キャラ名無き作品 その16
R15は念の為です。
キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。
息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。
エピソードタイトル
授業中にクラスごと勇者召喚されたけど、異世界をボッチで行く事になった
ファンタジーな世界の神様や女神様、もしくは王様か皇帝とかが、別の世界の人間を勇者として召喚する。
こんな内容のラノベが一世を風靡した。
昼休み中にとある高校の一クラスが纏めて召喚されたり、学校帰りに友人と一緒に召喚されたりと、召喚のされ方もバリエーション豊富だ。
現在公立の中学に通う二年生。バレンタインが終わり、進級したら受験について色々と考えなくてはならない時期だ。
そんな中で、自分は午後の授業中にクラスごと召喚された。
融通が利かない頭の固い男性教師(担任は別の女性教師)が行う英語の授業中。教室の床が強烈な光を放った。
教壇にいた教師は腕で光を遮りながら、『誰だこんな悪戯をしたのは!?』とキレ散らかした。
当然の事だが、こんな悪戯をする人間はいない。だって、この教師が来る授業中にこんな事をやったら、出席日数を減らされるんだもん。
ノートを取っていた自分は、床が光った瞬間、机の上のものを全て通学鞄として使っているリュックの中に放り込んだ。机の中のものも素早く放り込む。嫌がらせが多かったので、ロッカーの中には何も入っていない。
リュックを抱きしめた直後、視界が真っ白に染まった。
視界が正常に戻ると、そこは真っ白い空間が広がっていた。クラスメイトと教師が全員おり、床(?)の上に皆座り込んでいる。
そんな中でただ一人、リュックを抱きしめて立っている自分は異質だ。
額に青筋を浮かべた教師から『こうなるの事を知っていたのか』と詰られたが、『新手の嫌がらせかと思った』と回答して、教師を黙らせた。クラスメイトは全員視線を逸らす。
気に入らない奴には嫌がらせをしても良い。自分がいるクラスは、そんな人間だけを集めたようなクラスだ。
だから、新種の嫌がらせを疑うのはしょうがない。
何が起きているのか、状況を把握したいが尋ねるべき存在がいない。不安に駆られたのか。クラスメイトが仲の良いグループに分かれ始めた。
自分は一人。教師も一人。その他は、三人から五人ぐらいのグループに分かれた。
グループが出来た直後、光の壁が立ち昇った。光の壁はグループを分断するように出現したので、驚いた幾人かが壁を叩くも、壊れる気配は無い。
『グループ分けが終わりましたね。皆さんには一人ずつ、スキルの書と装備の書を授けます』
突然、性別不明の声が降って来た。
皆はギョッとして天を見上げる。自分も釣られて点を見上げたが、真っ白い空間が広がっているだけだった。
『二つの書から選べるのは、それぞれ三つずつ。取得期限はありませんが、一度取得したら、次はレベルを十以上、上げないと取れません』
声がそこで一度途切れると、顔の前が急に光り出した。光が収まると、二冊のハードカバーの本が出現した。皆は恐る恐る、宙を漂う二冊の本を手に取った。
『ここで皆さんに授ける共通のスキルは、『言語理解』と、生きた生物以外が無限に収納出来る時間停止機能付きの『ストレージ』です』
手に取った二冊の本の内の片方が光った。こっちがスキルの書かな?
『では、皆さんには魔王を退治して頂きます』
続いて振って来た言葉は耳を疑うものだった。皆はぽかんとした顔で天を見上げる。
『最も魔王を斃したものだけが元の世界に帰れます。――では、頑張って下さいね』
空から降って来た声は、言うだけ言うと聞こえなくなった。教師がキレ散らかしているが、皆は先程の言葉を理解する為か、呆然としている。
……いやさ、最も魔王を斃した奴だけが元の世界に帰れるって、それはそれでどうなのよ? てか、早い者勝ちなの!?
魔王を斃す競争って普通はやらんだろ。
再度、床(?)が光り、視界が真っ白に染まった。
再び視界が正常に戻ると、今度は森の中だった。
小鳥の鳴き声も聞こえた。上を見上げると、木漏れ日が目に入る。顔を正面に戻して周辺を見る。
周囲には誰もいない。完全に一人だ。グループごとに森の中に飛ばされたって可能性も有る。
「探さなくて……いっか」
クラスメイトと教師を探そうかと思ったが、そこまで仲が良くないので、探す事を止めた。この手の条件下では、一人で動くのが最も安全だ。伊達に転生者じゃないぜ。
移動する前に、スキルの書を開いた。現時点で取得可能なスキルの名前だけが読める……事になっているだろうが、どう言う訳は全ページ読めた。自分のレベルが気になる。
スキル名だけ見て、現時点で欲しいスキル名を決める
「あー、あった。鑑定と検索。ん? セット扱いか」
鑑定のスキル名を指でなぞると、空中に文章が表示された。空中ディスプレイとはファンタジーっぽくない、な? いや、昨今のファンタジー系のラノベだと、空中に文章が表示されるのが定番化していたよね?
