傷
右の脇腹に突き刺されたような跡がある。そこはちょうど、胴鎧のつなぎ目だった。
「こんな……酷い傷です。すぐに医者を」
「治療の仕方ぐらいわかる」
水筒を傾け、彼は傷口を流した。血の混ざった液体が絨毯にしみる前に。彼はシャツを丸めて拭う。痛々しさに目を背けた。彼は平然と傷を洗い終えると、暖炉から赤い火を手に移しとる。それを傷口に当てようとしていた。
「待ってください。火傷させても、傷が悪化するだけです」
「一々構うな。傷についた異物を焼くだけだ」
確かに彼は火を掴んでも、痛みに声を上げない人だ。だからといって、治療の仕方が荒すぎる。私は急いで、引き出しの一番上から、軟膏と包帯を取り出した。それからオルグレイドの元に戻る。
「……これ。使ってください」
もう見ていられなかった。薬と一通りの道具を置き、立ち上がる。
「痛みがひどくなったり、吐き気がしたら、呼んでください。そうでなくても……医者が欲しいなら、すぐ対応します」
伝えることは伝えて踵を返した。扉をきっちり閉じ、廊下で胸を宥めるように撫でる。
「夕飯よ、夕飯……」
忘れないよう、厨房に取りに行く。マーヤはお風呂の準備に取りかかっているのか、すでに食べ終わった跡があった。
寝室に戻る。静かに燃え立つ暖炉の近くに目を落とす。
「お持ちいたしま……」
身が凍りつく。絨毯の上。オルグレイドが倒れていた。
「オルグレイド様!」
彼の肩を掴む。何度も何度も揺する。でもオルグレイドは目を開けない。腹部には包帯が巻かれている。血の影が染みていた。
「起きてください!しっかりして!」
力なく横たわる体。ゆするだけで、仰向けに転がった。
早すぎる。彼が亡くなるには、まだ。確かに、オルグレイドなんかより、他に聖騎士にふさわしい人はいるだろう。だからといって、こんなの望んでは……。
「お願い……返事を!」
彼の服を、腕を掴む。その時だった。
「うるせえ」
「え?」
「静かにさせてくれ……眠い」
彼は大きなあくびをした。なんてことだろう。慌てた自分が馬鹿に思えてくる。彼は元気なあくびをして、再び寝返りを打つ。
こちらの心配も知らないで、無性に腹が立った。私は寝台から彼の枕と、たたんだばかりの外套を、彼へ投げた。
「私に……一言ぐらい、眠るとか。床に倒れる前に、何かおっしゃったら!」
私が声を荒げると、オルグレイドがむすっとした顔を向けてきた。そうしながらも、黙って大きな外套を広げ、枕にその太い首を寝かせている。
これ以上、彼になど構ってやるものか。私はベッドに身を横たえた。
「お風呂、湧いてますから」
「それより毛布、どこやった」
「知りません」
毛布を村の女性に取られたと、疲れた彼が聞く余裕なんてないだろう。私は枕の端を掴んで身を縮ませると、足元からため息が続いた。
「悪かったな。死んでなくて……」
彼の言葉にちくりと胸が痛んだ。
「……そうですね」
そう答えながら、私は少しも残念だとは思えなかった。




