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喫茶クロネコへようこそ  作者: うなぎタコ


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第34話 リランテ・ムルム

 坂本凛、本名リランテ・ムルム。彼女はかつて魔法界の支配を目論む凶悪な犯罪組織の一員だった。組織は全体で十人だけという魔法界を支配するにしては少ない人数だったが、一人一人の力はすさまじいものだった。もちろんリランテ・ムルムも例外ではない。彼女一人で街一つを余裕で掌握できるほどの力を持っている。そんな少人数の凶悪犯罪集団だが、組織内にいた裏切り者の密告で計画の途中で捕まり、リランテ・ムルムには三百年の禁固刑が言い渡された。しかし、百五十年たったある日、リランテ・ムルムを含む十人の凶悪犯たちが牢屋から忽然と姿を消し、魔法界の名簿やブラックリストから名前が消えていた。その後、人々の記憶からその十人が消えた。このことはもちろん騒ぎにはなっていない。なぜなら誰もこの十人のことを覚えていないから。それでも唯一、彼女について残っていたものがある。


「——それがこのペンダントだ」


 そう言ってセレスナは、古びたペンダントをカウンターの上に置く。そのペンダントはとても古いものでさびれていた。中を見ると色褪せていて詳細な姿はよくわからないが、一人の少女の写真が挟んであった。その写真を外し、裏を覗いて見ると【リランテ・ムルム】と名前が書かれていた。


「セレスナさん、このペンダントはどこで?」

「彼女の血縁者が持っていた物だよ。彼女のことを忘れないようにって。大切に保管されていたよ。今はそれを貸してもらっている。事が終わればすぐに返すさ」

 

 セレスナは切なげにそう言う。

 

「その血縁者の方はそれほどまでに愛していたんですね」

「そうだな、こんなに愛されているのにどうしてこんなことを……ところで、キリカはどうした?ひどく放心しているように見えるが」

「……実は、布由が……」


 フェルアは数時間前に何があったかを自分の知る限りすべてを話した。


「そんなことが……今すぐ対策を考えないと布由が危ない。キリカ!しっかりしな、布由を助けたいんでしょ?」


 セレスナは放心状態なキリカに近づき、体を激しく揺らす。


「……はい、助けたいです……でも、私にどうしたらいいかわからないんです……布由を守るって決めてたのに……結局、守れなかった……」


 布由を守ると決めていたのに守れなかった。目の前で布由を連れ去られた、その悔しさと絶望感から、キリカの目に涙が浮かべる。


「だからこれから考えるんだ。布由を助け出すために。それにリランテ・ムルムの居場所には見当がついている」

「それは一体……」

「学校だ。私が魔法界からこっちに帰って来た時、この街に結界が張られるのを見た。結界を張るときに出現する魔法陣が学校の上空に出たとすると奴は今そこにいるだろう。おそらく布由も一緒に……」


 真剣な表情でセレスナは語る。


「だったら今すぐ学校に!」

「それは危険だ。無策で向かおうものなら、あっという間に返り討ちに会うぞ。なんたって相手は魔法界を支配しようとする程だぞ」

 

 焦り、立ち上がって店から飛び出そうとしているキリカを制止させるようにセレスナは言う。

 

「じゃあ、どうすれば……」

「キリカよ、一度奴と戦っているのだろ?どんな魔法を使っていたか教えてくれ。それをもとに作戦と対策を立てる」


 そう聞かれたキリカの脳裏には、思い出したくもない記憶が鮮明に写りだす。


「彼女は、魔法の無力化、対象から魔力を半分吸い上げる、ペンダント型の魔道具を所持していました。ただその魔道具は使いきりで、今は効果を失っています。そして彼女の使っている魔法は、おそらくトラップ系統の魔法です。それと布由の魔力暴走ですが、布由の魔力量ではありえないほどの持続時間をしていました。これは外部から何らかの薬を盛られている可能性があります」

「……実に厄介だな。どうしたものか……」


 キリカから出された情報を聞き、セレスナは頭を抱える。


「どうするのキリ?今頃学校はトラップだらけなんじゃ……」

「確かに、これじゃあ学校に入れない。もしかしたら近づくことすらも……一体どうしたら……」


 キリカも、フェルアも考え込む。


「じゃあ、こうしよう。学校に貼られているであろうトラップ魔法は探知魔法を使って、できる限り避けながら進む。そしてリランテ・ムルムとは接触せずに布由を取り戻す。もし、リランテ・ムルムに出会ってしまったら迷わず逃げる。魔界を支配しようとした程だ、使える魔法がトラップ魔法だけな訳がないからな」

「分かりました」


 キリカは落ち着いた声で返事をする。

 

「キリ、本当に分かってるの?戦いに行っちゃわない?」

「行かないよ。私はいつだって冷静だからね」


 からかうフェルアにニコッと笑顔を見せる。


「ならよかった」


 いつものキリカの様子に戻り、フェルアは安心したような顔をする。


「それじゃあ行こうか、布由を助けに」

「おー!」


 フェルアは片腕を上げ、元気よく返事をする。

 

「セレスナさんはどうします?」

「私は魔法界に戻って布由の魔力暴走を収める薬をセルリアから受け取りに行ってくる。そのあとで合流しよう。くれぐれも無茶な行動はしないように」

「分かりました」


 そしてキリカとフェルアは布由を救い出すため箒に乗り、誰もいない静かな街の空を駆け抜け、学校を目指した。


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