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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第三章 剣崎明人の軌跡
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剣崎明人の軌跡

無関係だと切り捨てるにはあまりにも出来すぎている。そして疑問が生まれれば新たな疑問も湧いてくる。仮に日本人が秋津洲にやってきているとして、それを金剛家が認知しているとしたら、それをこちらに伝えるだろうか?


新たな漂流者の存在ついてはすでに両者が認識している可能性の一つであり、それが認知できたならばお互いに情報を共有しあう事はすでに締結済みだ。それ以外でも何かしらの情報が入ったならばすぐに報告を上げるようにも伝えてある。


もっともエフゲニーには情報収集に関して大きな足かせがついている。主な情報源は金剛家側からの報告を待つしかないが、だからと言って指をくわえて待っているわけにもいかない。金剛家からの援助という名の「監視」をかいくぐり、できる事をしなければならない。


それらはエフゲニー一人で考えることではない。情報士官との審議を重ねて決定する事だ。そして当然の事だが疑問もあった。僅かな綻びが部隊の壊滅を招く可能性を考えれば果たしてそこまでのリスクを負ってまで漂流者の存在を認知しなければならないのか?


作戦というものは成功時に得るものだけではなく、失敗時に失うものも天秤にかけなければならない。最悪多くの部下を失い、得られるものはどの程度の情報を持っているかも分からない少数の漂流者。明らかにリスクに見合ってはいない。実際に反対の声が半数以上の情報士官、下士官から上がっていた。


確かにその通りだ。兵士たちにとってもエフゲニーにとっても現代への帰還は最優先するべき要素だ。それは疑いの余地もない。だが肝心の部隊が消えてしまえば当然すべて終わりだ。これまでの努力と希望が未来もろとも潰れ去る。


実際のところ漂流者の情報、確保が直接帰還へと繋がるわけではない。その可能性になる何かを知っているかもしれないという極めて薄い希望でしかない。だが金剛家や扶桑といった力のある勢力の手に渡ることが好ましくないという事は疑いようのない事実だった。長い目で見れば決して無視ができる存在ではない。


最終的にはいくつかの妥協と大隊本部情報小隊長の説得により作戦の実施が決定した。


例えこちらの動きを知られたとしても、金剛家への敵対とは取られぬ程度のものと認識させるよう巧妙な偽装を重ね、なおかつ精度の高い情報収集よりも安全性を重視した低リスクかつ少数の人員でというのが最重要視されている。やらないよりはいいといった程度のものだが、今はこれでいいという情報小隊とエフゲニーの判断だった。


確かに今回得られた成果については微々たるものだ。むしろ謎が深まったといってもいい。だが「何か分からないことを知ることができた」という結果をもたらしたのもまた事実。そしてこちらが本作戦において金剛家側に提示したたった一つの条件である「金剛家側人員の作戦地域への侵入は禁止」が厳守されているならば、この件についてはまだ金剛家側に知られてはいない。


当然のこと、扶桑側からの発見及び警戒の可能性を減らすためだ。当初は共同での作戦を提案されたが無線機の不足により金剛家斥候との連携が困難であることを理由に拒否した。しかしこんなものは子供だましでしかない。金剛家も当然理解しているだろう。金剛家側は初めから共同作戦が認められることなど期待していなかったはずだ。


少なくともこちらの斥候から扶桑瀧人とその取り巻き、そして墓地で確認された一人の男以外に確認された人間はいない。この情報は信用ができる。むしろ「そちらにの方に」人員を割いたのだから。


エフゲニーは目元を指で押さえ、ため息をついた。これは一人でいるときの癖になりつつあった。以前は何かを考えるとき、拳を口元に当てる癖があった。それについて特に悪癖だと考えたことはなかったが、今の行為に関しては少なくとも部下に対して見せられるものではない。


「私も年だな・・・」


つぶやくように言う。おそらくは年のせいだけではないだろう。ある意味では戦場以上に極限ともいえる秋津洲という環境に長く置かれたことによる心労も関係しているに違いない。

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