まぁいいと、疑問を脇に置いて、文章を読む。
『鑑定スキル 対象物の情報を見ただけで読み取る。スキルレベルを上げると、欲しい情報の検索も可能』
自前の鑑定スキルよりも有能だな。このスキルは取得して損は無さそうだ。『このスキルを取得するにはどうすれば良いんだ?』と考えたら、目の前の文章内容が変わり、『取得しますか? ハイ/イイエ』と表示された。
迷わず『ハイ』を押した。第三者がいたら変な目で見られそうな行動だ。
『鑑定スキルを取得しました』
スキルを取得した事で表示された文章はこれだけだった。クラスで最初に取得したら、特典が貰えるとかそんな事は無いのか。
他のクラスメイトがスキルか、装備を取得したなどの情報が得られるかと思ったんだが、無いものはしょうがない。
装備の書を開いて内容を確認する(こちらも全ページ読めた)が、魔法使い用のローブはあっても、この世界の普段着に相当する衣装は無かった。幸いにも。普段使いで来そうなブーツを発見した。即座に入手したよ。
宝物庫からクローゼットを取り出し、中学校の制服から、黒いシャツと同色の膝丈スカートに着替えて、上履きから入手したショートブーツに履き替える。最後に黒コートを羽織り、首から道具入れの指輪を紐で提げる。
ここでストレージの使用方法を知らない事に気づいた。
普通に『ストレージ』と呟いたら出し入れ口と思しき黒い穴が空中に出現した。その中に制服と上履きを仕舞った。何時までも出し入れ口が出現したままだったので、『閉じろ』と呟いたら閉じた。音声起動式らしい。
先ずは、腰を落ち着けて色々と考えたいから、拠点が作れるを探そう。リュックから雨天時対策のビニール袋を取り出す。リュックは制服と上履き同様にストレージに仕舞った。
鑑定スキルで草木の情報を得つつ、食用になりそうなものは採集し、ビニール袋に入れながら歩く。
空を飛べば良さそうにも思えるが、あえて歩いた。
鑑定スキルの練習にもなるし、歩いた方が食用になりそうなものを探しやすい。鑑定したい対象物に意識を集中させると情報が表示されるって便利だな。
鑑定スキルが便利だけど、食用の茸と木の実ばかりが見つかる。果物は無いか。森の中なら、山葡萄っぽいのとか、アケビとか見つかるかもと思ったんだけど。
とりあえず、ビニール袋が一杯になるまで茸と木の実を採集した。
歩きながら耳を澄ませて、川を探す事も忘れない。
行動が森の中で遭難した時とほぼ同じだが、そこはしょうがない。
でも、鑑定スキルが無い状況下で茸と木の実を採集するのは危険だ。採集したものが毒茸や、毒を持った木の実だった可能性があり、迂闊に食べると毒にやられる。だから、本当はこうやって食用のものを探して、採集するのは良くない。鑑定スキル様様だよ。
そう言えば、レベルってどうやって確認するんだと思ったが、『レベル』と言う概念が存在するのなら、当然『ステータス』も存在するよね。
そう判断してストレージの時と同じように『ステータス』と呟いたら、マジでステータス画面が出現した。
「……あれ?」
自分の名前の横にレベルの数字が表示されていたが、ステータスは数値表示ではなかった。何故か『S・A・B・C・D・E』表示だった。ここ異世界だよね? どうしてアルファベットが存在するの? そもそもレベルの表示が『? ? ?』だった。これはカウンターストップって意味かしら。
色々と突っ込みたいけど、突っ込んでも意味は無いし、相手もいない。
拠点設置場所と川を探して、森の中をただひたすら歩いた。
森の中が暗くなって来た頃になって、やっと川を見つけた。
ただし、『川だ!』と喜んだのも束の間だった。
野盗と思しき十数人の、破落戸っぽい男共と遭遇した。男共が牽く荷台には、手足を縛られ、布を噛まされたボロボロの服装の女性が二人もいる。
状況は判らないが、男共が襲い掛かって来たので、魔法で返り討ちにしたよ。衝撃波を男共の股間に向かって放ち、全員が呻き声を上げて、地面の上でのたうち回る様子を無視して、鑑定スキルを使う。
破落戸かと思ったが、男共は暗殺組織に所属するもの達だった。何で破落戸みたいな姿をしているんだろう?
