第25話 禁忌魔法
「あぁ、もう間もなく罪人が転送されてくるぞ」
男はワクワクしながら処刑台天井の魔法陣を眺め、不気味な笑みを浮かべている。それを見た布由はひどく恐怖した。
「……どうかしてる」
「どうかしてるだと?なぜそう思う。これから処刑されるのは、使えば国が、世界が滅びかねない禁忌魔法を創った犯罪者なのだぞ」
「キリちゃんはそんなことしない!」
「なぜそう言い切れる?」
「あなたよりキリちゃんのことを知ってる。キリちゃんは誰にでも優しくて、作ってくれる料理は全部美味しくて、そして誰よりも魔法が好きなのをわたしは知ってるから」
男に対して恐怖より怒りが勝った布由は、こぶしを強く握りそう言い放った。
「だがお嬢ちゃんに何ができる?もし、ここから助け出そうなんて甘い考えを持っているのなら今すぐその考えを捨てるんだな」
「捨てない、ここを出て絶対に助ける。だってそう約束したから……」
「そうか……だが残念だ、残り十分ほどで魔法陣の起動が完了し、強制転送され、すぐに処刑が執行する。それまでに救えるといいな。あぁ、それと忠告だ。この建物には魔法を使えなくさせる結界が張られているといったが、ここにいる魔法警備隊はその影響を受けることはない。だから大人しくここにいる方が賢明だと思うがね」
男は余裕そうな表情で布由を見る。そして布由はそんな男を横目に急いで部屋から出る。すると持っていた魔水晶が光、セレスナの声が聞こえてきた。
『布由、聞こえてる?』
『セレスナさん!?無事だったんですね』
『あぁ、多少トラブルに見舞われたけどこちらは無事だ。セルリアも無事みたいだがフェルアちゃんと連絡が取れないんだけど何か知ってる?』
『……魔法警備隊に捕まってキリちゃんと一緒に処刑されるそうです……それとキリちゃんが転送されるまで残り十分だそうです』
『分かった。まずはフェルアちゃんを助けに行こう。多分フェルアちゃんは地下の牢獄にいるはずだからまずはそこで合流して』
『了解です』
布由はセレスナの指示に従い地下牢に続く階段を見つけようと廊下を走っていると、正面から同じく走ってくる黒いローブを深くかぶった少女とすれ違った。
「布由ちゃん?」
少女は振り向き布由の名前を呼ぶ。その聞き覚えのある声に布由は立ち止まった。そして少女はゆっくり布由に近づく。
「やっぱり布由ちゃんだ!」
「フェルアさん!?」
フェルアは布由の顔を確認すると、うれしさのあまり布由に抱き着いた。
「良かった無事だったんですね」
「何とかね。キリから貰ったこのローブが無かったらどうなってたかわからないよ」
フェルアは来ているローブの袖を見てそう言う。
「ところで布由ちゃんはこんなところで何してたの?地下牢の方に向かって走ってたけど」
「フェルアさんが捕らえられているから……って、どうやって牢屋から出てきたんですか!」
「あー、そのことなんだけど、クロに助けてもらったんだ」
フェルアがそう言うと、フェルアの着る服の胸元からキリカの使い魔、黒猫のクロがちらりと顔を見せる。
「クロ!なんでここに……」
「ずっとついてきてたみたい。でもそのおかげで地下牢から逃げ出せたからね」
「そうだったんだ。とりあえずセレスナさんに報告しとかないと」
布由は魔水晶を取り出してセレスナと連絡を始める。
『セレスナさん、フェルアさんと合流できました。もう牢からは抜け出してます』
『おぉ、早かったね。ならそのまま二人処刑台まで向かって。結界のことは私達に任せればいい』
『分かりました』
セレスナへの連絡を終えた布由はフェルアと共に処刑台のある五階に向かった。道中には魔法警備隊が多数巡回していたがクロが魔法警備隊の少ない道を案内してくれたおかげで難なくたどり着くことができた。
「あの扉の先が処刑台……」
「何とかして扉の前にいる警備隊を離れさせないと」
