キャラ名無き作品 その15
R15は念の為です。
キャラの名前を考えずに、気晴らしで書いた作品です。
息抜きのように勢いで書いたので、キャラクターの名前はありません。これだけはご了承下さい。
エピソードタイトル
魅了魔法に引っ掛かる前からクズだった婚約者との、王命の復縁を自殺して拒んだ結果
王城の大応接室にて、王の懇願を、私は笑顔ではっきりと物申した。
「何度でも言います。嫌です。お断りします」
「なっ!?」
「婚約してから最初の二年間、お茶会で会う度に暴言と暴力は頂きましたが、この方が私の婚約者として振舞ったは一度もありません。誕生日に祝いの品を寄越せと言われた事はありますが、壊れた状態で送り返されました。そして、贈り物は一度も受け取った事がありません。この方は貴族学院に入学する前から、私の義理の姉にずっとべったりでした。そして、貴族学院に入学してからは、義理の姉を婚約者として扱っていました。こんな状態で、今更、婚約者として扱われても、迷惑です。暴言を浴びせられ、暴力を振るわれた以外に思い出は有りませんし、繋がりなどもありません」
これまでに受けた扱いを口にすると、室内は静まり返った。
婚約者の顔が強張り、義姉と彼に厳しい視線が集中する。二人に厳しい視線を向けているその中には、彼の両親も含まれていたので、思わず笑いそうになった。
「婚約を解消して欲しいと両親にお願いすると、『贅沢に必要な補助金が沢山貰えるから我慢しろ。お前が男して生まれて来なかった罰だ』と言って、水差しや花瓶で全身を殴られました。侯爵夫妻にお願いすると、『王族と縁戚が結べる事がどれだけ名誉な事か分からないのか』と、夫人からは頬が真っ赤に腫れ上がるまで張り手を受け、侯爵からは乗馬用の鞭で打たれました。これで婚約者のどこをどう良く思えばいいのでしょうか?」
笑顔で『教えて下さい』と付け加えると、私の父と義母と彼の両親の顔は真っ赤になった。四人に厳しい視線が集まる。
特に、王太后は眦を吊り上げて、臣籍降嫁した自身の娘でもある侯爵夫人を睨み付けた。母の睨みを受けて、侯爵夫人は顔を真っ赤から真っ青にして身を縮こまらせる。それは、隣にいる侯爵と婚約者も同じだ。
「領地が隣で、婿を迎えなくてならない伯爵家だから。そんな理由で私の婚約は陛下の強行で決まりました。王家からの補助金は両親の散財で消え、私に使われた事はありません。私の誕生日も、祝われた事はありません。それは、母が流行りの病で逝去し、喪が明ける前に、父が再婚してからも変わりません。義母と義姉の誕生日は祝っていましたが。そして、今になって婚約者を自称するこの方は、貴族学院に入学する前から、一度も私を婚約者として扱ってくれませんでした。『女は男に尽くすのが当たり前だ。だからお前は俺の奴隷だ』と殴られた事の方が多かったです」
王太后の怒りに満ちた視線が息子の王に突き刺さる。王は顔を真っ青にして脂汗を掻いた。王は弁明しようと口を開くも、隣にいた王妃に扇子で頭を叩かれ、返す手で両頬を叩かれ、弁明を諦めて黙った。
「婚約してからそろそろ八年が経過しますが、私は婚約者の立場の方から、手紙を頂いた事が一度もありません。それはこの三年間も同じです。お茶会は向こうが前触れもなく押し掛けて来るだけです。婚約者として扱われた事も無く、義理の姉と不貞を続けていましたのに復縁ですか? 天地が引っくり返ってもあり得ませんわ。王命で復縁しろと言われましたら、死んだ方がマシですわ。家の家計は、三年間ずっと王都にいた父と義母と義姉の三人の散財で傾いて、借金の方が多いです。婿を迎え入れて、そんな家を継ぐのは嫌です。いっその事、死んだ方がマシですわ」
私は笑顔で言いたい事を全て言い切った。大変清々しい気分になった。
けれども、そんな中で、ただ一人王は顔を真っ赤にして震えていた。
「そこまで言うのなら、今ここで死んでみろ!」
王の絶叫を聞いて、室内にいた私以外の全員がギョッとした。
私の場合、暴力の内容によっては死は身近だった。その為、反応が遅れた。王は私の反応を『恐怖している』と思ったらしい。困惑する警備兵に命じて、私が座っている椅子の前のローテーブルの上に鞘込め状態の短剣が置かれた。
短剣を眺めて思う。死んでみろか。少し考えると、ある意味、私にとって好都合な提案だった。
「まぁ、陛下。本当に宜しいのですか!」
「……どういう意味だ?」
