第29話 秘密
フェルアが転校してきてから三日ほどが経った昼休み。布由たち四人はいつもの中庭にある、あまり人の来ない木陰で昼食を取っていた。
「いやー、こっちの学校は楽しいね」
「フェルアの前の学校はどんなとこだったの?」
「そうだね……なんていうか、私には堅苦しい、お嬢様学校だったよ」
フェルアは苦い顔をしながら言う。
「フェルちゃんがお嬢様学校に行ってたなんて以外かも」
「確かに。フェルアはお嬢様には見えないもんね」
「失礼な、こう見えてもちゃんとお嬢様だったんだから!」
そんな怪しそうな目で見る布由と凛に、フェルアは胸を張って、そう言った。
「キリちゃん、フェルちゃんがお嬢様なのって本当なの?」
「今まで言ってなかったけど本当だよ」
「ほらー、幼馴染で親友のキリがこう言ってるんだから信じてよ」
「まぁ、キリちゃんがそう言うなら信じるよ」
「もっと私を信用して!」
その後もフェルアは凛と布由に自分がお嬢様だったということを語る。そして、それに相槌を打つようにキリカが補足で説明を入れてくれる。もちろん魔法界の話や、それにまつわる話などは避けていた。
「——まぁ、これくらいかな、私の話は……ってどうしたの二人とも、そんなに目を丸くして」
フェルアが話を終えると凛と布由はまるで猫だましを喰らったかのような表情を浮かべていた。
「あーこれは、フェルが想像以上にお嬢様だったことがわかって混乱してるんだね」
「なんか、失礼じゃない?」
フェルアがはそう言って、二人に近づき指をパチンと鳴らした。
「わっ!びっくりした!」
「……フェルアってちゃんとお嬢様だったんだね。もしかしてこれからはフェルアお嬢様って呼んだ方がいい?」
「もー!凛ったら、からかってるでしょ!」
「からかってないよ、フェルアお嬢様」
「凛ー!」
にやけながらからかう凛をフェルアは追いかけまわす。その様子を布由とキリカは笑いながら眺めていた。そんなことをしていると気づけば昼休みが終わる、チャイムが流れ始めた。
今日の午後の授業は少し特殊で近々行われる、文化祭の出し物を決める時間となっていた。
「はーい、これから文化祭の出し物を決めるぞー」
そう言って気だるげそうに椅子に座っているは、布由たちの担任、小鳥遊先生だ。
「そうだ、出し物を決める前に説明しないといけないことがある。よく聞いておけ。この学校の文化祭では学年ごとに出せる飲食店には制限がある。君たち一年生は2クラスまでしか出せないから飲食店以外の案も出すように。飲食店をやりたい場合は抽選になるからな。説明は以上、あとは実行委委員の二人を中心に、自分たちで話し合って決めてくれ」
小鳥遊先生の説明が終わり、次は男女から一名ずつ選ばれた文化祭のクラス実行委委員が黒板の前に立ち、みんなの案を黒板に書きだした。
「ねぇ、キリちゃんは文化祭で何がしたい?」
「そうだね、飲食店もいいけどお化け屋敷とかも興味あるかな」
「いいね、お化け屋敷!……お化け姿のキリちゃん、ふふっ……」
布由は白い布をかぶって人を驚かすキリカの姿を想像してニヤニヤしていた。
「そういう布由は何かしたいことあるの?」
「私はねメイド喫茶とかやってみたいな。一度でいいからメイド服着てみたいんだよね」
「メイド喫茶……メイド服の布由、ふーん……」
キリカは布由のメイド服姿を想像し目を細める。
二人がそんな想像をしている間にも黒板には次々と出し物の案が書かれていた。その中にはお化け屋敷も、メイド喫茶もあった。他にも謎解き、クレープ屋、ボーリングなどの案が出ていた。
そして最終的に布由たちのクラスはメイド喫茶に決まり、抽選に外れた場合、お化け屋敷になることが決まった。
「抽選当たるといいね」
「でもまぁ、抽選外れてもそれはそれで楽しみだなぁ、文化祭」
布由とキリカは黒板に書かれたお化け屋敷とメイド喫茶を眺めながら言葉を交わした。
その日の帰り道、凛と布由と別れて森の中にある喫茶店、クロネコに帰って来たキリカとフェルアの下へ一人の魔女が訪ねてきた。
「やぁ、二人とも元気してる?」
「こんにちは、セレスナさん。今日はどうしたんですか?」
喫茶クロネコにやって来た魔女、セレスナ・クロースは、欺瞞の魔女と呼ばれておりキリカ達と親交の深い魔女である。
「あぁ、今日は魔法界の名簿から消えた人物について分かったことがあるからそれについて話に来たんだ」
魔法界の名簿から消えた人物。それは魔法界の中央魔法役所と呼ばれる場所には魔法界に住む人たちの名前が管理されている名簿があるのだがその名簿から名前が不自然に消えている存在する。それがセレスナの調べによると魔法界の凶悪犯罪者であることがわかっている。
「布由はいないの?」
セレスナは辺りを見回し布由を探す。
「いませんよ。私とフェルアだけです」
「そうか、それはよかった。いや、私的には全くよくはないが、これから話すことを聞かれる心配がないのはうれしいな」
「どういうことですか?」
「端的言うと、君たちのクラスの中にその名簿から消えた人物がいる、ということが分かった」
「え?」
キリカがそう困惑するのも当然だろう。まさか魔法界の凶悪犯罪者が自分たちの通う学校、それも自分たちのクラスの中にいるだなんて思いうもしなかったのだから。
「もちろんこれを冗談で言ってるわけじゃない」
「その、名前はまだ分かってないんですか?」
「あぁ、それはまだ分かっていない。分かったらすぐに連絡するよ。くれぐれも自分たちで見つけ出そうなんて考えるんじゃないよ。相手は凶悪犯罪者なんだから、何をされるかわからないからね。それと何かあった時、布由を守ってほしい」
セレスナはいつになく真剣な表情でキリカと話す。
「分かりました。布由のことはわたしに任せてください」
「頼もしいね。それじゃあ、私はこれで失礼するよ」
そう言ってセレスナは空間移動魔法を使って姿を消した。
「なんだか凄いこと聞いちゃったね」
「うん。これの話はわたし達の秘密にしよう。これから文化祭もあるしうっかり話さないようにね」
「了解」
セレスナから聞いた話を二人は胸の内に秘めておくことにした。




