表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恵の物語  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/70

クラスメイトの応援旗

『恵の物語』


第12話 クラスメイトの応援旗


恵が遠征で教室を空ける日が増えても、旭川東高校三年の教室には、ちゃんと恵の席があった。


窓際から二列目。


机の横には、遠征前に置いていった参考書。

椅子の背には、制服のカーディガン。

机の中には、友達が勝手に入れた小さなメモ。


「帰ってきたら数学の小テストあるよ」


恵がそれを見た時、思わず叫んだ。


「世界の風より怖いやつだべ!」


教室は爆笑になった。



ある日の昼休み。


クラスメイトたちは、恵がいないタイミングでこそこそ集まっていた。


「応援企画、やろう」


「でも派手すぎると恵、照れるよ」


「じゃあ、さりげなく」


「さりげない応援旗って何?」


「小さくない旗?」


「それもう旗じゃん」


結局、作ることになったのは、教室の後ろに飾れる大きな応援旗だった。


白い布に、青と銀の文字。


中央には大きく、


最後まで見ろ。風は味方だ。


その下に、クラス全員の名前。


そして端っこには、誰かが小さく描いたコンビニおにぎりと、コーヒーカップと、自動ドア。


恵が帰ってきた日。


教室に入った瞬間、彼女は固まった。


「……なんだべ、これ」


友達が笑いながら言う。


「応援旗」


「いや、端っこのおにぎり何だべ」


「恵の競技理論でしょ」


「違うべ!いや、違わないのが悔しいべ!」


黒板には大きく書かれていた。


おかえり、上川恵。次も飛んでこい。数学も忘れるな。


恵は、最後の一文で顔をしかめた。


「感動の逃げ道ふさぐなや」


みんな笑った。


でも恵の目は、少しだけ潤んでいた。


「……ありがとうだべ」



放課後。


学校祭の話し合いでも、恵の名前が出た。


「恵が遠征でいない可能性あるから、動画出演にする?」


「いや、等身大パネル作る?」


「それは本人に怒られる」


「じゃあ、ジャンプ台風のフォトスポットは?」


恵が即座に言う。


「やめれ。体育館にジャンプ台作る気か」


「助走路は廊下で」


「校則で止まるべ!」


クラスはまた笑いに包まれた。


世界で戦う恵にとって、その笑いはすごく大事だった。


順位も点数もない。

風速もゲートもない。

ただ、友達とくだらない話をして笑う時間。


それがあるから、恵はまた世界へ行ける。



その頃、光希もまた、結果を積み上げていた。


ノルディック複合の国内大会で表彰台を重ね、クロカンでも粘れるようになっていた。


新聞の小さな記事に、名前が載る。


青柳光希、五輪代表争いに浮上


恵はその記事を見て、スマホを握った。


「光希、載ってるべ」


電話の向こうで、光希が照れた声を出す。


「まだ浮上しただけだべ」


「浮上できるのがすごいんだべ」


「恵に言われると変な感じだな」


「うちも最初は浮上からだったべ」


少し沈黙。


そして光希が言った。


「一緒に行くべ」


恵は、教室の後ろの応援旗を見た。


「んだ。一緒に行くべ」


旗の端で、小さなコーヒーカップが揺れていた。



次の遠征の日。


恵は教室を出る前に、応援旗の前で立ち止まった。


友達が言う。


「恵、いってらっしゃい」


「風、最後まで見てこいよ」


「お土産は茶色いチーズ以外で」


「数学の小テストも忘れるな」


恵は笑いながら鞄を背負う。


「最後のやつだけ置いていきたいべ」


でも、しっかり手を振った。


「行ってくるべ」


世界へ向かう背中を、教室の仲間たちがそっと押した。


胸元の鈴が、ちりんと鳴る。


恵は廊下を歩き出した。


制服の時間も、世界の時間も、どちらも彼女の翼だった。



次回予告


高校最後の国内大会。


恵は旭川東高校の制服で会場入りし、クラスメイトの応援旗を胸に挑む。


だが、若手選手たちも黙っていない。


恵型ジャンプを研究し、独自のフォームに進化させたライバルたち。


勝てば高校最後の国内タイトル。


負ければ、新時代の始まり。


次回、

第13話 卒業前の大ジャンプ


最後の制服に、最高の一本を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