「私が貴族学院に入学するまでに、一年ほど時間があります。最上級生以外に学院内で起きた事は知らないでしょうが、私が魅了魔法に掛かった男子生徒の婚約者だった事に変わりはありません。入学したら、それ以前に、今年のデビュタントで嘲笑を受け、好奇の視線に晒されます。そして、皆様、身勝手にこう言うのでしょうね。『彼らも被害者だったのだ。許してやれ』と。口でそう言って、陰で私を指差して笑うのでしょうね。言うだけならダダですもの。そして、入学したら『婚約者に捨てられた令嬢』とか、『姉に婚約者を寝取られた令嬢』などと、同じ学院に通う生徒から、卒業するまで毎日嘲笑されるのでしょうね」
笑顔で重ねていた言葉を一度切って王を見たら、王の顔は真っ青で、口を開けたり閉めたりと動かしている。そんな王を無視して、私は言葉を続けた。
「入学云々以前に、それまでに我が家が存続しているか怪しいです。王都にいた三人の散財で、我が家の家計は火の車になっております。それに加えて、借金だけが異常な速度で増え続けております。ええ、借金を増やしているのは、王都にいた三人ですわ。私は今回の召喚命令が来るまで、王都に来た事がありません。領地でずっと、質素に過ごしていましたわ。代官任せで、領地経営を放棄していた父の代わりは行っていたので断言します。債務過多が原因で、我が家は爵位を返上するか否かの瀬戸際です」
断言してから私はにっこりと笑顔を浮かべて、王を見た。
「陛下。先程仰いましたね。今ここで死んでみろと」
「に、二言は無いわ!!」
確認を取ったら、王は『二言は無い』と確かに言った。けれども、王は訝しげな眼で私を見て『何を企んでいる』と糾弾したので、笑顔で回答した。
「私は今ここで死ねば、私が作った訳でも無い借金に頭を抱える事も無く、借金返済の為にどこかの好色な方に売り飛ばされる心配もなくなる。伯爵令嬢としての責務からも解放されて、伯爵令嬢として生涯を終える事が出来る。私にとって、良い事尽くしですわ」
王に対して、私は淀みなく回答した。そうしたら、王は顔を真っ青にして狼狽え始めた。他の皆様に至ってはぽかんとしている。
私は立ち上がり、室内を見回してから一礼した。そして、ローテーブルの上の短剣を手に取り、鞘から抜剣した。短剣を逆手に持ち、切っ先を私の胸元に向ける。
「では、皆様。さようなら」
最期の挨拶をしてから、左胸に短剣を突き立てて、僅かに引き抜いた。
痛みはあるが、これまでずっと暴力を受け続けていたせいか、余り感じない。
これまでの人生を走馬灯のように思い出す。
四歳年上の婚約者が、とある男爵家の庶子の令嬢の『魅了魔法』に掛かり、私は二年半も冷遇された。
世間ではそのように認識されているが、これは誤りである。
正しい冷遇期間は、婚約していた八年間だ。
婚約者は王の甥(王姉の息子)で侯爵家の四男末っ子である事が自慢で、褒めても良い点は顔だけだった。
王の甥であっても、嫡男では無いので、どこかに婿入りするしかない。隣の領地の伯爵家の子供が娘一人だった事から、王家が押し付ける形で、私が七歳の時に婚約が結ばれた。
それからの日々は地獄だった。それまでの日々も、『男児として生まれて来なかった』事を理由に鬱憤晴らしで暴力を振るわれていた。それがさらに悪化した。
気に入らない事があると、大声で怒鳴り罵り暴力を振るう婚約者。
甥を確実に婿入りさせたい王が『補助金』と言う名の賄賂を、両親の伯爵夫妻に渡すせいで、『我慢しろ』と両親からも暴言を浴びせられ、暴力を振るわれる。
使用人達は見て見ぬ振りをする。止めに入ると、即日で解雇になるから、誰も助けてくれない。
婚約してから二年後。
流行りの病で、母があっさりと逝去した。
喪が明けない内に、父は再婚相手と、義理姉となる連れ子を家に連れ込んだ。
それからの日々はもっと最悪だった。
父の再婚相手は流浪の踊り子で、今年で十三歳になる娘の教育を施してくれる男を探していた。
義姉は気性が荒く、他人のものを全て奪い取る事に執着していた。当然、婚約者も狙われたが、我儘な婚約者の相手を務めてくれるのだ。この一点のみ、感謝した。
「魅力が無いから、婚約者を取られるのよ」
義母はそんな事を言ったが、私があの婚約者に何時から執着していると思ったんだろう? 義姉に苦情の一つも言っていないのに。
更に三年後。
義姉が王都の貴族学院に入学した。これは貴族法で定められている義務教育の一つなので、必ず行かなくてはならない。