布を噛まされている女性二人が、涙目になって何やら叫んでいる。
再度魔法を使い、男共の意識を刈り取ってから、女性二人に近づき、口の布だけ取った。この二人が善人であるとは言い切れない。話を聞いてからどうするか決めよう。
女性二人に拘束されている理由を尋ねた。だが、二人ともやたらと怯えているので、中々喋らない。鑑定スキルを使うと、二人の身分は『借金奴隷』だった。
借金奴隷と言うのは、『借金の返済が終わるまで、一時的に奴隷になった』人物の事を指す。
国の政策の一つで、借金の利子まで払えない人が、借金奴隷になり、人手が無く、人気の無い重労働をやって貰う代わりに、国が利子を肩代わりするって事か? 鑑定スキルの説明文章にそこまで出て来ないので、自力で推測するしかない。
奴隷は財産の一つとして数えられるが、女性二人の反応がおかしい。
鑑定スキルで身分を確認したと二人に伝えて、改めて状況を尋ねた。すると、女性二人は泣きながらに語った。
何でも、気絶しているこいつらは暗殺組織の人間だけど、たまに借金奴隷が働く労働所を襲って、人を攫う連中だった。二人がいた労働所は紡糸工房で、比較的老人が多く、警備も手薄だった。
そんなところが襲われた。工房の被害は甚大で、この二人以外は殺害された。そして、この二人を攫った連中の行先は娼館だった。行動がアホっぽいな。
その娼館への最短距離を通っていた途中で、自分と遭遇し、今に至る。
二人の拘束を解きながら思う。これは、マジでどうすれば良いんだろう?
この二人を紡糸工房に連れて行けば良いのか。でも、気絶しているこいつらを野放しにして良いものか。
悩んでいると、遠くから大声が聞こえて来た。今度は何だと思いつつも、声を張り上げて、大声に対応する。暫しの間を空けて、ハーフプレートのような鎧を身に纏い、武装した一団が姿を現した。
男共が白目を剥いて気絶している惨状を見て、一団は唯一身綺麗な自分を見て警戒心を剥き出しにした。自分も咄嗟に身構えたが、女性二人が『警邏隊の人達だ』と教えてくれた。そのまま二人が警邏隊の面々に状況を説明する。
二人の説明を聞いた一団は、自分への胡乱な眼差しを止めた。その代わりに、何故森の中にいるのか聞かれた。
どう回答するのが良いのか、流石に分からない。
素直に『二冊の本を渡されて、気づいたら森の中にいた』とだけ回答する。当然のように不審な子供を見る目で見られたが、『子供だから保護しよう』と言う流れで落ち着いた。あと、地味に無詠唱で魔法が使える人間は貴重らしい。
警邏隊の一団は男共を拘束し荷馬車に乗せる。女性二人は乗合馬車のように、大きい馬車に乗った。自分も同じ馬車に乗り、移動の道中、一団の隊長っぽい男から、色々と質問を受けた。
質問を受けても回答可能な事は少ない。
いきなり白い部屋に連れて行かれて、二冊の本を渡されて、たった一人、森の中に放り出された。
これしか言えん。
自分の話を聞いた男は、額に手を当てて深いため息を吐いた。どうしたのか尋ねると、男は馬車の天井を見上げながら言った。
「実はな。大陸各地に点在する魔王の数が十を越えた時、二冊の本を渡された大勢の異邦人が出現するんだ」
「は?」
「その異邦人は競い合うように魔王に挑んで死んで逝く、謎の存在だ」
「え? 魔王を沢山斃さないと元いたところには帰れないって、本を渡してきた謎の人物に言われたんですけど」
おいおい、どうなっているんだ? 思わず本を渡された時に言われた事を言ってしまった。
「……そうだったのか。ちなみにだが、君のように本を渡された人数は判るか?」
「私を入れて、三十三人です。大人の男性が一人います」
「残り三十二人か。貴重な情報提供感謝する」
男に頭を下げられた自分は、想像以上に厄介な状況になっている事を知り、内心で嘆息した。
走る馬車内で、自分は男から子供でも知っているような大陸の常識を教えて貰った。多分、知らないと恥を掻くと言うか、様々な場面で困る事になる。借金奴隷なんてものが存在する時点で、日本の法律と日本人の感覚は通用しない。
この大陸では十八歳で成人として扱われる。十四歳の自分は未成年だ。
