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喫茶クロネコへようこそ  作者: うなぎタコ


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第35話 布由救出作戦

「いつも賑やかなのに、こんなに静かなのは、なんだか不気味だね……」


 リランテ・ムルムが施した、人祓いの結界で街から人が消え、静かで薄暗い空を飛びながらフェルアはつぶやく。


「フェル、学校見えてきたよ」


 二人の目の前にはいつも通っている学校が見えていた。だが、いつもの学校とは違い、学校を覆うように空に巨大な魔法陣が見える。


「あの魔法陣、あれが人祓いの結界を起動してるだろうね……」

「フェル、そろそろ降りるよ」

 

 高度を下げ、二人は学校の正門の前に降りる。


「……一見いつもの学校だね」

「でも、どこに罠が仕掛けられてるかわからないからね。探知魔法は任せたよ、フェル」

「りょーかい」


 フェルアは杖を取り出し、探知魔法を使う。探知魔法は罠や、人がいる場所を赤く強調表示してくれる。それを頼りに二人は学校の中へと踏み込んでいく。


「夜の学校って、わかってたとしてもやっぱり怖いね」

「そうだね……それより、ここまで罠が一つもない方が怖いけどね……」


 校舎の中を隅々まで歩いても探知魔法には、人はおろか、罠すらないのだ。


「あと行ってない場所は……倉庫と、体育館……それと別館か」

「どこから行く?」

「そうだね……とりあえず別館から行ってみよう。その次に倉庫、最後に体育館」


 キリはそう決めてフェルアとまずは別館へ向かった。だが別館にも罠が一つもなかった。倉庫の方も見に行ったが何もなかった。


「あとは体育館だけ……」


 二人が体育館に近づくとフェルアの探知魔法に複数の罠と一人の反応があった。二人は慎重に暗い体育館の中へ入る。その体育館の中は魔力が漂っていた。


「フェル、そこの壁にあるスイッチ押して電気付けてくれる?」


 そうフェルアに指示を出すとすぐにフェルアは体育館の電気をつけてくれた。体育館全体に明かりが灯る。するとそこには、体育館の真ん中に一人の少女がバレーボールを浮かせていた。


「……布由?何してるのこんなところで?」

「私は天井に挟まったボールを取ってるだけだよ?この【ルワトレイル】って魔法便利だよね」


 布由は答える。目が紅い、まだ魔力暴走中なのだろうか。

 

「それで?キリちゃんとフェルちゃんはどうしてここにいるの?」

「私達は布由を助けに来たんだよ」

「助けに?」

 

 布由は首をかしげる。


「そうだよ。布由、坂本凛は危険だ、早くここを出てクロネコに帰ろう。布由の魔力暴走も直せるから」

「魔力暴走……?」


 布由がそうつぶやくと突如、周りにあるボールが浮かび上がり、体育館の中を漂う魔力が乱れ始める。


「布由?どうしたの?」

「……凛ちゃんが言ってたよ。私の魔力暴走はキリちゃんのせいだって。ずっと私を騙してたんだって」

「え?」


 キリカは驚き、動きが固まる。


「だから、私を騙す悪い魔女はこの世界に要らない!」


 ふゆはそう言って杖を取り出した後、力任せに杖を振り下ろす。すると布由の周りに浮いてあった複数のボールがキリカとフェルアに向かって飛んでくる。


「キリ!」


 フェルアは、ボールが飛んできているにもかかわらず、ただ突っ立ているキリカに駆け寄り、防御結界を素早く展開する。


「キリ!何ボーッとしてるの!」

「ご、ごめん……」


 フェルアにそう言われてハッ!としたキリカは杖を握る。


「で?どうするのキリ、布由ちゃん助けに来たはずなのに戦闘始まっちゃってるんだけど」

「……とりあえず布由を傷つけないように無力化しよう。布由の様子もおかしい気がするし、早めにね」

「了解。無力化させるなら私に任せて!」


 フェルアは一度、防御結界を解き、杖に魔力を集中させる。


「痺れなさい!【ボルネルト】」


 フェルアがそれを唱えると電気を帯びた粉のようなものが浮かび上がってくる。そしてそれは布由の周りに留まり続ける。


「何これ、ビリビリする……」


 電気を帯びた粉の様なものが布由に触れると、布由の体がだんだん痺れはじめ、床に座り込む。周りに浮いているボールも布由が維持できなくなり、その場に落ち、足元に転がる。

 

「さすがフェルだね」

「状態異常系の魔法は得意だからね」


 自慢げな表情を浮かべるフェルアとキリカは、痺れて動けない布由に近づく。だがその時、布由が痺れる体で無理やり魔法を使い、ボールを浮かせ壁にぶつける。すると、その壁に仕込まれていた罠が作動し三本のナイフがフェルアに向かって飛ぶ。


「!?フェル、危ない!」

「へ?」

 

 とっさにキリカがフェルアの手を引き寄せ、腕にかすり傷を負うだけで済んだ。


「近づかないで……」


 拒絶。

 