父と義母と義姉の三人が王都へ向かい、私は一人領地に残った。
婚約者も義姉と同い年なので、同じ貴族学院に通う。
王都は領地に比べると華やかなので、三人は帰って来ないだろう。婚約者も義姉を自身の婚約者のように扱っているし、婚約を推し進めた王も何も言わない。
使用人は解雇されたくないから、私を助けなかっただけで、陰でこっそりと助けてくれた人もいた。
学院が長期休暇に入っても、三人は帰って来ない。
嵐がいなくなって、快適で静かな日々が訪れた。
だが、義姉と婚約者が学院を卒業するまで、残り半年と言う頃になって事件が発生した。
どこかの男爵家の庶子の令嬢が、第二王子を含む婚約者がいる高位貴族の令息八人に、自身を囲ませていた。
これに私の婚約者も引っ掛かり、義姉との仲は悪化した。義姉の鬱憤晴らしは散財だったので、伯爵家の家計はあっと言う間に傾き、借金まみれになった。
そして、卒業まで残り半年と言う時。
男爵令嬢の取り巻きの中で、騎士を目指していた一人の令息が突然倒れて意識不明の重体に陥った。令息を調べた結果、禁忌とされる『魅了魔法』の使用が発覚した。
倒れた令息に掛かっていた魅了魔法の痕跡を辿った結果、魅了魔法の使い手は件の男爵令嬢だった。
男爵令嬢は即座に拘束された。拘束されたまま王城へ連行されたと当時に身分を剥奪されて、即刻処刑。男爵家は取り潰され、父親の男爵だけが一緒に処刑された。
第二王子を含む八名の魅了魔法は、男爵令嬢が処刑された事で解除された。ただし、正しい手順による魅了魔法の解除では無かった為、男爵令嬢が処刑されると同時に残り七名もまた、意識不明になった。目を覚ますまで王城の一室で、最初に倒れた令息と一緒に眠り続けた。八人が目を覚ましたのは五ヶ月後だ。
ここで男爵令嬢について詳細な話を聞くと、この男爵令嬢は庶子では無かった。
令嬢と男爵は孤児院で引き取った、全く血の繋がりの無い子供だった。他の子供に比べて目立つ容姿で、孤児院にいた年の近いの男児への取り入り方が上手かった。年の近い女児の敵も作っていたが、演技で男児に自信を守らせていた。
これを見た男爵が『成り上がる為の駒に使えそうだ』と思い、夫人の反対を押し切って引き取ったらしい。
男爵は引き取った義娘を高級娼婦にする事を前提とした教育を施し、貴族学院に送り出した。
ここまでは男爵の思い通りに順調だった。
唯一の誤算は、引き取った義娘が『異性に対してのみ効果を発揮する魅了魔法の使い手だった』事か。
そう、魅了魔法の対象は異性のみ。同性には効果が無い。
二年半と言う長い時間、この男爵令嬢が野放しになっていたのは、令息とその婚約者の令嬢の親達が原因だった。
揃いも揃って、令息達の不貞の証拠を突き出して『婚約を見直したい』と口を揃える令嬢達に、大人達は『若気の至りだ。学生でいる間はちょっと目を瞑ってやれば? 卒業したら正気に戻るよ』と言って、真面に対応しなかった。
その結果、王族を含む八人が倒れた。
知らせを受けた大人達は顔から血の気を下げ、とある令息の母親の侯爵夫人に至っては失神した。
完全に冷めた義姉は令息に貢がせたものを全て売り払い、その金で遊んだ。ある意味逞しい女だった。
私の婚約者もその八人の内の一人だ。でも、婚約者との思い出は無い。義姉と堂々と不貞していたから、婚約は無くなると思っていた。
まさか、王都に呼び出されて、復縁を考えろと言われるとは、夢にも思わなかった。
十四年間の人生を振り返り切ったところで、足の力が抜けて倒れた。
そこで私の意識は完全に途切れた。
※※※※※※
自分が目を覚ます直前、私だった頃の最期の記憶を見た。
まるで大河ドラマを実体験したかのような気分になり、眠りから覚めたのに、疲れが押し寄せて来た。
……何時もの事とは言え、どうにもならないんだね。
軽くため息を零してから目を開いた。白い天井が視界に入る。
起き上がると、胸の辺りに痛みを感じる。胸に短剣をぶっ刺して自殺を試みたから、この痛みはある意味当然か。
ベッド脇に小さなテーブルがあり、テーブルの上には金属のカードが置かれていた。このカードに魔力を込めると、対になっている呼び鈴が鳴り、使用人か侍女が来てくれる便利な道具だ。魔法道具の一種だが、豪商ならば最低でも三個は買える値段で販売されている。
カードを手に取り、少し悩んだ。
アレからどうなったのか知りたい。でも、どうしようか?
