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告白メモリー

 実は告白されたことは人生の内で2度あった。

 最初は中2の時。


「あのさ柳井がホタルノのこと、好きなんだって」


 わたしの友達(女子)に付き添われてやって来た柳井くんから、


「付き合ってください」


と単刀直入に言われた。

 柳井くんは友達の前なのに恥ずかしさを我慢してこうも言ってくれた。


「1年の時から好きだったんだ」


 それに対するわたしの反応。


「え・・・どうしてわたし?」

「や・・・人の嫌がる仕事も目立たずにやってる所とか」


 いらいらした友達が補足する。


「ほら、ホタルノって、移動教室終わった後とか一番最後になって忘れ物あったら届けてあげたりしてるじゃない? そういう所がいいんだって」

「え・・・たまたまだよ」

「ほら、柳井、それだけじゃないんでしょ? ちゃんと言いなよ!」

「え・と・・・かわいいから・・」


 それを聞いて本当に顔が熱くなった。ただ、わたしはこう返事した。


「ごめんなさい。わたし、親とかから恋愛禁止されてて」

「え?」


 まるで芸能事務所のコメントにでも聞こえただろうか。柳井くんは違和感ありありの表情をしたけれども、友達はこう言う。


「あ、そっか。ホタルノの家ならそうかもね」


 厳しい家、というのは友達みんな知っていたし、恋愛禁止も嘘じゃない。ただ、禁止してるのは親ではなく、おばあちゃんだったんだけれども。

 結局、柳井くんはわたしの初めての男子の友達になってくれた。告白の後もごく普通に話してくれた柳井くんは、とても男らしい男の子だと思った。


 2度目の告白は高3の時。

 いや、これは告白に数えられるのかな。

 高校の卒業式の後、大学の合格発表の日だった。ネットで今の大学の合格を確認し、家族でささやかな祝いの夕餉ゆうげを頂いている時、メールが入った。


”今から会えない?”


 あれ? と思った。男でわたしのアドレスを知ってるのはお父さんとお兄ちゃんだけなので。だから、里田くんのメールは、クラスの男女何人かで合格の報告会か何かで集まってて、ホタルノも呼ぼうよ、っていうノリかな? と感じた。女子の友達が勝手にわたしのメアドを教えてその場からメールしたとか? ちょっと引っ掛かりはあったけど、


「なんかクラスで集まってるみたい」


と家族に告げて指定のファミレスに出掛けた。


「あれ? 里田くん1人? 他の人は?」


 彼は4人掛けのテーブルで1人、ドリンクバーのカプチーノを飲んでいた。


「よかった。来てくれたんだ」

「え・・・と」


 とまどいながらもわたしは席に着き、ドリンクバーを注文した。


「ホタルノ、って呼んでいい?」

「え?」


 何? と思ったけれども、積極的に断る理由もなかったので、いいよ、と答えた。


「じゃあホタルノ。君にとって生きる意味って何?」

「え?」

「人生の目標とかは持ってる?」


 なんだろ。進路とか真面目な話かな、と思い、わたしは真剣に考え、答えた。


「そうだね・・・まずは大学での勉強をきちんとして、社会人としての経験も積んで。あとはやっぱり結婚して子育てをきちんとしたいかな。わたし、子供を育てるって1個の人格を作るためのとても大事な仕事だって思ってるから」

「それ。それはそうと、僕は人生の目標はシンコウだって思ってる」


 あれ? わたしの話、全部スルー? というか、シンコウってなんだろ。


「ホタルノは神様って信じる?」

「神様?」


 ああ、”信仰”のことなのか。


「信じる、っていうか・・・神社にお参りとかは行くけど」

「神社じゃだめだね」

「え?」

「神社の神様じゃ救われないよ。マクラ神って聞いたことある?」

「・・・ない」

「全世界を救う神様なんだ。もちろん僕のこともホタルノのことも。実は今こうして呼吸できてるのもマクラ神のお蔭なんだ」

「・・・」

「どう? 信じる?」

「どうしてわたしのメアド分かったの?」

「それは些末などうでもいいことだよ」

「どうでもよくないよ。答えて」

「マクラ神の力だよ」

「・・・何? 里田くんはその宗教の信者なの?」

「宗教じゃないよ。教えじゃない。マクラの力が全てで哲学とかでもない」

「わたし、帰るね」

「・・・っんだよっ!」


 突然、里田くんの態度が豹変した。周囲のテーブルも何事? とこちらを向く。


「俺はお前に真剣な話をしてるのに帰るつもりか? ホタルノ!」


 不審げに店員も見るけれども、すみません大丈夫です、と軽く告げてから里田くんに話し始めた。


「じゃあ、言うね。わたしの家にはお仏壇と神棚がある。うちの先祖は代々守り続けて来た」

「・・・邪教だ」

「ちがう。それこそ教えでも哲学でもない。そこにうちを守り続けてくださった神様と仏様が事実居られるんだよ。うちのおばあちゃんは毎朝榊と仏花のお水を替えてる。わたしも朝家を出る時に、”行ってきます” って手を合わせて、帰ったらただいま、ってご挨拶してる。マクラって神様のことは分からないけど、うちの神様仏様のことはわたしは知ってる」

「へえ・・・」

「以上だよ」

「ホタルノさんって変わってるんだね」

「・・・里田くんも変わってるよ」

「俺と付き合ってよ」

「・・・嫌」

「分かった。帰っていいよ」

「おやすみ」


 そう言ってわたしは席を立とうとした。


「俺、東大落ちた」

「・・・里田くんはどの大学でも一生懸命やれるよ」

「・・・どうも」


 1週間後。大手ネット本屋から顧客情報が流出し、マクラ神を本尊とする、”世界正規教” なる宗教法人が布教活動に利用したというニュースが世間を揺るがした。ただ、里田くんが布教目的だったのか、本当にわたしが好きだったのかは分からない。

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