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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第三章 剣崎明人の軌跡
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剣崎明人の軌跡

空になったスープ皿にスプーンを静かに置く。


背もたれに体を預け、胸の前で両手を組んだ。その深い皺が刻まれた口元がかすかに緩む。


なんと都合の良い事だろうか。エフゲニーは自らの愚かさに嗤うしかなかった。


金剛家領地内の最奥、絶対の禁足とされているこの地を技術提供と引き換えに与えられ、身を隠し、そして匿われている我らが一体どの口でそれを言うのかと。


確かに他に選択肢はなかった。大隊を守るためには金剛家と協力する以外に道はなく、他にあるとするならばそれは武力を行使しての、この国に対する侵略以外の何ものでもない。


不要な争いだ。大隊の敵は日本であり、秋津洲ではないのだから。今の目的は勝利ではなく生き残る事でしかない。


一切の補給が断たれているこの地において生き残るために必要なのは、圧倒的な火力ではなく敵を作らない事、味方を作る事だ。しかし現代に比べ百年以上も後ろを歩いている者達に対し実質未来の技術を与えた時点で間接的に敵を作ってしまっている。


例え相手がボルト式ライフルと刀剣で武装した時代遅れの兵士だったとしても、包囲され、物量で攻め込まれればあっという間に押し切られるだろう。


金剛家の協力を得るためにこちらが差し出せるものは現代の技術以外には何もなかった。だがそれは十分を通り越してあまりにも過剰だ。


金銀ダイヤモンドですらが無価値にも等しくなる程の、時代をも置き去りにする超が付くほどの最先端技術。半鎖国状態のこの国が欲しがらないはずがない。


これまでに、そしてこれから先どれだけの敵を水面下で作ってしまうのか見当もつかない。技術は必ず流出する。それも大抵は悪い方向にだ。


ソビエト、ロシア製の戦車や火砲がこちらに向けられ、火を放っている。我が国の戦争の歴史において見慣れたと言っても過言ではない光景だ。その火種をこの国にて自らばら撒いてしまっていた。


顔を上げると何かに悩むたびに見上げる天井が目に入る。いったいあと何百、何千、何万回この天井を見上げねばならないのだろう。そんな事を考えエフゲニーは再びパソコンの画面に目を落とした。


どこをどう見ても特徴のない、どこにでもいるであろう東洋人だ。目を凝らして画面を見つめ、何かあるはずだと考えてはみるがやはり答えは変わらない。


だが扶桑瀧人と二人きりで領地の狭間であるあの墓地にいる時点でただの士官とは考えにくい。優秀な成績を収め、首席で卒業した士官学校上がりかとも考えたが、それにしては歳を食っている様にも見える。それに複数人であればともかく、一対一で「あの地」にいる事は不自然極まりないとも思えた。

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