悩んだ末に、カードに魔力を込めた。
ベッドの上で大人しく待っていると、自身の侍女と医者を従えた王太后がやって来た。
ベッドの上で身を起こした状態で、王太后の口から自分が自殺した直後の事とか、正式に決まった事を教えて貰った。
最初はベッドから降りようとしたが、王太后が『五日も意識不明だった子供が無理をしてはいけません』と発言したので、大人しくしている。
王太后から教えて貰った五日間で起きた事を、纏めると次のようになる。
先ず、王は王太后と王妃の二人から、扇子で殴り倒された。表向き『王太子の命令』で王は拘束され、現在自室で謹慎中。
婚約を継続するか否かで揉めていた残りの七組は、婚約そのものを一度白紙にしてから、それぞれで話し合う事になった。王太后が言うには『一組を除いて、復縁は難しい』との事だった。
自分の婚約は、相手と王の有責で解消された。それは、王命が撤回されたとも言う。
まぁ、相手が王命だって事を忘れて遊んでいたから、馬鹿に下された沙汰は重かった。個人資産全没収、身分剥奪の上で、辺境の開拓地送りになった。流刑地では無いのは、開拓地には男しかいないからだろう。
自分への慰謝料は、没収した馬鹿の個人資産全部と、急遽、王位を王太子に譲る事になった王の個人資産残り全部だった。侯爵家と王家からも慰謝料は追加で出るが、現時点で正式に決定しているのはこの二人だ。
王の個人資産『残り』全部。思うところしかない。
何故『残り』が付くのか?
実は、自分が自殺した前の証言で、王が国庫の金を賄賂として、無断で使っていた事が発覚した。
その賄賂の中身は伯爵家への補助金だった。いかに王であっても、国庫の金を無断で使ったら法に触れる。それを財務大臣を巻き込んで、八年間も行っていた。
財務大臣は自身が行っていた不正を見逃して貰う代わりに、王に手を貸していたので即刻クビになった。
王は八年間無断で使っていた国庫の金を個人資産から返却した。そして残った分は自分への慰謝料となった。
いかに王位を譲るとは言え、王の個人資産を全額取っても良いのかと思ったが、王太后が言うには、北の幽閉塔に押し込むから良いらしい。
馬鹿の実家の侯爵家は嫡男に爵位を譲渡し、領地で永久蟄居。婚姻したばかりの嫡男と次男、婚約が決まったばかりの三男は管理者不在の、伯爵領地の立て直しが命じられた。
嫡男と次男と三男は、侯爵夫妻と末の弟が自分に対して何をしているのか知っていたが、苦言を呈する事も無く、見て見ぬ振りを続けていた。嫡男と次男はそれぞれ婚約者の令嬢にその事を秘密にしていた。
今回、事が明るみになり、嫡男と次男は離婚が申し込まれた。
特に、嫡男の相手は他国(六大国の一つに数えられている王国)の公爵令嬢だった。『王家と実家から、即刻離縁して戻って来いと手紙が来ました』と手紙を突き付けられて、嫡男はショックの余り倒れた。嫡男が倒れた隙に、公爵令嬢は離縁の手続きを終えると、荷物を纏めて早々に去った。国際問題になりそうだと、王妃は宰相と一緒に頭を抱えたらしい。
次男と婚姻した令嬢は、自国内の伯爵令嬢だった。けれども、侯爵夫妻と四男のやらかし内容を知った彼女の両親が、離縁を要求した。表向きは『伯爵家を継ぐ予定の弟に問題が発生した』だったが、真相は闇の中だ。
相手の実家の家督事情を出された次男もまた、離縁した。
三男は決まっていた婚約が白紙になった。婚約が白紙になっただけならまだ良くて、『侯爵家との縁を見直したい』と言う手紙と一緒に、『婚約申込を撤回する』手紙が殺到した。
これにより、侯爵家は数多の家との縁が切れた。
侯爵家の不幸は続く。
