第26話 魔法界
キリカを処刑から救い出して一夜が経った。布由は大樹の中にある無数の部屋の一室で目を覚ます。
「……そういえばあの後、ここに泊めて貰ったんだっけ」
布由は部屋のカーテンを開け、身支度を整え部屋を出た。
「あ、布由ちゃん。おはよう、よく眠れた?」
「おはよう、フェルアさん。おかげでよく眠れましたよ」
部屋から出るとすぐにフェルアと出会った。
「……ねぇ、ちょっと思ったことがあるんだけど。そろそろ私に対して敬語使うの止めない?」
「急にどうしたんですか」
「いや、ずっと思ってたんだよね。布由ちゃんって私にだけ敬語だなぁって」
フェルアは布由を見つめながら物寂しそうに言う。
「そう言われれば、確かにそうですね」
「あっ!ほらまた敬語になってる!もう決めた!布由ちゃん、今から私に対して敬語禁止!それから私のことはフェルって呼ぶこと!分かった?」
フェルアは布由にグッと近づき圧をかける。どうしても敬語を使ってほしくないそうだ。
「わ、分かったよ、フェル……さん」
「さんは、つけなくていい!」
「じゃあ、フェルちゃん……」
「ちゃん付けはちょっと恥ずかしいけど、まぁ、それでいいや。それじゃあ食堂に行こうか。多分キリが朝ごはん作ってくれてるはずだから」
フェルアは照れ隠しをしながら布由を食堂まで連れて行く。この大樹の中は部屋が多く迷いやすいがフェルアの案内のおかげで布由は迷わず食堂まで向かうことができた。
「ここが食堂だよ」
扉を開けるとパンの焼ける良い匂いが漂ってきた。
「布由、フェル、おはよう。今パンが焼けたから、先に座っていてね」
食堂の扉が開いた音を聞いて、厨房から顔を出したエプロンを着たキリカが言う。キリカの言う通り布由とフェルアの二人は広い食堂の中にある長机のある席に、向かい合うように座った。それからすぐにキリカが焼き立てもパンと温かいスープを作って持ってきてくれた。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
二人は手を合わせ、おいしそうに焼き立てのパンを頬張る。
「そういえばキリ、師匠たちはどこ行ったの?」
「朝早くに出かけていったよ。なんでも、名簿を確認しに行くって」
「名簿?」
「うん。私も何のことかわからないからお師匠様に聞いたんだけど、教えてくれなかったんだよね……」
お盆を持ったキリカは残念そうにそう答えた。
「だったらこの後三人で街へ遊びに行かない?」
「確かに、せっかく布由もこっちにいるもんね。どうかな布由?」
「魔法界の街……うん!行ってみたい!」
好奇心旺盛な布由は、目を輝かせキリカとフェルアと一緒に街へ行くことを決意した。そしてキリカの作った朝食を綺麗に完食し、三人は魔法界の中心部に位置する大きな街へ向かった。
「布由、見えてきたよ」
そうキリカに言われた布由の視界の先に広がるのは今まで漫画やアニメでしか見たことのない景色が広がっていた。街に入ると、あちこちに露店が出ていて、アクセサリーや雑貨、果物や野菜などがたくさん売られていた。少し空を見て見ると、当たり前のように魔法使いたちが箒に乗って空を飛んでいた。そしてなんといってもこの街で目をそらすことができないのは、やはり、一番大きな建造物である王城だろう。損あ街に入ればいやでも目に付く王城へは一般人は近づくことさえも許されない。
「すごく賑わってるね」
「魔法界じゃ、これが普通だよ。さて、布由ちゃん、まずはどこ行きたい?」
「うーん、せっかくだしもっとこの街を見て回りたいかな」
「そういう事なら案内するよ」
三人は賑わう街の中を歩き街の西側に移動した。
「おぉ!おっきな噴水だ!」
そこには普段見る噴水より二倍ほど大きな噴水があった。この街の西側の地区の半分以上の敷地が広場になっており魔法の練習ができる場所でもある。
「布由、見て」
布由が振り向くとキリカの周りに水の球体が複数漂っていた。
「わぁ、綺麗!どうやってるの?」
「この噴水から流れてる水を球体にして浮かせるの」
「キリは昔からその魔法が好きだよね」
「うん。ずっと見ていられるくらい好きだよ。それに水は色々な形に変化するからね」
そう言ってキリカは浮かせている水の球を犬や猫、鳥に変化させる。するといつの間にかキリカの周りに子供たちが集まり始めた。それからしばらく三人は集まってきた子供たちと遊んだ。そして無邪気な子供の体力の多さを知った。
「久しぶりにこんなに動いたよ」
「これが体力の差……」
「キリは運動不足な気もするけど……とりあえず、あそこに休めそうなベンチあるしちょっと休もうか。私何か飲み物買ってくるよ」
「私も一緒に行くよ」
布由とフェルアはスムージーが売っている露店へやってきた。
「魔法界にもスムージーって売ってるんだ」
「こっちだと珍しい果物のスムージーが人気だよ。なんでも、人によって味が違うんだって。飲んでみる?」
「うん、飲んでみたい」
「分かった。おじさん、幻のスムージー3つくださいな」
そして、その虹色に輝く幻のスムージーを持って、二人はキリカのところへ戻った。
「ただいまーキリちゃん」
「おかえり……って、その手に持ってるその虹色の飲み物は何?」
キリカは不思議そうに布由が手に持つ幻のスムージーを見る。
「飲む人によって味が変わる幻のスムージーなんだって」
「幻のスムージー?」
「あーそっか、キリが人間界へ行ってた後にできた商品だから知らないのか。まぁ、一緒に飲もうよ」
三人はそれぞれ幻のスムージーの入ったボトルを持って、「せーの」で一口、口に含む。
「甘い!」
「酸っぱっ!」
「なにこの味?」
三人はそれぞれ違った味を、味わった。キリカは甘く、フェルアは酸っぱかった。
「布由はどんな味だったの?」
「うーんよくわからなかったな。美味しんだけど、なんていうか、いろんな味が混ざり合ってる感じ?がする」
布由は難しい顔をしながらもう一口飲む。だがやはり甘いや酸っぱいだけじゃない不思議な味がする。
「いったいどういう原理で味が決まってるんだろうね」
「それがわからないから幻なんじゃない?」
「そういうものなのかなぁ」
そう言ってキリカとフェルアもスムージーを飲む。そして日が傾き始めた頃三人は大樹へ帰った。
「えー、布由ちゃんもう帰っちゃうの?」
人間界へ帰る布由をフェルアは引き留めようとする。
「うん。夏休みの宿題がまだ終わってないからね。それにお母さんも心配してるかもしれないし」
「そっかぁ……」
フェルアは少し残念そうにする。
「それじゃあフェル、私は布由を人間界に送っていくから、私が帰ってくるまで留守番よろしくね」
「うん、任せて」
「フェルちゃん、また遊ぼうね」
そして布由は、キリカが跨っている箒の後ろに乗り人間界へ帰っていった。こうして長く続いた夏休みも、もうじき終りを迎えるのだった。




