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剣の谷の狙撃手  作者: キャップ
第三章 剣崎明人の軌跡
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剣崎明人の軌跡

クリックからわずかに間を挟んで映し出される写真に何度目かも分からないため息が漏れた。すっかり冷めきってしまったスープを左手ですすりながら、右手ではマウスを操作していく。分かっていた事だがやはりデータにはない。


情報部での解析はすでに終わり、この男について分かる事は現状なしというのが最終的な答えだ。しかし、安易には口にできないものの、最大限警戒するべき予測は立てられている。この男がエフゲニー率いる大隊と共に秋津洲へやってきてしまった、自分たちと同じ漂流者だという可能性だ。


例の集落を前進していた際、日本軍側からの抵抗は何一つとしてなかった。前夜に行った砲撃の跡に交じり、明らかに対戦車地雷と思われるものが誘爆した痕跡こそあったものの、銃撃や砲撃といった直接的な攻撃は一度としてなかった。


しかし、対戦車地雷が埋設されていたという事は、こちらの進行を予測していたという事だ。こちらの動きを監視し、そして触雷の成果を確認するためにも潜伏斥候、若しくはそれを兼ねた狙撃手や前進観測班の配置は必要不可欠。それまでの抵抗の程度からしてそこまでに人員を割けないほど日本軍側が疲弊している事は考えにくかった。


ましてやさらに敵陣側では、日本軍が多数の機甲戦力を備えた強固な陣地を構築中との情報も入っていた。であれば、なおさらにあそこが無人であった可能性はゼロに近い。


大隊員のほぼ全てに加え、先行させていた狙撃班までもが巻き込まれた秋津洲への転移。その範囲は相当なものだ。であればあそこに斥候が潜伏していたとして、共に巻き込まれた可能性は十分にある。


それだけならば大きな問題ではなかった。多大な戦力を備えた大部隊であるのならばともかく、相手は極めて少数。脅威であり、決して油断できない事に違いはないが、この地で戦争の続きをする意味はない。それは恐らく向こうも分かっている事だろう。可能ならばお互いに協力をするべきだ。ほんの僅かな情報の共有が現代へと帰還する手掛かりになるかもしれないからだ。


問題なのは、その漂流者が金剛家と半ば敵対関係にある扶桑の領主に次ぐ重要人物と接触している事に他ならない。扶桑が何をどこまで知っているのか。それをどこまでその「日本人」に伝えるのか。


その日本人は何をどこまで扶桑に教えるのか。一体どんな考えを持つ者なのか。扶桑と共にこの国を乗っ取ろうなどと言う子供じみた危険思想を持つ者か、はたまた誰も傷つけることなく、ただただ現代への帰還を望むだけの者なのか。


前者であれば現代での知識をべらべらと話すだろう。エンジンを一から組む知識と技術がなくとも、構造さえある程度分かっていれば、この国の天才と呼ばれる者が足りない部分を補い、造り上げてくれる。兵器であればもっと単純だ。音速を超える戦闘機やGPS衛星は無理でも、銃器や火砲であれば十分に製造できる。火器がこの世に登場して以来、火薬で弾を飛ばすという根本的な構造は何一つ変わっていないのだから。


火器の進化はより早く、より速く、より多く、より正確に、より遠くにが主だ。しかもそれらはエンジンに比べればはるかに単純な構造で再現できる。日本はかつてポルトガルからたまたま手に入った二丁の銃を僅かな期間で大幅に進化させ、大量生産させた。扶桑の技術をもってそれができないという事はありえない。


何も邪な事を考えずにただ生きて帰る事を望むだけの男であってほしいと願う。若しくはその男が日本人などではなく、ただこちらが掴み漏らしただけの秋津洲人将校であってくれと。だがエフゲニー自身は何かを知っている日本人であってほしい、願うならば戦争を知らずに除隊することを期待していた平和主義の日本軍人であってほしいという都合の良い思考の狭間で揺れ動いていた。


「・・・・・。」


無理だろう


エフゲニーは心の中で呟いた。

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