第8話 少しの勇気
魔女キリカの朝は早い。早朝、日の出とともにキリカは目を覚ます。冷水で顔を洗い、服を着替え軽く身支度を整えてからキリカは採れたての野菜が売られている朝市へと向かう。
そこでキリカは、トマト、レタスそしてキュウリを買って家である喫茶クロネコへと帰っていく。そして厨房に立ったキリカはエプロンを着て買ってきた野菜を水で良く洗い切味の良い包丁でスパスパ切っていく。切った野菜をパンに挟みマヨネーズをかけて今日の朝食のサンドイッチの完成だ。ついでに今日のお昼に食べるお弁当も一緒に作っておく。キリカは朝食のサンドイッチゆっくり食べ食後に珈琲を淹れ一息ついてから制服に着替え魔法で髪色を黒に変える。忘れてはいけないのは布由から貰った桜のヘアピンだ。これをつけてキリカは鞄をもって今日も学校へと向かうのだ。
「あ、せっかくお弁当作ったのに持ってくるの忘れた……クロに手紙を飛ばしてお昼に持ってきて貰お」
学校に着いたキリカは今朝作った弁当が鞄の中に入っていないことに気づき使い魔である黒猫のクロに風魔法で手紙を送ることにした。クロに手紙を風魔法で送り終わったときに教室のドアが開き二人の生徒が入ってきた。布由とその友人の坂本凛だ。
「でさー駅前にできたクレープ屋さんのミックスフルーツクレープがすごくおいしいの」
「私それ気になってたんだよね。帰り寄ってみる?」
「うん!行こう!」
そう言って布由はキリカの隣の席に座った。普段のキリカならすぐにでも布由に声をかけるのだが、布由に同じ学校の同じクラスということを話すタイミングを中々つかめず正体を隠し黒華霧と名乗っている。
それから数時間後の昼休み、体育館裏の茂みでキリカはクロから忘れていた弁当箱を受け取った。
「ありがとうクロ」
「次からは気をつけなさい。ここまで運んでくるのだって楽じゃないんだから」
「ごめんって」
「それじゃあ、私は帰るから」
そう言ってキリカに弁当を渡したクロは足早に去っていた。キリカも教室へ帰ろうと後ろを振り返るとこちらを不思議そうに見つめている布由がいた。
「黒華さん、今……」
(どうしよう布由に見られちゃったかも……どう言い訳したら)
「黒い猫見なかった?こっちの方に走ってきたと思うんだけど」
「え、それなら向こうに走っていきましたけど」
「そうなの、ありがとう教えてくれて」
クロが走っていった方向を布由に教えるとすぐに走って行ってしまった。
「がんばれクロ……」
キリカはそうつぶやいて教室へ戻っていった。
午後の授業は暖かな日差しが差し込むせいで眠くなる。そんなキリカはちらりと冬の方を向くと同じようにうとうとして今にも寝てしまいそうな顔をしていた。何とか午後の授業を乗り切った後の放課後、部活や遊びに行っている頃キリカは寄り道せずまっすぐ家のある森の中へ帰ってゆく。家に帰ったキリカはすぐに制服から和服に着替え一階の喫茶店へ降りてエプロンを着て厨房に立ち仕込みを始めた。
「今日は布由来ないんだろうなぁー、放課後坂本さんと遊びに行くみたいだったし……いいな」
仕込みの手を止め窓の外の永遠に咲く桜を眺めていた。そして仕込みもひと段落着いたところでキリカは一度自室へ戻っていった。
「あれ、課題で使うノートが無い。もしかして学校に忘れてきちゃったのかな。さっと行って帰ってこよ」
鞄の中を漁りノートを探しているが見つからない。仕方がないのでキリカはもう一度制服に着替え学校近くの人気のない場所まで箒で飛んでいった。そこからは歩いて学校内に入り教室を目指していた。
校舎の中を歩き教室の前まで来たキリカが半開きになっている扉を開けようと手を伸ばそうとしたその時、扉が開き思わずキリカは手を引っ込めると教室の中からノートを持った布由が出てきたのである。
「えっ!布由!?」
「黒華さん!?いや、でも声がキリカちゃんそっくりだし、その桜のヘアピンって……」
突然のことで驚き、なにを思ったのかキリカはその場から逃げるように走り出す。
「あっ、待って!」
布由は逃げ出したキリカを追いかけとっさに腕をつかんだ。
「黒華さん……?」
布由の困惑する顔を見たキリカは胸が痛み腕の力が抜けその場で立ち止まった。
「……教室に行こう、布由。……ちゃんと話すから」
二人は教室に戻り向き合うように椅子に座った。そして軽く息を整えてキリカは口を開く。
「まずは急に逃げ出したりしてごめんなさい。まさか布由がいるとは思わなくて……」
「いいんだよ、えっと……」
「キリカでいいよ」
困惑する布由にキリカはやさしく微笑む。
「やっぱりキリカちゃんなんだね」
「うん。今までだましてごめん。黒華霧は偽名なの。本当はすぐにでも話したかったんだけど中々勇気が出なくて……だって初めて会った次の日に同じクラスだねって言う勇気なんてないしそもそも偽名だし見た目も違うし……」
「そうだったんだ。入学式の時からずっと……」
すると途端に布由の顔が赤くなる。
(待って、もしかしてずっと私がキリカちゃんの事見てたのばれてないよね)
「布由、どうかした?」
「うん、何でもないよ大丈夫」
不思議そうに布由を見つめるキリカに布由は慌てて返事をした。
「ねぇ、布由」
「なぁに?」
キリカは立ち上がりいつもより少しだけ勇気を出して布由に聞く。
「喫茶店にいる時だけじゃなくて学校にいる間も一緒にいてくれる?」
「もちろん!学校でもどこでも一緒だよ」
その布由の答えを聞いた聞いたキリカは嬉しそうな笑顔をしていた。
「そういえばキリカちゃんはどうして学校に戻ってきたの?何か忘れものでもした?」
「今日の課題で使うノートをここに忘れたから採りに来たんだ。そういう布由はどうしてここに?」
「私もノート忘れちゃって」
そう言った二人は顔を見合わせて笑いあった。
「ふふっ、やっぱり布由といると楽しい」
「私もだよ、でもそろそろ帰らなくちゃ」
時計を見るとすでに18時を回っており辺りがだんだんと薄暗くなっている。二人は教室を出てそのまま一緒に校舎を後にした。
「そうだ、布由これからは私の事キリって呼んでよ。学校じゃあキリカは言いにくいだろうし、それに仲の良い友達はそう呼んでるから」
「分かった!じゃあ、改めてこれからもよろしくねキリちゃん!」
「うん、よろしく布由」
そして笑顔の二人を包むように暖かな風が吹き、夕日が二人の帰路を照らすのであった。




