第31話 文化祭
文化祭当日。学校中は華やかに飾られ、ここが学校ということを忘れさせれる。それは布由たちの教室も同じだった。
「キリちゃん見て!見て!」
いつもとは違い、四つ一組で組まれた机にテーブルクロスが敷かれ、すっかり華やかに彩られた教室で布由は、フリルの付いたメイド服を着てキリカの前でくるりと回って見せた。
「か、可愛い!すっごく似合ってるよ布由!」
キリカはスマホのカメラを連射しながら興奮気味にそう言った。メイド服は主に料理を運び、接客する人が着るため、他のクラスメイト達も数名メイド服を着る。そのメイド服を着たクラスメイトの半数が男子だった。
「それで、フェルアはどうなの?動きやすい?」
凛は後ろにいるフェルアの方に向いて言う。そこには布由と同じようにメイド服を着たフェルアが、体を左右にひねりながら着心地を試していた。
「うん、前着たときよりも動きやすくなってる」
フェルアは満足そうな笑顔を見せる。
「さぁ、二人とも並んで、写真撮るから」
凛とキリカの指示で布由とフェルアは並んで写真を撮る。意外にもフェルアはノリノリで布由とポーズを決めていた。それから、厨房組もエプロンを着て準備を始める。
「キリちゃんのそのエプロン姿、なんだかちょっと違和感あるね。いや、これはこれで可愛いんだけどね」
制服の上からエプロンを着るキリカを見て布由は言う。
「あー、いつもは和服の上からだもんね」
キリカはいつも喫茶クロネコにいる時は和服の上にエプロンドレスを着ている。その姿を見慣れている布由にとって少し不思議な光景だった。
「さぁ、坂本さん準備しに行きますよ」
「はーい!」
「じゃあ私たちは接客頑張ろうね、フェルちゃん!」
「うん、頑張ろー!」
四人はそれぞれ持ち場に着く。そして学校の門が開き、遂に文化祭が始まった。休日開催ということもあり、保護者や家族ずれ、他校の生徒が多数来ていた。校門から校舎までの道には三年生の出店が多く並んでいた。焼きそば、串焼き、綿あめといったものが売られていた。校舎の中へと入っていくと、たくさんの生徒たちが自作の看板を持ち、自分たちのクラスの出し物を宣伝してまわっている。あっという間に校舎の中も人でいっぱいになり、待機列のできる教室が出てきた。それは布由たちの教室でも起きていた。
「布由ちゃん、教室の外行列できてるよ!」
「まだ開店前なのにすごいね」
フェルアと布由は教室のドアの隙間から廊下をちらりと覗く。そして準備が整い、教室のドアを開けると廊下で待っていた人達が続々と教室の中へ入っていった。
「お帰りなさいませ、ようこそメイド喫茶へ!」
開店した瞬間、あっという間に席は埋まり、次々と料理の注文が入った。やはり注文の多かった料理は手作りオムライスだった。
「フェルア、このオムライス三番の席に持って行って」
「はーい」
「凛ちゃん、四番の席にオムライス二個」
「了解」
注文の多さに厨房も、ホールもせわしなく動く。そして昼前の交代の時にはすでにオムライスは完売寸前までになっていた。午後の部で交代の布由たちは、教室を離れ四人で文化祭を回る。
「どこから回ろうか?」
布由は文化祭パンフレットを見ながら言う。
「お化け屋敷!」
「的当て!」
「屋台!」
「見ごとにばらばらだね」
「そういう布由はどこか行きたいところはあるの?」
「私はみんなで回れるんだったらなんでもいいんだけど、やっぱり甘いものを食べに行きたいかな。まぁ、とりあえず行先はじゃんけんで決めようか」
公平なるじゃんけんの結果、的当て、お化け屋敷、屋台に決まった。甘いものは屋台に行く時、食べることになった。
「一人三回、この線からこのボールをあちらの的に向かって投げてください。真ん中に当てると高得点ですよ!」
四人は説明を聞いて横一列に並び、せーのでボールを黒板に貼られた的に向かって投げる。
「お、やった真ん中だ!」
一発目で的の真ん中に当てた凛は軽くおどろき、ガッツポーズをする。
「さすが凛ちゃんだね」
続いて二球目、今度はキリカが真ん中に当てた。
「やった、当たった!」
「キリまで、真ん中に立てたの!?」
「フェルちゃん、私達も続かないと!」
「そうだね布由ちゃん!」
そして最後の三球目、まだ的の真ん中に当てれてない布由とフェルアの二人は、気合を入れて最後のボールを投げる。結果は二人とも仲良く真ん中をはずし、ボールは的の外へと落ちていった。的の真ん中に当てた凛とキリカの二人は景品としてお菓子の詰め合わせを貰った。
次に布由たちはお化け屋敷へと向かった。
「……二人ずつ入れるだって」
「どうする。誰が最初に行く?」
「私怖いの平気だから最初に行くよ」
そう言ったのはフェルアだった。
「私も平気だからフェルアと言ってくるよ」
続けて凛がそう言い、二人はお化け屋敷の中へ入っていった。
「行っちゃった」
「ところで布由は怖いの得意?」
「得意じゃないよ。キリちゃんは?」
「私もあまり得意じゃない」
そして待つこと数分後、二人が戻ってきた。
「お帰り二人とも、どうだった?」
「ん、あ、あぁ、楽しかったよ」
「居、いい感じのこ、怖さだったよね」
凛とフェルアの二人は声を震わせながらそう言った。よく見ると声だけではなく体も小刻みに震えていた。
「キリちゃんこれもしかして相当怖い奴なんじゃ……」
「怖いのが得意って言ってたあの二人があの感じって事はわたし達どうなるの……」
「次の組の方どうぞ」
お化け屋敷から帰って来た二人を見て不安を感じているとついに呼ばれてしまった。キリカと布由の二人は恐る恐る中へと入っていく。
「あの二人大丈夫かな」
数分後、出口から布由とキリカが手をつないで出てきた。
「二人とも、どうだった?……」
フェルアが聞く。
「とっても怖かった」
「とっても怖かった」
二人は口をそろえてそう言った。よほど怖かったのだろうそれ以外の感想が出てこなかった。
「屋台の方に行こうか」
「うん」
昇降口から外に出て校門の方に歩いていけばすぐに焼きそば、串焼きといった看板と屋台が見えてきた。
「ねぇ、何から食べる?」
外に出て食欲を誘う匂いを嗅いで、すっかり元気になった布由は、三人にそう聞いた。
「私、焼きそば!」
「串焼き!」
「タコ焼き!」
「じゃあ、それ全部買おう!あ、私は綿あめ食べる!」
四人はそれぞれ、食べたいものを買って、いつもの中庭へ向かった。
「やっぱりここは穴場だね私達以外、人がいないや」
「ふゆ、タコ焼き食べる?」
「食べる!」
それから四人はいつものように楽しく遅めの昼食をとる。そう、いつものように。
「ねぇ、布由……」
「どうしたのキリちゃん?」
「右目が……紅く……」
「え?」
キリカは怯えた目で布由を見る。




