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恵の物語  作者: リンダ


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笑いは世界共通

『恵の物語』

第47話 笑いは世界共通


札幌での大学生活は、少しずつ形になり始めていた。


朝は講義。

午後は真駒内で練習。

夜はレポートと体幹トレーニング。


恵は慣れない一人暮らしにも、ようやくリズムを見つけ始めていた。


一方、光希もラーシュ・ニルセンコーチのもとで、滑りが変わり始めていた。


雪を見る。

雪の声を聞く。

そして、返す。


ノルウェーの金メダリストは、厳しいが面白い人だった。


ただし、来日早々に博多の双子姉妹のギャグを浴びたせいで、何かがおかしくなっていた。


ある日の練習後。


真駒内のミーティングルーム。


ラーシュが突然、真顔で言った。


「今日は、私も即興ギャグコントをやってみたい」


全員が固まった。


光希

「……今、なんて言いました?」


ラーシュ

「即興ギャグコントだ」


コスキネン

「ついに来たべ」


「いや、来なくてよかったべ!」


ラーシュは真剣だった。


「観察力を鍛えるなら、私も体験した方がいい」


寄子が笑いをこらえながら言う。


「お題は?」


ラーシュは胸を張った。


「雪だるまとスキー板が口げんかしたら?」


会場、騒然。


光希

「情報が雪上競技に寄りすぎだべ」


コスキネン

「よかろうもん」


「コスキネンさん、博多弁混ざってるべ!」


もちろん、光子と優子にはすぐリモートが繋がれた。


画面の向こうで、二人はすでに笑っている。


光子

「ノルウェー代表、ついに参戦たい!」


優子

「いや、クロカン金メダリストを何に巻き込んどるん!」


即興コント

「雪だるまとスキー板が口げんかしたら?」


ラーシュが雪だるま役。


胸を張り、重々しく言う。


ラーシュ

「私は雪だるま。冬の象徴だ」


コスキネンがスキー板役。


「私はスキー板。冬を走る者だべ」


光子が実況役。


「さあ始まりました、雪上界の仁義なき戦い!」


優子が即ツッコミ。


「雪上界って何ね!」


ラーシュ雪だるま

「スキー板よ。君はいつも雪の上を滑ってばかりだ。たまには止まりなさい」


コスキネン板

「止まったら競技にならないべ」


ラーシュ

「私は一日中止まっているぞ」


コスキネン

「それは君が雪だるまだからだべ」


光希、腹を押さえる。


「正論すぎるべ……」


ラーシュ雪だるま

「しかし、私は子どもたちに愛される」


コスキネン板

「私は選手に命を預けられる」


ラーシュ

「私は鼻にニンジンを持っている」


コスキネン

「私はワックスを塗られる」


「勝負の基準が分からんべ!」


光子

「ニンジン対ワックス!」


優子

「どっちも食べ物じゃなか!」


ラーシュは、ここで急に博多弁っぽく言った。


「スキー板さん、そげん滑ってばっかりで、人生ツルツルたい」


優子

「ノルウェー人が博多弁で煽った!」


コスキネンも負けない。


「雪だるまさん、動かないのに偉そうだべ。少しはクロカンしてみるべ」


ラーシュ

「足がない!」


光希が椅子から崩れ落ちた。


「そりゃそうだべ!」


画面の向こうで光子と優子も爆笑している。


光子

「ラーシュさん、間がうますぎるたい!」


優子

「初参戦で腹筋持っていくな!」


コントはそこで終わらなかった。


ラーシュ雪だるま

「では、私もスキー板に乗る」


コスキネン板

「乗った瞬間、体重で沈むべ」


ラーシュ

「私は溶けても挑戦する」


コスキネン

「その根性は認めるべ」


光子

「友情芽生えた!」


優子

「雪だるまとスキー板の青春ドラマにするな!」


ラーシュは最後に、なぜかしみじみと言った。


「雪は、形を変える。雪だるまにもなる。コースにもなる。ジャンプ台にもなる」


一瞬、空気が変わった。


「だから、雪を見るということは、形だけを見ることではない」


コスキネンが頷いた。


「その時の雪が、何になりたがっているかを見るべ」


恵はハッとした。


笑っていたはずなのに、競技の核心へ入っている。


光希も、真剣な顔になっていた。


ラーシュは続けた。


「滑る者は、雪を征服しない。雪と会話する」


光希が小さく呟く。


「雪と会話する……」


優子が画面の向こうで言った。


「いや、ちゃんといい話になっとるやん」


光子

「ギャグコントなのに、最後だけNHKスペシャルたい」


「そこツッコむんだべか」


その日の練習。


光希の滑りは変わっていた。


力で押すのではなく、雪面の返りを待つ。

硬い場所では細かく刻む。

柔らかい場所では沈まないラインを選ぶ。

下りでは、雪に任せる時間を作る。


ラーシュが遠くから叫ぶ。


「光希!雪だるまになるな!板になれ!」


光希

「分かるような、分からんような!」


コスキネン

「でも走りはよくなってるべ!」


恵は横で笑いながらも、その変化を見ていた。


笑いながら見る。


すると、見え方が変わる。


硬くなると拾えないものが、笑っている時には入ってくる。


それは、光子と優子がずっとやってきたことだった。


夜。


恵と光希は札幌の街を歩いていた。


春の夜風が、少し冷たい。


光希が言う。


「ラーシュコーチ、すげぇな」


「んだ。初コントであそこまで行くとは思わなかったべ」


「腹筋は崩壊したけどな」


「それもトレーニングだべ」


二人で笑う。


光希は少し真面目な声になった。


「でも、雪と会話するって言葉、残った」


恵は頷いた。


「うちも。風と会話するのと似てるべ」


「競技は違うのに、結局同じところに行くんだな」


「んだな」


見る。

拾う。

返す。


笑う。

ほぐれる。

また見る。


札幌の街にも、風は吹いている。


新しい街。

新しい生活。

新しいコーチ。


そして、新しい笑い。


恵は胸元の鈴に触れた。


ちりん。


「笑いは世界共通だべ」


光希が笑う。


「ただし、博多の双子は世界基準を超えてるべ」


「それは間違いないべ」


次回予告


ラーシュとコスキネンの参戦で、札幌の練習場にも笑いと観察の文化が広がり始める。


しかし、世界選手権の代表選考会は目前。


恵はジャンプで、光希はノルディック複合で、それぞれ大事な一戦に挑む。


笑いでほぐれた心。

研ぎ澄まされた観察力。

そして、大学生として初めての大舞台。


次回、

第18話 代表選考会


札幌の朝に積み上げたものが、勝負の雪上で試される。

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