この大陸に存在する国はどこも『王侯貴族制』だった。王の下に貴族がいて、その下に平民がいる。法律も王族・貴族・平民それぞれの身分ごとに存在する。
この大陸の通貨は紙幣は存在しないが貨幣は共通だった。共通の貨幣は白金貨、金貨、銀貨、銅貨の四種類が存在する。この四つには二回り大きい貨幣、大白金貨、大金貨、大銀貨、大銅貨が存在し、通常の貨幣と同じ大きさだが中心に穴が開いている半白金貨、半金貨、半銀貨、半銅貨の四種類が存在する。
ややこしいが、『大』が付くものは日本通貨の五百円玉に相当し、通常が百円玉、『半』が付くものは五十円玉だと思えば良いのか? 厳密には違うけど、扱いは似ている。
通貨価値は高いものから順に、次のようになる。
大白金貨>白金貨>半白金貨>大金貨>金貨>半金貨>大銀貨>銀貨>半銀貨>大銅貨>銅貨>半銅貨。
でも、話を聞いた感じでは、この十二種類の通貨を日本円に直すと次のようになる。
大白金貨=百万円、白金貨=五十万円、半白金貨=十万円、大金貨=五万円、金貨=一万円、半金貨=五千円、大銀貨=千円、銀貨=五百円、半銀貨=百円、大銅貨=五十円、銅貨=十円、半銅貨=五円。
物価にもよるが、高額決済用の白金貨はそうそう目にしないだろう。金貨一枚一万円、これ以下の貨幣感覚だけを覚えておけば良いだろう。
これら以外にも、男から様々な事を教えて貰い、最後に文字についても教えて貰った。
言語理解を保有しているから、会話は可能で、文字は読める。『文字を書く』機会が有るか不明だが、事前に文字を知っておいても損は無い。
文字について尋ねた際、男は怪訝そうな顔をした。会話が可能だから不審に思ったんだろうけど、言語理解なるスキルで会話だけ可能だと告げ、更に自分が文字を空中に書いて見せると男は納得した。
この世界の文字は、アルファベットを崩したような形をしていた。書く時の文法は英語に近いけど、単語の読み方はローマ字と同じだ。
最後に、街の治安とか、未成年でも可能な職業にについて教わっていると、馬車が止まった。
関所か、詰め所か、どこかに着いたのかな?
女性二人が自分と男に礼を言ってから馬車を降りた。自分も男と一緒の馬車から降りた。
馬車は大きな建物の前に止まっていた。男の所属は警邏隊だったから、詰め所かな? 空を見上げると、真っ暗だった。
今日の泊まる場所について考えたが、男に手を引かれて建物に入り、屋内を移動する。
やがてついた部屋に入ると、装飾が豪華な服装を着た男がいた。
自分を引っ張って来た男が説明を行う。その間、自分は手持ち無沙汰だけど、黙って事の経緯を見守る。
「分かった。彼女はこちらで引き受けよう」
「お願いします」
そう言い残して、自分を連れて来た男は退室した。
室内で部屋の主っぽい男を対面するも、再び誰かがやって来た。誰かと思えば、バスケットボール大の生成り色の袋(多分麻袋)持った男がやって来た。
男は自分に袋を渡すと退室した。受け取った袋は見た目以上にずっしりとしていて重かった。中身を確認すると、五百円玉ぐらいの大きさの、大量の大きな銀貨が入っていた。
部屋の主っぽい男に確認を取ると、『賊の捕縛と拉致被害者救助の報酬』で、袋の中身が銀貨中心なのは、市井で最もよく使われる硬貨が『大銀貨』らしい。
通貨の価値を考えると、最も使用されている硬貨は、半金貨だと思っていた。けれど、自分の予想を裏切って、『大銀貨が最も使用されている』と言う事は、それだけ『物価が安い』のかもしれない。あるいは、貴族向けのものが異様に高いだけかもしれない。
物価に関しては、実際に街中を歩いて商品を購入してみないと、現状では何とも言えない。大銀貨が入った袋はストレージに仕舞った。
今更だけど、改めて部屋の主の男と向き合った。
互いになお名乗り合い、警邏隊の隊長だと身分を明かした男から、賊の捕縛協力と拉致被害者救助の礼を言われた。
次は『客室を用意するから今日は泊まれ』だった。この建物に来た時点で、既に夜だった。この申し出はありがたい。でも、『明日の朝にここを出発しても良いのか』と警邏隊長に尋ねたら、その答えは『否』だった。返事をした時の警邏隊長の顔から推測するに、自分が持つ情報が欲しいんだろうね