三人の許に、学生時代の友人達から『縁切りを求める』内容の手紙までもが届いた。更に使用人が続々と辞めて行った。
四男の婚約者への対応について、苦言を呈したものは元王女の侯爵夫人の手で、片っ端から辞めさせられていた。苦言を呈したものは皆、侯爵家に忠誠を誓っていたものばかりだった。残ったのは忠誠心無きものばかりで、辞める際に屋敷の物品を無断で持ち出すような馬鹿揃いだった。
馬鹿は闇市に盗品を売りに出して逮捕されたが、四男の婚約解消から半年も経たない内に、侯爵家は落ちぶれるのだが、まだ先の事だ。
実家の伯爵家は、現伯爵夫妻と長女(自分から見て義姉の事)は身分を剥奪。
借金の返済が終わるまで流刑地の労働所で働く事になった。だが、その借金の返済日が近かった為、王家が肩代わりした。三人は肩代わり分を追加した借金を、王家に対して作った事になり、通常の三倍の利子が追加された。借金の金額を考えると、死ぬまで流刑地から出られないだろう。
仮にこの三人が死んだら、国からの補助金の一部を受け取っていた、前妻の実家が残りの借金を背負う事になる。つまり、賄賂が賄賂として、別のところに流れていた結果だ。
貰っていた補助金の一部を返金しても、見逃して貰えなかったところを見るに、王太后と王妃の怒り具合が見える。
さて、実家と侯爵家の処分は決まったが、王家も頭を抱える最大の問題が残っている。
王家も困り果てる最大の問題は、自分の今後だ。
デビュタント前の未成年の子供で、王の我儘が原因で人生が狂った、正しい意味で悲劇の令嬢だ。
王の愚行を公表すれば、王家への批難は免れない。臣籍降嫁した元王女とその夫からも暴行を受けている。止めに『そこまで言うのなら死んでみろ』と王に言われて自殺を試みている。こんな他に令嬢はいないでしょうね。
自分の立場を考えると、国内の貴族学院に通うのは難しい。新入生も魅了魔法の一件は耳にしているだろう。被害者と加害者の名前も公表されているので、被害者が誰の婚約者だったかなど簡単に調べる事が出来る。
まぁ、どれだけ被害者であっても、王家が何を言っても、社交界に出れば好奇の視線に晒される事は確定している。
少し考えて、『国内では色々と言われるから、他国に避難したい。可能ならば、他国の学校に通いたい』と王太后にお願いしてみた。
国内に居場所が無いのなら、ほとぼりが冷めるまで国外にいるしかない。
今すぐには不可能でも、一年後までには国外にいたい。
己の率直な希望を王太后に告げた。
自分の希望を聞いた王太后は腕を組んだ。暫し悩んだ末に、王太后は『王妃や宰相と相談してみる。回復するまではここで安静にしていなさい』と言って、部屋から去った。
そしてどうなったのかと言うと、自分の希望は叶えられた。
ただし避難先は、元婚約者の長兄の元妻の実家がある国に指定された。王太后が相談の手紙を送ったら、『こちらで引き受ける』と相手方から提案されたらしい。
未来の義妹を助ける事が出来なかった。
それが最大の理由らしいが、『何か別の思惑が有るかもしれないから気をつけるように』と、王太后と王妃からしつこく言われた。
正直に言うと、あの馬鹿の長兄の婚約者の公爵令嬢に会った事は無い。
遠目に一度、公爵令嬢の姿を見た事はあるけど、厳しく躾けられた事が窺える、外見共々典型的な高位貴族の令嬢だった。
常にアルカイックスマイルを浮かべて、何事もそつなくこなす姿を思い出し、自分は一つの疑問を抱いた。
……公爵家の令嬢ならば、王族男子の婚約者として一度は望まれた可能性は高いのに、どうして他国の格下の侯爵家の婚約者になったんだ?