二人は階段を上がった先の物陰に隠れて、扉の前の魔法警備隊の様子をうかがっていた。すると何かの気配を感じ取ったのか、クロの耳がピクリと動き、布由たちが上がってきた階段の方を毛を逆立てながら威嚇する。
「突然部屋から出て行ったと思えば、そこで何をしているのかな?お嬢さん」
そう声が聞こえ、布由が階段の方を向くと、あの男が部下らしき魔法警備隊数人を連れてそこに立っていた。
「おや、地下牢から脱走したと報告があった囚人も一緒にいたのか。まさか自ら処刑台に向かおうとはな」
「布由ちゃん、あれ誰なの」
「私としたことが、自己紹介がまだだったか。私は魔法警備隊隊長兼、この処刑場の所長を務めるネイディス・ケオルトだ」
男がそう名乗ると、男の後ろに控えていた魔法警備隊が布由たちを囲む。
「その二人を処刑台に通してやれ。どうやら死にたいらしい」
布由たちは魔法警備隊に連れられ処刑台の上に連れてこられた。
「あと三十秒ほどでキリノルワが転送される。お嬢ちゃんたちにはキリノルワが真っ逆さまに黒炎に落ちる様を目に焼き付けてもらう。そしてそのあとはお嬢ちゃんたちの番だ。あぁ、楽しみだ……」
ネイディスは満面の笑みを浮かべる。二人は自由を奪われてはいないが、両端には魔法警備隊が杖を構え控えているため、怪しい動きをすればすぐにでも魔法を放たれるか、立っている床が消えるだろう。だから今はただセレスナとセルリアがこの処刑所に貼られてある魔法を使えなくさせる結界を破壊してくれるのを信じて待つしかできない。だが無情にも時間は過ぎる。
「さぁ、残り五秒で処刑執行だ。目を離すんじゃないぞ……」
そしてネイディスによるカウントダウンが始まった。
「3、2,1……」
そしてその瞬間天井の魔法陣が起動し、キリカが転送されたと同時に轟音が響き、建物が揺れた。
「なんだ一体!」
『布由、結界破壊したよ!』
魔水晶からセレスナの声が聞こえた。それを聞いた布由とフェルアは杖を取り出し、布由は目を閉じて真っ逆さまに落下していくキリカを追うように飛び降り、フェルアは魔法警備隊に向かって素早く雷魔法を打ち込んだ。
「お願い届いて……ルワトレイル!」
布由の放った魔法、ルワトレイルは対象を宙に浮かせる魔法だ。その魔法で見事にキリカを空中に浮かせることができた。ただ布由自身は浮くことができずに落下してしまう。
(あぁ、ごめんねキリちゃん……私、もう……)
布由がそのまま落下して死を覚悟して目を閉じたその時、ピタリと布由の身体は空中で停止した。それだけじゃない、黒炎すらも止まっていた。
「間に合ってよかった」
そんな優しい声が聞こえ、布由が目を開けるとそこには杖を構えたキリカが立っていた。
「キリちゃん?なんで私浮いて……」
「私が浮かせてるの。禁忌魔法【スペルトスレイ】を使ってね」
そう言ってキリカは布由の手を取り抱き寄せる。
「とりあえず上に行こう」
キリカはそのまま空中を螺旋階段を上るように歩く。そして処刑台まで上ると、突如動きが止まった魔法警備隊とネイディスに困惑しているフェルアがいた。
「ちょっと、キリ一体どうなってるのこれ!急に相手の動きが止まって石像みたいに動かなくなっちゃったんだけど」
「動きが止まってるんじゃなくて極限まで遅くなってるだけだよ」
「極限まで遅く?」
「そう。まぁ、詳しいことはここを出てからにしよう。クロ、いるんでしょ?」
キリカがクロを呼ぶと階段の方から足音も立てないで駆け寄ってきた。
「クロ、悪いけどこの建物にいる人たちの記憶から私たちに関する事だけを消しておいて」
キリカの命令にクロは「にゃーん」と鳴いて答える。
「さぁ、ここから出ようか。……それとふたりとも、私を助けに来てくれてありがとう」
キリカは心からの感謝を伝えると。布由とフェルアは堪えていた涙があふれ出してしまった。