自分としては、この世界の情報が入手出来るのならば、宿泊日数が延びても良い。宿泊については二つ返事で了承した。何か起きたら、逃げれば良い。
立ち上がった警邏隊長の案内で向かった食堂で夕食(メニューは葉物野菜の塩スープと、塩を振り掛けて食べるサラダ、臭みが残っている分厚い豚肉のバターソテー、スープに浸さないと噛み切れない硬いパンで、どれも美味しくなかった)を食べて、客室に案内して貰った。
通された客室は、四畳ぐらいの部屋だった。ベッドと机と椅子があるだけのシンプルな個室だ。
防犯装置を室内各所に配置し、防音対策をしてから、ストレージから袋を取り出す。
意地汚く感じるが、袋に入っている硬貨の枚数を数える。
市井で最も使われるのが大銀貨だと聞いたが、白金貨以外の通貨価値を持った九種類の硬貨が入っていた。
これが大金貨かと、硬貨を観察する。形・大きさ・両面の紋様は全て揃っていた。
鋳型で作っているのかと思い、鑑定スキルで調べた。すると、『波石』と呼ばれる沸点が低く、一度熔かしてから冷やすと、鉄よりも軽く衝撃に強い鉱石を芯材に使用している事が分かった。表面の金銀銅は塗装だった。
硬貨の材質について理解したが、効果を種類ごとに分けて、それぞれの枚数を数える。
大金貨・金貨・半金貨の三種類はそれぞれ十枚、大銀貨と銀貨は共に百枚、半銀貨・大銅貨・銅貨・半銅貨の四種類は二百枚だった。
日本円にすると幾らなんだと思ったが、物価の基準が分からないので計算は出来ない。
貰った袋の中に金貨と半金貨を一枚ずつ、大銀貨と銀貨を二十枚、半銀貨・大銅貨・銅貨・半銅貨は五十枚ずつを入れて、残りは道具入れから取り出した三枚の大判の布で金貨系、銀貨系、銅貨系の三種に分けて包みストレージに仕舞った。簡単なスリ対策だ。本音を言うと道具入れに仕舞いたいが、ストレージを利用した方が怪しまれずに済む。
己の体に洗浄の魔法を掛けてから、今日は眠りに就いた。
翌朝。美味しくないご飯で空腹を満たし、馬車に乗せられてどこかへ移動する事になった。
同乗する警邏隊長に行き先を尋ねると、短く『王都』と返答を貰った。
報告義務があるのか分からないが、現在位置について教えて貰い(ここは王都近郊で、馬車で朝に出発すれば、昼には王都に到着するらしい)、『過去に出現した異邦人が狼藉を働いたから、自分は王都に連れて行かれるのか?』と王都へ向かう理由を尋ねた。
詳細を聞くと、『報告義務があり、これまで異邦人に接触する機会が少なかった。魔王を刺激する存在なので国の上層部も直接聞きたい事が溜まっている』と言った感じの答えを貰った。
嫌な予感がしたので、『礼儀を欠いて怒らせると、後々面倒な事になりそうだから』と理由を付けて、『国家の上層部にどんな人間がいるのか』と質問した。
警邏隊長は少し嫌そうな顔をしたけど、自分の『礼を欠いて怒らせると~』の文言を思い出し、顔を少し顰めながらも教えてくれた。
警邏隊長の反応を見て、判った事が一つある。
自分が今いるこの国は『身分に煩い』可能性が高い。そうじゃないと、嫌そうな顔はしないよね。
馬車が王都に到着するまでの間に、色々と教えて貰った。
自分に予想は見事に的中した。
王都に到着し、馬車に乗ったまま王城敷地内に入り、馬車から降りたら方々から『汚物を見るような視線の雨』を浴びた。
差別意識の強い国だな。長持ちしないでしょうね。
そんな現時点での、この国の所感を心の中で抱きながら、警邏隊長の後ろについて廊下を歩いた。
暫くの間、無言で歩き、階段を上り、とある部屋に到着した。
警邏隊長がノックしてから部屋に入り、自分も部屋に入った。
室内には気難しそうな印象を受ける老人がいた。額の生え際がM字に後退しており、髪は真っ白だった。
警邏隊長に宰相と呼ばれた老人は、自分を見るなり困惑顔になった。老人の地位を考えると、感情が顔に出ないように訓練を受けている筈だ。そうであるにも拘らず、顔に出したと言う事は、少しは信用しても良いかもしれない。
演技の可能性を考えて、信用するか否かは言葉を交わしてから決めよう。
「宰相閣下。連れて来ました」
「ご苦労。手間を掛けたな。こちらで引き継ぐから下がっても良いぞ」