今更ながらの疑問だが、この国の王太子と長兄は同い年なのだ。件の公爵令嬢と長兄は同い年なので、これは王太子とも同い年である事になる。
政略的な意味を考えると、王太子の婚約者の方が納得出来る。王妹が臣籍降嫁した家に嫁ぐって、意味が有るのか?
考えても答えは出ないまま、出国日になった。
出国するに当たり、荷造りを始めとした準備は必要だったが、元より私物は少ないので簡単に終った。入出国に関わる手続きの方と、買い足し品選びに時間が掛かった。
王妃と王太后と王太子妃の三人、王家専属のデザイナーの五人、合計に八人に囲まれてドレスを十着も作る羽目になり、着せ替え人形気分を味わった。
出立時に王妃から、『そのまま向こうの家に養子縁組しても良いよ』と言われた時に、実家の没落ルートを確信した。
記憶を取り戻してから三ヶ月後。三つの国を跨いだ先の国へ――これから世話になる家に向かって出発した。
移動は向こうの家が用意してくれた、風の精霊が動かす馬車に乗ったので、僅か半日で到着した。
目的地の公爵家に到着した事で、自分が抱いた疑問は解消した。
結論を言うと、公爵家のものは『半分人間ではなかった』のだ。
まさか自分も、これから世話になる公爵家について早々に、様々な暴露話――公爵家の人間は『木霊とのハーフ』で、元婚約者の実家に娘を嫁がせたのは、『王家の血と馴染めるか』のチェックだった。ここで言うチェックと言うのは、『王家の人間が混じった人間との間に子供が作れるか』の相性の確認だった。王家の血を引く人間と子供が作れるようならば、政略婚も視野に入れていたらしい。嫡男との間に子供が作れなかったので、不適合と見做して円滑な離婚を計画していたが、末っ子の一件で簡単に離婚出来た――を聞かされるとは思ってもいなかったし、挨拶して『そのまま王城へ連れて行かれる』とも思っていなかった。
王城で『国王』直々の説明受ける事になり、公爵家が『自分の預かり先になる』と申し出た理由を知った。
この世界で転生者は『星の旅人と呼ばれる』のだ。
自分がいた国では調べる事はしない(調査方法を保有していない)し、星の旅人が誕生する確率は数百年に一度の確率だ。
こっちの国では調査方法を確立させていた。自分が記憶を取り戻す前の時点で、星の旅人か否かの調査も行っていた。
自分が星の旅人として覚醒する事を手ぐすね引いて待っていたらしいが、王との売り言葉と買い言葉で私だった頃に自殺してしまった時には焦り、一命を取り留めたと知った時には安堵したそうだ。
自分が国外避難を希望していると知った時には、『保護』と言う名目で名乗りを上げた。
星の旅人の知識は貴重で、この世界には無い魔法が使える事から、国を挙げて保護しているそうだ。
ちなみに、祖国を始めとした多くの国では行われておらず、活動を行っているこの国が珍しいのだ。他に保護活動を行っている国は残りの六大国だった。
祖国を始めとした国々は、宗教や受け入れる余力の無さを理由に、捜索と保護活動を行っていない。代わりに、偶然、星の旅人を発見したら保護活動を行っている六ヶ国のどこかに送り出すそうだ。
……どう反応すれば良いんだろうね。少なくとも、王妃は知っていた筈だ。知らなければ、『養子縁組しても良いよ』とか言わない。
怒涛の如く押し寄せる情報量の多さに、頭痛を覚えた。
これは、適当なところで雲隠れする事も出来なさそうだ。もう、ため息が出てしまう。
他国で無難にやり過ごそうと計画していたが、入国早々にここまで思惑を砕かれるとは思ってもいなかった。
しかも、この国には様々な超常の存在とのハーフやクォーターが沢山いた。
ドМなインキュバス、腐女子な吸血鬼と同性愛主義者の女装吸血鬼(♂)、百合の間に挟まりたい氷霊少年、脱衣癖の有る人魚少年などを筆頭に一癖あるものが在籍するクラスで送る、波乱万丈な学校生活が待っている事を、この頃はまだ知らなかった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
キャラ名すら考えずに書いた、魅了魔法関係の婚約解消作品となりました。
前半が重過ぎたので、バランスを取るように後半をコメディ方面に振ったら、短編のプロローグのような仕上がりになってしまいました。




