


恵も光希も、


ほとんど毎大会、


表彰台へ上がり続けた。


世界中の記者たちは不思議がった。


「なぜ日本の二人は崩れない?」


「フォームを研究されても勝ち続ける理由は?」


「どうして最後に伸びるのか?」


ある海外記者がコスキネンに尋ねた。


「上川選手の強さは何ですか?」


コスキネンは笑った。


「ジャンプを見ないこと。」


記者は首をかしげる。


「え?」


「風を見る。」


「雪を見る。」


「空を見る。」


「相手を見る。」


「全部見てからジャンプする。」


「だから真似できない。」



そして、あるスポーツ雑誌が特集を組んだ。


『ギャグコントで観察力を鍛えた日本代表』


世界中が驚いた。


記事には、


札幌市営地下鉄とJR北海道。


雪だるまとスキー板。


極寒の駅。


複線の線路。


数々の即興コントが紹介されていた。


海外選手は最初、


「ジョークだろう」


と笑っていた。


しかし、


日本代表が何年も結果を残し続けるのを見て、


考え方が変わり始める。


「笑いながら観察する。」


「固定観念を外す。」


「違いを関係にする。」


その考え方は、


少しずつ世界へ広がっていった。



夜。


ホテルのロビー。


恵と光希がコーヒーを飲んでいる。


光希が笑う。


「まさか、世界中にギャグコントが広がるとは思わなかったべ。」


恵も笑う。


「光子さんたちが聞いたら喜ぶべ。」


その時、


スマートフォンが鳴る。


画面には、


光子、優子、美香。


三人が映っていた。


光子。


「聞いたばい!」


優子。


「世界でギャグコント流行っとるらしか!」


美香。


「うちら、何を輸出しとるんやろ……」


恵と光希は顔を見合わせ、


思わず吹き出した。


世界の舞台。


張り詰めた空気。


その中でも、


笑える二人は、


今日も表彰台へ立ち続ける。


笑いながら見る。


だから、


誰よりも、


最後の小さな違いが見えるのだった。



次回予告


世界選手権もいよいよ終盤。


女子ジャンプ個人最終戦。


ノルディック複合最終戦。


金メダルを懸けた最後の一本、最後の滑り。


世界中が恵を追い、


世界中が光希を追う。


しかし二人は、


勝つことだけではなく、


さらにその先――


2042年インスブルックオリンピックへ向けて、新たな課題を見つけようとしていた。


次回、

第23話 世界一の、その先へ


本当に強い選手は、勝った日ほど、次の課題を探している。

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