「分かりました。お願いします」
警邏隊長は頭を下げて退室した。
一人取り残された自分は反応に困ったが、ある意味好機だった。
いきなり王様と面会して、気分を害するような言葉を浴びせられるのかもしれないと警戒していたが杞憂に終わった。しかも、この宰相は信用しても良い可能性が有る。
移動して机を挟んで、自分は宰相と名乗り合ってから言葉を交わした。
宰相と言葉を交わした結果、『この人は信用しても良い』と判断した。
始めは演技を疑ったけど、言葉を交わして行く内に、『この人だけは大丈夫』だと、確信を持った。
この宰相も身分に関しては多少は気にする。でも、自分がいた国の事を話すと、宰相は『この国で身分がどんな意味を持つのか』を解説し始めた。
特権階級の人間が誕生した経緯を聞くのは、歴史の勉強のようで面白い。でも、誕生の経緯がいかに凄くても、その後継者や末裔が馬鹿では意味が無い。
宰相の解説を聞いて、『この人は敵に回さない方が良い』と思った。
身分を考えると、権力を持っている王様とかも敵に回さない方が良いだろう。
でも、この宰相は違う。
コネの使い方と結び方、相手を納得させる方法、権力の使いどころの見極め方が上手い。加えて、『どう言えば相手が納得するのか』を、『相手の身分に合わせて考える』事が出来ている。
……異世界に転移して、初期の時にこの宰相に会えたのは僥倖だな。
宰相と等しきに言葉を交わし終え、今度は自分の意見を述べた。
自分は魔王の事について何も知らない。
力が強大過ぎてそのように呼ばれているのか、その名に相応しい行動を取っているのかも判らない。
それに、本当に魔王を斃せば帰れるのかも分からない。
先ずはこちらの世界での生活に慣れ、生活の基盤を作りつつ、魔王がどのような存在なのかを調査する。
幸いにも、この世界には冒険者と呼ばれる職業が存在する。
大陸のあちこちを冒険者の振りをして見て回り、魔王に関する情報を集める。
魔王を斃す必要が無いのならば、別の方法で帰る方法を探す。
自分の意見を聞いた宰相は『可能なのか?』と聞いて来た。ありきたりな質問だが、必ず受ける質問だ。
宰相の地位にいる人間でなくても、必ず疑問の思う事だろう。
この回答は、格好つける訳では無いが、『それ以外に道は無く、やる事も無いので、やるしかない』とだけ言った。
一言余計な事が混じっているが、これが自分の嘘偽りの無い回答だ。
暫しの間、宰相と見つめ合った。
やがて、納得した宰相が大きく頷いた。
宰相から、冒険者として活動するに当たっての注意事項(身分について聞かれるから貴族との接触は控えろと強く根の押された)を聞かされ、大陸で使用されている身分証明証代わりのカードを貰った。
このカードが無いと色々と不便らしい。不便以外にも、このカードを持っていないと『訳あり』と見做されて、冒険者としての活動も出来ないらしい。それ以前に、街にも入れないとの事だ。
このカードは出生届を出した際に貰う『普通の金属板』だ。特殊な効果は一切無く、死亡したら返却を求める。金属板なのは、使用している金属が劣化にしにくい特殊な加工が施されているものだからだ。
返却を求める事が前提だからか、金属板には文字が彫られていない。識字率の低さを察した。
最後に、宰相から紋章が彫られた宝石付きのペンダントを渡された。紋章の形が家紋っぽかったので、流石に拒んだが、『国内貴族に絡まれた時に使えるから持って行け』と言われた。その言葉を聞き、素面で身分を振りかざす馬鹿な貴族がいる事を悟った。
頭を下げて礼を言い、宰相からペンダントを受け取った。
このあと。
宰相から、使っていない空き家に泊まるように指示を受けた。
その空き家で宰相から、城内では質問し難かった事を根掘り葉掘り聞かれた。質問に回答しないと言う選択肢は無いので、自分はその全てに答えた。
そうそう。スキルの書と装備の書も宰相に見せた。
そしたら、この二冊は『伝説上の書物』だったらしく、人前では見せるなと言われた。
こんな感じのやり取りを宰相と行い、冒険者ギルドのギルドマスターの許に連れて行かれた。自分の場合、状況が特殊だから事前に説明した方が便宜を図って貰えるとの事だった。