「……布由?」

「こっちに来ないで!」


 弱まっていた布由の魔力が再び暴走を始め、ボールが跳ね回る。そしてその跳ね回るボールが壁や天井に当たるたび罠が作動し、ナイフが絶え間なく飛んでくる。フェルアがすぐに、防御結界を張ってくれたおかげで何とか耐えしのげている。


「キリ、この結界もあんまり長く持たないからね」

「分かった。何とかするよ」


 キリカは杖に魔力を込める。そして放つ。極位魔法【ストルレイ】を。この極位魔法【ストルレイ】の効果は対象のスピードを極限まで遅くする。その魔法を使って無尽蔵に飛び回るボールとナイフを空中に留める。

 

「なんで、魔法が……」


 布由がどれだけ杖に魔力を込めようがボールやナイフが動かない。


「この魔法は布由もよく知ってるでしょ?」


 キリカは何もできない布由に近づく。

 

「こっちに来ないで!ねぇ、来ないで!来ないで!……お願いキリちゃん、来ちゃダメ——」

「布由?」

 

 一瞬だが布由の目が元の黒色に戻り、涙が浮かんでいるように見えた。


 「——助けて!凛ちゃん!」


 だがまたすぐ、目は紅くなってしまい、布由は大声で凛の名前を呼び助けを求める。


「だれ?私の布由をいじめてる悪い魔女は?」

 

 突然その声が聞こえたと思ったら、布由の後ろからその声の主が静かに表れる。それは探知魔法には映ることはなく、キリカとフェルの前に立つ。


「……リランテ・ムルム……」

「あら、あなた達の方からこっちに来てくれたのね。だけど——」


 空気が重く淀む。魔力の流れも不安定だ。


「だけど、二人して私のふゆをいじめるのは許せないなぁ」


 そう言った直後、やはり探知魔法に映っていない場所の罠が起動し、ナイフが複数飛んでくる。そのすべてナイフをフェルアの防御結界おかげでしのぐことができたが、ついに、パリンッと音をたて破壊されてしまった。


「キリ、もう防御結界は、張れないよ」

「分かってる。でも【ストルレイ】を解除したら今度は布由の魔法で、落ちたナイフが飛んできちゃう……フェル、簡易魔法結界なら張れる?」

「それなら張れるけど、簡易防御結界って、小さくて体全体を守れないし、何より一人用の防御結界だよ?」

「それでいい。——大丈夫、自分の身は自分で守れるから」


 そう言ってキリカは【ストルレイ】を解除する。途端、宙に浮いていたボールや地面に落ちているナイフが布由の暴走した魔法で絶え間なく飛び回る。そしてキリカは間髪入れず再び【ストルレイ】を唱え飛び回るボールとナイフの動きを極限まで遅くする。


「お愚かな魔女……」


 リランテ・ムルムがそうつぶやくと罠が作動し、ナイフが一本、フェルア目掛けて飛んでくる。それをフェルアは簡易防御結界で防ぐ。


「何も学ばないのね。その【ストルレイ】は仕込まれた罠には効果がないってことに。止めたいなら【ストルレイ】の対象に私を入れればいい」


 リランテ・ムルムは余裕そうな笑みを浮かべ、そう言う。

 

「確かにあなたに使えば一瞬で蹴りが着くでしょ。だけど私は、あなたが持っている厄介な魔道具の存在を知っている。今回もそれを持っているかもしれない、そんな可能性があるのにむやみにあなたに向かって【ストルレイ】なんて使わない」


 そうきっぱりとキリカは宣言する。


「へぇ、じゃあどうやって私を倒すのかな?」

「倒さない……」

「へ?」

「倒さない。私達の目的は布由を助け出すこと。だからあなたとは戦わない」

「生意気ね、私からふゆを奪おうなんて!させるわけないでしょ!」


 リランテ・ムルムは怒りに任せ、罠を起動し仕込んでいたナイフを飛ばす。


「フェル!」

「任せて!【スリーピネスフォルド】」


 キリカはフェルアの名前を呼んで合図を送ると、フェルアは急速に布由との距離を詰め、【スリーピネスフォルド】を唱えた。この魔法は広範囲に人や動物を一瞬で眠らせる煙を発生させる魔法だ。その煙に包み込まれた布由は一瞬のうちに眠り、フェルアは眠った布由を抱え、全速力で体育館を飛び出して行く。もちろんこの煙はリランテ・ムルムも包み込んだが、首にかけていた魔法を無効化するペンダントの効果のせいで眠っていなかった。そしてそのペンダントは役目を終え、ひび割れてしまった。


「チッ、せっかくペンダント新しく買いなおしたのに。最悪」

「やっぱりそのペンダント持ってたんだ……まぁ、これで何も気にせずあなたと戦える」

「私のこと倒さないんじゃなかったの?」

「布由を助け出す目的は達成した。だからここからは個人的な理由であなたと戦う。セレスナさんには怒られるだろうけど……」

「そう。私もちょうどあなたを叩きのめしたかったからちょうどよかったわ」


 そして、静まり返った体育館に二人、杖を握りしめ、にらみ合う。

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