何だか申し訳ない気分になった。
そしてね。
ギルドマスターの息子が所属している、冒険者パーティに入ってあれこれと勉強する事になった。
表向きは『将来有望だが、勉強不足の子の教育』と言う事になっていた。
パーティに入って実際に勉強になる点が多かったから良かったけど、本音を言うと適当に仕事の成果を積み上げて他国に行きたかった。
勉強自体は三ヶ月で終わらせたけど、まだ、国外には出られていない。
予想外の事が起きたが、全体で見るとメリットしかない。
自分と一緒にこの世界に来た他の面々は苦労しているだろう。そもそも、ばらけて来てしまったしね
宰相が秘密裏にクラスメイトと教師を回収してくれると言っていたが、実際に回収されたのは死体だった。
何が起きたか分からないが、四肢の一部が無くなっていたり、体の部位だけだったり、何かの体液を浴びた状態で惨殺されていたり……言い方は悪いが、バリエーションが豊かだった。
半年と経たずに、全員の死体と対面しそうだと思っていたら、本当にそうなってしまった。
全員、魔王と戦って死んだのではない。野党を始めとした人間に殺されている。
女子の顔には涙の痕が残っていた。男子と教師の全身は原形を留めていなかった。皆の死に方はどれも悲惨だ。
魔王に戦いを挑まずに、こんな状況を強制した奴を見つけ出して殺りに行くべきか悩み始めた頃。
宰相から指定の場所に行けと、指示が来た。
理由は判らないが、世話になっている宰相からの指示なので指定の場所に出向たら、そこには『魔王の使者』を名乗る、牛の頭蓋骨風のフルフェイスマスクをつけた謎の人物がいた。
反応に困っていると、強制的に別のところへ転移させられた。
転移先は、どこかの執務室っぽいところだ。そこにいたのは、人種も種族も見事にばらけた十数名がいた。問い掛けると、彼らは『魔王』と名乗った。
この時、目が点になったと断言出来る。
だってさ、魔王の方から接触して来るとは思わないじゃん!
状況が呑み込めず質問を重ねると、状況が見えて来た。同時に、自分達をこの世界に連れて来た奴の情報もゲットした。
魔王と言うのは、人種族以外の種族の王の事を指す。
人種族以外は『魔族と呼ばれている』から、魔王らしい。何て適当な。
んで、自分達をこの世界に連れて来た奴は、この世界の神の一柱だった。ただし、退屈が嫌いで、愉快犯気質だった。
こいつは遊び感覚で適当な神託を出して、人間同士の悲劇を見て楽しむ――性根の腐った奴だった。魔王はその被害者筆頭である。
そしてね。自分達がこの世界に連れて来られたのは、悲劇の観賞目的だった。
神は他にもいるらしいが、誕生してから長い年月が経過した結果、自我が希薄になっていて、人形と変わりない。そんな状態の神しかいない為、件の神を止められる奴は残っていなかった。
全ての情報を聞き終えた自分は部屋の天井に向かって、ため息を吐き、今後の行動を決めた。
……よし、クソな神を殺しに行こう。
今後の行動方針を決めた自分は、神を殺るまで魔王達と戦わない事を約束した。
魔王達から神の居場所を聞き出した際に、ドラゴンを従えている魔王から、神に関する注意事項を聞かされた。
何でも、『神は、この世界の魔法攻撃を受けても効果が無い』と言うのだ。
この世界の魔法の根源は、全て神から齎されたものだ。その根源を保有する神には全く通用しないらしい。
その話を聞き、『だから魔王は神を殺しに行くと言う発想に至らなかったのか』と納得した。
そんな魔王達に『朗報!』と言う訳では無いが、自分は転生者である。当然、使用する魔法はこの世界のものではない。
この情報を魔王達に教えて、自分は今度こそ、諸悪の根源を討ち取りに――神々が住まうとされる大陸最高峰の山頂へ向かった。
さて、神の討伐の結果を先に言おう。
思っていた以上に簡単に討伐出来た。
ここからは人形のような存在から得た情報だ。
諸悪の根源たる神は、意外な事に、創世時からいる神々の中で『最も弱い悪戯の神』だった。
他の神は、保有する力が強大で、何事も泰然とした態度で対処してしまう癖があった。この癖が原因で、皮肉と言えば良いのか、年を重ねるにつれて自我が薄くなってしまった。
一方、最弱悪戯神は『何時かぎゃふんと言わせてやる』と虎視眈々と機会を狙う『下剋上の精神』が強かった。この下剋上精神が強いせいで、こいつだけはのかの神々とは違い、どれ程の年月が経過しても自我が薄れなかった。
己以外の神々の自我が薄くなり、何かをしないと何も返さない人形みたいな状態になった時。
こいつは悪戯の神としての本領を発揮した。
一人になった途端に、悪戯神としての本領を発揮する必要は無い。
そう突っ込む奴が不在だった事も災いして、こいつの悪戯の影響範囲は異世界にまで広がった。
そんな状態が何百年と続いたある日――自分がいるクラスが召喚され、事の次第を知った自分がキレて悪戯神を殺した。
達成感も何も無い、邪神討伐(?)になってしまった。
ここで達成感が無いのは、地味に愛用の戦槌の一撃で、悪戯神との戦闘がほぼ終わってしまったからだ。こんな事なら、戦槌を使わないで、気が済むまで拳を叩き込んだ方が気が晴れたな。
まぁそれでも、戦槌による腹パンで悪戯神を壁に叩き付けて動けなくしてから、気が済むまで殴った。
死ぬ寸前の状態に追い込み、空間転移で場所を繋いで魔王達をここに招き、全員で止めを刺した。自分が魔王達の武器に攻撃魔法を付与したら、攻撃が普通に通ったので驚いた。
全員で攻撃を叩き付けた結果、諸悪の根源は死んだ。だが、公表するのは難しい。
この場で協議した結果、魔王側だけが真実を知り、人種族は一部の人間だけに知らせる事になった。知らせる相手は、自分が世話になっている宰相だ。
後世への、真実の残し方を丸投げする形になったが、宰相本人に邪心討伐の顛末を告げ、魔王との協議内容を告げたら『真実を残す方法を、一任してくれる方が助かる』と快諾してくれた。
さて、邪神討伐を果たしたが、残念な事に、邪神を討伐しても元の世界には戻れなかった。人形にまで零落れた他の神の力を利用して、自分達を召喚したっぽい。悲劇観賞目的の召喚だから、戻れないのはある意味、当然か。
戻れなくても落胆はしない。十歳の頃に事故死した、資産家だった両親の遺産目当てで家に居座っている叔父一家がいるので、返れなくても困らない。両親が遺し、自分が相続した遺産の殆どを使っていただけでなく、自分の名前で借金をする、正に社会のゴミ人間だった。それ以前、未成年の名前で、どうやって借金をしているんだ?
敢えて帰らない事で、逆に叔父一家を借金漬けに出来るのだ。
……自力で帰ろうと思えば帰れるし、道具入れの中に事前に遺産の半分以上のお金を入れているから困らないだよね。
帰れなくても困らないからこちらに居続けるかのと、問われるとこれも微妙だ。
公表されないが邪神討伐で活躍しているし、転生者である事も暴露してしまった。魔王の警戒も買っただろう。
悩んだ末に、自分は元いた世界に戻った。
幸いにもお金には困っていない。ありとあらゆる手段を使用して新しい戸籍を入手し、ついでに叔父一家から散財された分のお金を取り戻し、現在全寮制の私立高校に通っている。
戻ったら一年近い時間が経過していたので、高校入学を選んだ結果だ。全寮制なら、住む場所にも困らないしね。
こちらに帰還する前に、地球でも採掘される水晶などを始めとした鉱石を残りのお金を使って購入した。魔法を駆使して身分詐称をしてこれらを売り払い、学費や生活費に充てた。
新しく通っている高校での生活は落ち着いている。
普通と言えばその通りだが、生死を掛けた世界から戻って来たと言うのに、混乱も無く生活出来ている。
何も思わずに戸籍を弄ったりして、問題無く生活出来ているのは、過去の経験を積み上げた結果かね?
まったく、慣れと言うのは怖いな。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
当初は、『生まれたての魔王(♀)に懐かれて子育てに奮闘する』作品にしようかと思っていました。導入からどうやってそこまで持って行くか悩み、内容を変更し、このような終わりで落ち着きました。
加筆修正すれば続きが作れそうなので、何かの作品に流用するかもしれません。
キャラ名すら考えずに書いた、短編の前半で終わったような作品になりました。




